第12話 助けた者と、助けられた者
「え……?」
エシャは、きゅっと
もちろん、個々人の間で問題が起きて
シラムはエシャの表情を静かにみながら、話を続けた。
「大昔、
「北の大地、ですか……?」
シラムはこくりとうなずく。
「『ターク』は厳しい寒さから逃れるように、この地へやって来た。彼らは冬の寒さを乗り切るほどの知恵を持ち、人々を統率する力も持っていたから、それらを用いて、平原にいた小さな集団を少しずつ大きく統合していったんだよ。そのほうが、文化も発展したし、人々の生活が楽になることを知っていたからだ。だが、そのとき褐色の肌や黄色の肌の者たちの扱いが、あまりよくなかったという」
「どうしてですか……?」
エシャの問いに、シラムはゆっくりと首を横に振った。
「詳しくは分からない。ただ『ターク』は、日差しに弱い肌をしていたために、外での作業が苦手で、それを褐色の肌や黄色の肌の者たちにやってもらっていたみたいなんだ。しかし、その労働の仕方が、まるで奴隷のようだったと聞く」
「……」
「それで、『ターク』が平原に来て二百年ほど経ったころ、褐色の肌や黄色の肌の者たちが怒って、『ターク』の中でもその土地を統治……、いや、支配していた者たちを
あまりにもむごい話で、エシャはもちろん、そばで聞いていたルーンも息を
だが、語るシラムも、傍で聞いているサリーも一切表情を変えない。
エシャとあまり
シラムは淡々と話を続けた。
「当然、統治していた『ターク』たちは混乱し、逃げ
エシャは顔を
何と言っていいのか、言うべき言葉が見つからない。
『ターク』がしたことはよくないことなのは分かるが、一方で、褐色の肌や黄色の肌の者たちが、仕返しのため、『ターク』たちにむごい扱いをするのは間違っているように思ったからである。
人間は嫌なことをされたら、相手にも同じような仕打ちをしたくなるところを持っているが、それを続けていたらいつまで経っても戦い続けることになる。
しかし、理屈ではない感情の部分を考えると、容易に
「……」
黙ってしまったエシャに、シラムが何を思ったのかは分からないが、彼は赤く乾いた大地に吹く風を感じると、話を再開した。
「だが、『ターク』の一部には、褐色の肌や黄色の肌の者たちと、仲良くしていた者たちもいた。そのため、騒ぎを知った褐色の肌や黄色の肌の者たちが、『ターク』を逃がしてくれたんだよ」
「そう……、なんですね……」
エシャは内心、少しだけほっとする。
「ああ。混乱から、命からがら逃げだせたのはよかった。だけど、何もない平原に放り出されてしまったんだんだ」
「……」
「そのときに、『ターク』と黒い肌と白髪の民族『アイン』が出会った」
エシャははっと顔を上げると、シラムは、肌が黒く、白い髪を風になびかせる、姉のサリーを見ていた。
「『アイン』たちには、『困っている者を助ける』という信条を持っていてね。それで手を差し伸べてくれたんだよ。ただ逃げ延びた『ターク』たちも、ただ助けられてはいけないと思った。彼らの仲間がしてきたことは、やはりいけなかったことだと思うから。そのため、逃げてきた『ターク』たちは自分たちについて、正直に『アイン』に話したんだ。すると、彼らは『分かった』と言って助けてくれた」
「優しい人たちだったんですね……」
エシャが
「そうだね。優しくて
「……」
「そして『ターク』が住むところを、彼らは提供してくれたんだ。さらに、『ターク』が外で働くのが苦手であることを伝えると、『アイン』が助けてくれた。そのうちに『ターク』たちは、『アイン』に恩返しをするために、『アイン』が忙しくてできないことを、代わりにやるようになった。医療や建築の設計、あとは歴史の著述、その中には『黒い色の筆記液』も入っている」
「そうなんですね」
「そして、俺たちは『アイン』と『ターク』の名を取って、『アークの国』を建国し、そして『ビバリビア』から、
エシャはそこまで聞いて、「アークの国」がどのように作られたのかということがようやく分かったのだった。
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