最終話 必ず結ばれるから
件の話し合いの結果の末、なんとか早苗川さんを説得することができた俺と八女先生。
一時はどうなることかと思ったが、彼女は瑠衣と俺が写っている写真の元データを編集し、上手くキスしていないようなものに作り変えてくれた。
正直なところ、編集でここまでできるのか、と思えるレベルだ。
翌日、八女先生経由で俺はその写真を見せてもらったのだが、あまりの技術力に恐怖したと言っていい。
驚き、しばらく空いた口が塞がらなかった。
何でもありです。編集さえすれば写真なんて。
「失礼します」
とまあ、そんな予想してもいなかった展開になり、事態は急速に良い方向へ向かっていった。
編集した写真を八女先生から教頭先生たち、その他先生方へ紙データとして見てもらい、
『今回の件は早苗川琴美の撮影写真編集による事実歪曲です。本当の撮影写真はこちらになります』
という風に報告してもらった。
その後も色々と八女先生への事実追求や、撮影者である早苗川さん、俺、瑠衣姉も呼び出され、圧を掛けられながらの質問を受けたが、結果として俺たちは無罪。
瑠衣姉の教職生命が終わるような運びにはならず、学校にも残ることができるようだった。
畑中さんたちにも感謝しなきゃいけない。
早苗川さんのことを伝えると、呆気なさそうに笑っていたけれど、精神的に助けられたのは事実。
俺は彼女らにも礼を言い、これからも仲良くしてくれるよう頭を下げた。
すべてがなんとか上手く整った感じ。
あとは俺がきちんとこの関係についてまとめきれば完璧だ。
一人の先生から呼び出され、放課後の時間だが、指定された空き教室の扉を開ける。
「……りん君……」
そこには俺の好きな人がいた。
瑠衣姉。
彼女は教室の窓を開け、その近くで佇んでいたが、ゆっくりとこっちへ振り向いてくれる。
相変わらず綺麗だった。
再会してから何度も見てきてたはずなのに、今更ながらそう思う。
疑うはずもない。
俺の憧れの人だ。
「きょ、今日も一日中お疲れ、瑠衣姉。写真の件は丸く収まったけど、どうだった? 何もなかった?」
「うん。何も。全部八女先生や畑中さん、それにりん君のおかげ。それに早苗川さんだって」
「早苗川さんは違くない? あの人は最終的に協力してくれたけどさ、元はこの問題を起こした張本人だよ? 感謝するのはなんか変だよ」
「変じゃないよ。そもそも、学校でりん君にキスした私が悪いんだもん。彼女は彼女なりに抱えてたものがあったんだから、こうなるのは仕方なかったんだし」
俺はため息をついた。
深々と。
「ほんとお人好しなんだから。怒っていいところは怒っていいんだよ? これは怒るところだし」
「無理無理。私、怒るの苦手だから」
楽しげに笑いながら言う瑠衣姉。
まったくだ。
こんなんだから……俺はこの人を放っておけない。
「それで? 今日俺をここへ呼び出した理由は?」
「あ、うん。一応報告があって」
「報告?」
妙なタイミングだ。
もう何も問題はないはずだけど。
「私、ゴールデンウィークまで謹慎になっちゃいました」
「え!?」
何で!?
そんな言葉が文字になって口から出ていきそうだ。
俺は強い疑問符を浮かべることしかできなかった。本当に何でだ。
「えっとね、一応無実なのは無実なんだけど、混乱を巻き起こしたこと、学校全体に勘違いと誤解を生ませたこと、その誤解を解くための時間が必要だってことで、しばらく出勤停止になっちゃった。あ、あはは……」
「あはは、じゃないよ! 笑ってる場合!? じゃ、じゃあその間の生活とかどうすんの!?」
「そこは大丈夫。1ヶ月くらいだし、貯金もちゃんとあるから」
「え、えぇぇ……?」
歯痒い気持ちになる。
謹慎させる理由が理由だ。
本当あの教頭ふざけてる。
いくら何でもそこまでする必要ないだろうが。
「……でも瑠衣姉、それ本当に大丈夫?」
「?」
「もし謹慎が明けて職場復帰したとして、周りの先生たちとの関係にヒビとか入ってたり……」
「え。なになに? りん君、もしかしてそこまでお姉ちゃんのこと心配してくれるの? 優しい」
この人は……。
呆れつつ、俺は返す。
「そりゃそうでしょうに。好きな人が苦しんでるところとか見たくないし……」
言ってハッとした。
反射的に口を押さえる。
……が、向かい合ってる瑠衣姉は頬を朱に染めながら、けれどもからかうようなニヤニヤを止めずに俺の方へ顔を近づけてきた。
「ん〜? 今、何て言ったかな〜?」
「ばっ……! だ、だからそういうの学校でしたらまた……!」
「ふふふっ。そうだね、そうだよね〜。うふふふっ」
幸せそうに頬へ手をやって笑み、風のせいで揺れる髪の毛を押さえる彼女。
本当にやれやれだ。
まったくもって反省してない。
「ほんと……! 本当に……!」
でも、もしかしたら反省してないのは俺もかもしれない。
頭をぐしゃぐしゃと掻き、背後を確認。
本当に入念に誰もいないのを見てから、俺は瑠衣姉をヒラヒラしているカーテンの中へ強引に連れ込んだ。
「きゃっ!」
瑠衣姉のわざとらしい悲鳴が小さく教室内に響く。
「しー……。静かに。誰にも見つかっちゃダメなんだから。今度こそ」
「……りん君もりん君だよ……本当に」
それは間違いない。
俺も俺だ。
自分で反省しながら、瑠衣姉の唇に自らの唇を重ねた。
キス。
俺たちは放課後、誰もいない空き教室で想いを伝え合うのだった。
●◯●◯●◯●
仮にもしも。
もしもだ。
好きな人がいるとして、その彼女に想いを伝えられない身分だとしても。
その恋はいつか叶うものなのだと信じていたい。
信じるのはタダだ。
叶わなかったとしても、巡り巡っていつかまたその人に会えるかもしれないのだから。
「ねぇ、パパー! 早くこっち来て遊ぼー! ママ待ってるよー!」
「あぁ、はいはーい! 今行くからなー!」
終わり
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