第14話
「それでなんでこいつらがいるんだ。」
遡ること40分前。
「じゃあちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
偶然、本屋で出会った赤崎さんと古賀さんと一緒にお昼を食べに行くことになった僕は、男一人では心細いので誰かを呼ぶことにした。
「うーん、直人君は近所にできたジムに行くっていってたから...」
先程の赤崎さんの話を聞く限り諫早さんと同じ陸上部の遥も今日は部活だろう。
「じゃあ水城君に連絡してみるけど、二人とも大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ。」
「水城ってあの眼鏡掛けた小鳥遊ってやつだっけ?姫がいいなら。」
~回想終了~
「というわけで水城君を誘ったってわけさ。」
「なにがというわけなんだ。お前が俺を巻き添えにしただけだろうが。」
水城君はため息をついて頭を抱えている。
でもしょうがないじゃん。僕、他に休日に誘えるほど仲のいい人他にいないし。
直人君は二人にできるだけ会わせたくないし。
「まあまあいいじゃん。どうせ家にいて暇だったんでしょ?」
「決めつけられるのは癪だが、まあそうだな。」
「急に呼び出してしまってすみません。やっぱりご迷惑でしたかね?」
横から赤崎さんが心配そうに水城君に聞いてくる。
僕が誘ったのに心配してくれるなんていい子だ。
「いや気にするな。それよりもこいつと女子だけにする方が心配だ。」
「失礼な!僕はいたって紳士的な会話しかしてないYO!」
「なんでラッパー風なの。」
水城君が変なことを言い出すから焦ってしまった。隣の古賀さんが冷ややかな目で見てくる。
「え、えっとそれで赤崎さんと古賀さんはどこかでお昼を食べるつもりだったの?」
「い、いえ特にお店を決めていたわけではないんですが。」
先程の水城君の発言により心なしか距離を感じる。
「どうするの。アタシあんまりこの辺詳しくないんだけど。」
「それなら俺がよく行く店はどうだ。ここからもそう遠くないしな。」
「水城君の行きつけかー。おしゃれそうだね。僕はいいよ。二人は?」
了承を取ったところ二人ともOKだということで決定した。
そこから歩くこと10分弱目的地に到着した。
「ここだ。」
着いた場所は閑静な住宅街の一角にある喫茶店だった。
「へーここが小鳥遊さんの行きつけのお店なんですね。」
「こんなところに喫茶店なんてあったんだ。」
「やっぱりおしゃれなお店だったね。えーと『喫茶Sourire』?これなんて読むんだろ?」
「スリールだな。フランス語で『微笑み』という意味らしい。」
微笑みか。なんか店の名前まで洒落てるな。
「でももうお昼時だけど席空いてるかな?」
「大丈夫だろう。立地的なこともあるだろうがこの店が満席になってることは見たことない。」
この人、自分の行きつけのお店に失礼だな。
でも、それを聞いて安心した。これ以上、赤崎さんと古賀さんを歩かせたくないしね。
カランコロンと水城君がお店のドアを開けて僕たちもその後に続く。
店内はジャズらしき音楽が流れており、テーブル席が何席かとカウンター席がある。
いかにも喫茶店って感じだが、ここを高校生が行きつけにしているって大人びてるな。
確かにお昼時にも関わらず、お客さんが僕たち以外にいない。
というより、店員も見当たらないが。
古賀さんが、
「これ本当に店開いてたの。誰もいないけど。」
と僕も思った疑問を水城君に質問する。
「心配するな。ちょっと待ってろ。」
と言うと、水城君はカウンターに置いてあったベルを鳴らす。
その音を聞いてか、店の奥から
「はいはい、らっしゃいmって水城じゃん。友達連れてるの珍しいね。」
と快活そうな美人な女性が出てきた。
恐らく年齢は二十半ばだろうか。あまり長くない髪を後ろで結び煙草を吸っている。
「仕事中に煙草を吸うな。しかもこの店禁煙じゃなかったのか。」
「いや~仕事中っていってもほら、客いないし。あと別にこの店、昔は喫煙席あったらしいし。」
そもそもあたし店長なんだから誰にも怒られないし~。と悪気がなさそうにしている。
「えっと、水城君この人は?」
「ああ、まあこんな感じだが一応この店の店長だ。」
「いぇ~い。はじめまして~。喫茶Sourireの店長してます。日吉です。ゆっくりしてってね~。」
とひらひらと手を振り、自己紹介をしてくれた。
それから水城君以外の僕たち三人も軽く自己紹介をしてテーブル席に座る。
「それじゃ、注文決まったら呼んでね。」
と言い残すと、再び店の奥に入っていってしまった。
「優しくていい人そうだったね。」
「いや何も考えてないだけだろ。」
冷たく切り捨てる水城君。そのくらい仲の良い関係性なのだろう。
「すっごい美人な人でした!」
赤崎さんはやや興奮気味だ。
「私ああいう女性に憧れます!」
「それはやめておけ、バカになるぞ。」
「そうですか?大人の余裕みたいなのがあってかっこよかったですけど。」
隣の古賀さんは
「アタシ、あの人どっかであったことあるような気が...」
あごに手を当てて考え込んでいる。
「まあこの辺田舎だし、どっかですれ違ったことあってもおかしくないよね。美人だったら尚更覚えてそうだし。」
「そうじゃなくて...まあいっか。」
とすぐに思い出すのを諦めたようだ。
それから僕たちは各々食べたいものを注文した。
「はいお待たせ。ナポリタンが二つにボンゴレパスタとサンドイッチセットね。」
それとコーヒーが二つと紅茶とオレンジジュースと。と器用に両手にお盆を乗せて注文を届けてもらった。
日吉さんは一度戻りまた何か持ってきたと思うと再びナポリタンをテーブルに置いた。
「もう頼んだものは全部届きましたけど?」
「いやいやこれあたしのだよ。ほらほら詰めて詰めて。」
と僕と水城君を奥に詰めて日吉さんも同じテーブルに座った。
「よし、それじゃ食べようか。」
「おい待て、なんで当たり前のように一緒に食べようとしてるんだ。」
「いやあたしまだお昼食べてないし。いいじゃん減るもんじゃないんだから。一緒に食べた方がご飯は美味しいんだよ?ねぇ?」
「僕は構わないですけど...」
「ぜひご一緒したいです!」
「アタシもいいよ。」
「ほらお友達もいいって言ってるよ。我儘いっちゃだめだぞ。」
「どっちが我儘だ...」
頭を抱える水城君。
彼は毎日何かしら頭を抱えてるな。
「「「「「いただきます。」」」」」
全員でお昼を食べ始める。
肝心のお味は、
「これすっごい美味しいです!」
「僕も今まで食べたナポリタンで一番おいしいかも。」
「これはすごいね。」
みんなからはかなりの好評だ。
「いや~照れるね~。」
と本人は恥ずかしそうにしている。
水城君も「まあ、料理の味は大したものだな。」と褒めている。
「来るのはジジババばっかだからさ~。若い子に美味しいって言ってもらえるとうれしいね。」
「そうなんですか?こんなに美味しかったらもっと人気でもよさそうですけど。」
「まああたしがあんまり働きたくないから宣伝とかあんまりしてないからだけど。」
ナポリタンをすすりながら言う日吉さん。
「それで四人はどういう仲なの?水城が友達連れてきたからびっくりしちゃった。」
「同じクラスなんです。さっきばったり私たちが佐倉君とあってその流れで水城君も一緒に。」
「ふーん。別に二人とも水城と付き合ってるわけじゃないんだ。」
僕と赤崎さんが同時に吹き出した。
「おい、あんまり変なことをいうな。」
「げほっげほっ、そうですよ!その...お付き合いとか私はまだ...」
と僕がむせている間に赤崎さんがか細く言った。
良かった。赤崎さんは彼氏はいないらしい。
「文乃ちゃんだっけ?君は?」
「アタシも別に恋愛とかは興味ないですね。」
「なんだ。つまんないの。」
と再びパスタをすする。
なんとなくわかってたけどこの人自由だなあ。
「いやでも、君たちが水城と仲良くしてくれてうれしいよ。」
「お前は一体俺のなんなんだ。」
「だって昔から知ってるけどさー、友達と一緒にいるとこなんて見たことないし。」
水城君と日吉さんはどうやら幼馴染というやつらしい。
こんな美人な人と幼馴染なんて羨ましいやつだ。
その後も他愛無い話(主に赤崎さんの日吉さんへの質問攻め)をした後、
「じゃあそろそろ帰ろうか。」
「そうですね。あんまり長居してもお邪魔ですし。」
「え~、他に客なんていないんだからもっとゆっくりしていけばいいのに。」
「お前はもうちょっと働け。」
ぶーぶー言っている日吉さんをあしらう水城君。
「お姉さん寂しいなー。絶対また来てね。」
「はい!絶対来ます!」
「ほどほどにしないと迷惑だからね、姫。」
赤崎さんの熱意がすごい。毎日でも通いそうな勢いだ。
じゃあねー。と店の外まで見送ってくれた日吉さんを後にする。
「もうちょっとお話ししたかったです。」
「また今度にしな。」
古賀さんに咎められ残念そうな赤崎さん。しょんぼりしていて可愛いな。
「でも、本当に美味しかったね。僕も時々行こうかな。」
「いいんじゃないか。大概ほかに客はいないしな。」
今度は直人君も一緒に誘ってあげようかな。
それじゃあまた学校でね、とみんなと別れて家路につく。
そうだ、妹にも教えてやろうと思い玄関を開け帰宅する。
「お前、Sourireって喫茶店しってr」
「アイスは?」
忘れてた。
馬鹿触れ合うも多生の縁 斉藤 輝 @saito-hikaru
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