第13話 どう考えるか

「今では、白い肌と黒髪ビバリア用に日焼け防止のための軟膏なんこうが作られたから、これまで黒い肌と白髪リバビアだけがしていた仕事も、白い肌と黒髪ビバリアがしていてね。だから、お互い手を取り合って自分が得意とすることを仕事にしているのよ」


 ここにきて、ようやくサリーが口を開く。

 もしかすると、建国の歴史はシラムが話すと決めていたのかもしれないとエシャは思った。


「素敵なことですね。ぼくの国も同じです。得意な人が、得意なことを仕事にしています。そして、今日の誰かの笑顔のために、自分の技術を他者にかしています」


 サリーはにこっと笑ったが、すぐにその笑みを引っ込めて、自分の胸の前にきゅっと拳を作った。


「でも、他の国は大昔のことを引きずっていて、白い肌と黒髪ビバリアの祖である『ターク』の血を引く者を許していないのよ……」

「だから、王子として俺が出て行くと喧嘩になってしまう」


 シラムが静かに言った。

 彼はアークの国の人である。それでも、その見た目から「ターク」という民族の血を引いていると見られ、差別の対象にされてしまうのだろう。


「そんな……」


 エシャが悲しそうに言うと、サリーはシラムの傍によって、そっと弟の肩を抱いた。


「シラムはこの国では族長の子であるし、シラムなりに人々のためになるように仕事をしている。だけど、他の国からは『ターク』の血を引く者としてしか見られていなくて、差別の対象なの。そしてそれは、この国に住む白い肌と黒髪ビバリアも同じ。だから、私たちは、アークの国に住む者を同じ国の人間として認めないのであれば、取引できないと突っぱねてきた。そのお陰で、他の国と戦うことになってしまったのだけど……」

「そうだったんですね……」


 ここに住んでいて、共に文化を共有してきた者たちにもかかわらず、肌と髪の色が持つ過去のために、他国の人々の中では白い肌と黒髪ビバリアをアークの国の人々と認めていない。

 それは、アークの国の人にとっては怖いことである。

 大事にしている仲間が、外の人々と繋がることで危険な目に遭うくらいなら戦うことも辞さないということだろう。


 戦うことが嫌いな王を持つ、彩の国の民であるエシャは、人の世は本当に複雑で難しいと、ひりひりとするほど感じた。 


「エシャ……」

「はい?」


 シラムに呼ばれて、エシャは顔を上げる。するとシラムは真剣な表情で、エシャを見ていた。


「お前はどう考える?」

「え……?」

「俺たちは、俺たちの知識を活かして、エシャたちの国と対等に取引したい。それをお前はできると言えるか? ほかの国のように、俺たちをしいたげ、おかしいと馬鹿にし、ときには国へ攻め入って大切なものを奪おうとはしないか? 白い肌と黒髪ビバリア黒い肌と白髪リバビアは別の民族だと言いはしないか?」


 シラムは、この国の王子としてエシャに尋ねていた。


 友好な国を持つことは、アークの国も必要であることは分かっている。何か困ったことがあったとき、助け合える力があるのは重要なことだ。


 だが、他の国では白い肌と黒髪ビバリアの祖先である「ターク」を持ち出されて、対等なやり取りができない。だからこそ、幾度となくいくさをせざるを得なかった。


 しかし、今目の前にいるのは、草原にある国の中でもこれまで取引をしたことがない「いろどりの国」。


 そして彼らは見極めようとしている。


 エシャの後ろにある「彩の国」という国が、アークの国にとって、手を取れる相手かどうかを――。


 エシャは、乾いた大地に吹く強い風の中で、小さく息をはくと、サリーとシラムをしっかりと見て言った。

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