第22話 何も絶望ばっかじゃない

「おおお、おい、三代! お前! お前っ! こ、この裏切り者がぁぁぁぁぁ!」

「林太ァァァァァァ! お前、俺たちと同族だと思ってたのに! 思ってたのにィィィ!」


 人々の視線を一身に受けながら、ふらつく足取りで教室に入るや否や、暴徒と化した二人が俺へ詰め寄って来る。


 目を血走らせ、歯ぎしりし、握った拳を見せつけてくる大丸と麦丘。


 こいつらがこうなった理由はハッキリしてる。


 言うまでもなく、掲示板に貼り付けてあった写真。


 俺と瑠衣姉がキスしている一枚を目にしたことが原因だ。


「おい、わかっているな!? わかっているんだろうな!? 我ら同盟の中で、裏切り者に待つ未来と言えば『死』のみだ! それをよもや忘れてなどおらんだろうなぁ!?」

「大丸ゥ! 今さらそんなこと聞いても意味ねぇ! こいつ、忘れてたんだよ! 忘れてたからこんなこと平気でできるんだ! 覚えてればきっと俺たちの顔が思い浮かぶはず! 裏切りなんてできるわけないんだよォ!」


「………………」


「「どうなんだよ、おぉい!」」


 完全に冷静さを失っている二人。


 でも、そんなのは俺も同じ話だ。


「……悪かったよ」


「んあ!? 悪かった!? いや、そうじゃなくだな!」

「お前と瑠衣先生の関係について詳しく話せと――」


「悪い」


 二人の傍を通り抜け、自分の席に着く。


 教室内はいつもと比べればあまりにも静かで、それは確実に件の写真のせいだ。


 俺の足音は、こんなにも大勢の人がいる教室で確かに聞こえ、椅子を引く音なんかはもっとだ。


 それでも、話せることなんて今はない。


 とてもじゃないが、そんな気分ではない。


 これから先のことをどうするか。


 瑠衣姉の立場を守ろうとして必死だったのに、それが意味のないものと化してしまった。


 瑠衣姉は大丈夫だろうか。


 今頃、職員室かどこかで責め立てられているかもしれない。


 俺は机の上に肘を突き、頭を抱えた。


 周りから見れば、その仕草が事の事実性と重大さを認識する材料になるんだろう。


 教室内は微かにざわめく。


 けれど、そんなの関係なく、俺はその場で頭を抱え続けた。






●〇●〇●〇●〇●






 結局、午前は瑠衣姉が俺たちのクラスに顔を出すことは無かった。


 代理の先生が担任の役割を果たす。


 どう見ても絶望的な状況。


 ……と思われたのだが、実際に一日を過ごしてみると、何もそれだけではなかった。


「ねえ、ちょっといい? 三代くん」


 昼休み。


 クラスメイトの女子、畑中はたなかさんが席に座っている俺へ声を掛けてきた。


 見れば、仲のいい女子数人を連れて来ている。


「三代くんさ、あの青山先生との写真、やっぱり作り物とかじゃないのかな……?」


「……作り物ではないよ」


 あいまいな答え方をするも、俺の返答を聞き、畑中さんの後ろにいた女子たちは顔を見合わせ、目を見開く。


 何だ。軽蔑でもしに来たのか?


「え。じゃあさ、じゃあさ、三代くんと青山先生ってやっぱりそういう関係なの? 付き合ってる、とか?」


「……付き合ってはない」


「えぇ!? 付き合ってないの!?」


 マズい。余計なこと言ったか。


 俺は焦って訂正する。


「や、付き合ってないって言っても、知らない仲でもなかったというか! 瑠衣ね……青山先生とは俺が小さい時から仲良くて……」


「そうなの!? てか今、瑠衣姉さん、みたいに言いかけたよね!?」


 女子複数人からの圧が凄い。


 それこそ大丸や麦丘に負けないくらい。


 俺は顔を逸らし、けれども嘘なんて付けず、頷いた。


「……一瞬、昔からの呼び方が出そうになった」


「「「「「キャー!」」」」」


 甲高い声を上げて騒ぎ始める畑中さんたち。


 ほんと何なのこれ……。


「めちゃめちゃエモいんですけど! アタシ、今まで三代くんのこと勘違いしてたかも! 大丸たちと一緒にいる変態かと思ってた! めちゃめちゃピュアラブじゃん!」

「ウチもウチも! 先生と生徒の禁断の恋!? えぇぇぇ……! うわぁぁぁ……!」

「めちゃ羨ましいんだが! てか、三代くん可愛すぎなんだが!」

「ねぇねぇ、もっと聞かせて聞かせて? どっち側からの矢印なん?」


「いや、その、えっと……」


「ほらほら、こっちこっち!」


「あっ、ちょっ、ひ、引っ張らないで!?」


 畑中さんに引っ張られ、俺は教室外へ連れ出される。


 いったいどこへ向かうのか。


 困惑しつつも、素直に従うしかなかった。









【作者コメ】

いやぁ、ちょうど会社の研修が入りましてこんな投稿間隔に……。

申し訳ない! なるべく早めに投げるよう意識だけはします!

話の方も重大な場面に進んで行っているのでね。

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