第27話 名案?

『りん君……本当にごめん……私、学校に居られなくなっちゃいそう……』


 涙ながらにそう訴えてくる瑠衣姉。


 それは、あまりにも事態の深刻さを物語っていて、思わず言葉を失ってしまうほどだった。


 冗談とかではない。


 本当に瑠衣姉は、今ヤバい状況にある。


 それが理解できて、かいていた汗がひんやりとしたものになった。


 いったい、俺はどうしたらいいのか。何ができるのか。


「る、瑠衣姉、でもそれ、まだ確定とかじゃないよね……? 学校に居られなくなるって……」


『確定……まではいってない。だけど……教頭先生とか……他の先生からはもう……』


「っ……」


 やめてしまえ、という圧を受けているってことだ。


 無理もない。


 卒業したならまだしも、俺は在学中。


 当たり前の反応といえば当たり前の反応か。


 わかってはいたけど、ここまで予想通りのことをされると、それはそれできついものがある。


 もう少し寛容に……なんてのは俺たちの都合でしかない。色々と無理があるか。


「……わかった。とりあえず今はそれだけ聞けてよかった。瑠衣姉はまだ今のところ辞めさせられてはないんだ」


『……うん。まだ……だけど』


「いいよ。大丈夫。俺がどうにかしてみる。やれることはやって」


『本当に……ごめんね……りん君……』


「そんなに謝んないで。ていうか、早く家に帰って来てよ。俺、今瑠衣姉のアパートの前にいるんだ。会ってちゃんと話したいよ」


『そ、そうなの……? うん。わかった。早く……帰るね……』


「うん。お願い」


 言って、スマホの向こうからガサガサと音がする。


『とりあえず、そういうことになるね。僕からも再度謝っておく。本当にごめん、三代君。僕のせいでこんなことに……』


 電話口の相手が八女先生に変わった。


 俺は首を横に振る。


「別に八女先生からの謝罪もいりません。究極の話、悪いのは学校でキスなんかした俺の責任でもあるから。仮の恋人だからって、さすがに調子に乗り過ぎました。気を付けなきゃですね。……はは」


『仮……か。何とかそこを押せないかな? 教頭先生とか、周りの先生たちに』


「そこだけ言っても無駄じゃないですか? キスしてるのはバッチリ撮られてるわけですし」


『そ、そうかな……?』


「写真を拡大して、キスしてないようなフェイクを入れられたりしたらばっちりですけど、そんな都合のいい技術だって無いですもんね。やっぱりこの問題は別の方向からどうにかしないとダメだ」


『写真へのフェイク……か……』


「畑中さんたちも協力してくれるって言ってますし、もう声の数で押すとか、そっち系の方を考えてるんですけど、さすがに俺たちみたいなガキの主張なんて教頭先生が聞いてくれるわけも無いですもんね。頭固そうだし、あの人……」


『………………』


「……? 八女先生? どうかしました?」


 反応が無くなってしまった。


 電波が悪くなったか?


 スマホの画面を見て確認するも、どうやらそういうわけではなさそう。


 八女先生の声がまた聴こえてきた。


『いや、今少し考えていたんだ。あの写真を撮ったのは早苗川くんだったな、と』


「ですね。早苗川さんです」


『もし、彼女が写真をスマホで撮っていたのなら……そのデータを使い、編集し、無実の証明に利用することができないだろうか……?』


「……え……?」


『もちろん、まだ何の媒体で撮ったのかは確認していないよ? カメラかもしれない。ただ、今の時代、スマホさえあれば簡単に写真なんて綺麗に撮ることができるだろう? スマホを使っていてもおかしくないんだよ』


「……それは……まあ……」


『彼女は君と瑠衣ちゃんを敵視してると言っていたね?』


「あ、は、はい。です」


『じゃあ、そこは僕が急いで確認を取ってみる。そのついでに、どうしてこんなことをしたのか。僕は、別に君や瑠衣ちゃんにたぶらかされて変わろうとしたわけじゃないってことも合わせて言って』


「え、あ、ちょ、ちょっとそれなら……!」


 言いかけて、咳き込む。


 何となくだが、希望が見えたかもしれない。


 八女先生のその案は感触として悪くなかった。


 俺は呼吸を急いで整え、再び切り出す。


『大丈夫? それなら、どうかしたかい?』


「それなら、その場には俺も居合わせていいですか?」


『君も?』


「はい。なんか……これはなんとなくなんですが……彼女の気持ち、俺、わかるような気がして……」


『早苗川くんの気持ちが……?』


「い、一応まだ想像ですよ? 想像ですけど、俺が瑠衣姉に向けてた気持ちと、彼女が八女先生へ向けてた気持ち、微妙に一緒なように感じるんです。先生と早苗川さんも、昔からの知り合いですよね?」


『まあ、一応ね。家が近かったから』


 それでいて、早苗川さんのあの八女先生への心酔具合。


 どこか共感できるところがあるかもしれない。


 やっぱり、これには俺も同行したい。


「お願いします、先生。それ、俺も連れてってください。迷惑はかけないんで」


『僕は迷惑に思わないけど……早苗川くんがどう思うか』


「大丈夫です。きっと上手いことやってみせます」


『……そうかい』


 少し考えた後、八女先生は了承してくれた。


 早苗川さんへの交渉に俺が付いて行くことを。


『じゃあ、明日さっそく彼女と話をしに行こう。場所は……そうだな。生徒指導室辺りでいいかな?』


「わかりました」


『君は一人で来て欲しい。彼女は僕が連れて行くからね』


 俺は頭を縦に振った。


 八方塞がりに近い状態だったのが、希望に向けて一歩前進した気がする。


 とりあえずこのことを畑中さんにもメッセージで送り、俺は問題解決に向けて奔走するのだった。

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