第13話


長かった一週間も終わり今日は入学してから初めての日曜日。

正確には僕は入学してから一週間休んでいたから初めてではないのだが。


朝、リビングで某銀行マンのドラマの再放送を見ていると妹が部屋に入ってくる。


「ちょっと、テレビ見たいんだけど。」

「今お兄ちゃんが見てるということが見てわからないのか。テレビが見たいなら早く起きてくるんだな。」

「うっさい。邪魔。」

「ちょ、待って。やめてやめて、お兄ちゃん落ちちゃうから。」


妹から足蹴にされてソファーから落とされる。

妹はさっきまで僕がいた場所にアイスを手にどかっと座る。


さっきまで見ていたドラマの如く倍返しにやり返そうかとも思ったが、もしそのことがうちの頭取である母親にばれてしまうと土下座どころでは済まない。


妹が恋愛ドラマを見始めたことにより、リビングを追い出される。

自室に戻りドラマの続きが見れないことに悶々としていると携帯にメールが届いていることに気づく。


『おい!近所に新しいジムができてるぞ!ちょっと行ってみようぜ!』


直人君からのメールだったがこれはスルー。

出来たてのコンビニばりにジムに誘ってくるじゃないか。

そんな思い付きでジムに行こうとするのは直人君だけだよ。


特に家にいてもやることがないので出かけることにした。


家を出る準備をして、玄関に向かっていると妹がリビングから


「なにー?どっかいくのー?」


と声をかけてくる。


「散歩。昼飯時には帰ってくるよ。」

「じゃあアイス買ってきてくんない?お兄ちゃん。」


くっ、こういう時だけ断れないのをいいことに妹アピールしてきやがって。

くやしいので「気が向いたらな。」とかろうじて主導権はこちら側にあることをアピールする。


「さて、どこに行こうか。」


玄関を出ると、外は四月の春風が吹く暖かな天気で散歩日和だ。

休日の午前中なこともあり公園で遊んでいる子供たちや犬の散歩をしている人もちらほらと見える。


20分ほど歩くと本屋が見えたので入ってみることにする。

オタクとは欲しい本がなくても本屋に入ってうろうろしてしまう生き物なのだ。


漫画コーナーで気になる本はないかと物色していると見知った顔を店内で見かける。


「あれ?今のって赤崎さんだったような...」


すぐに棚の陰に入り見えなくなってしまったが、僕があの赤崎さんを見間違うはずがない。

プライベートな時に話し掛けるのも悪いかと思ったのだが、男女違う教室とはいえ同じクラスなので話しかけてみることにした。


「えっと、確かこっちに...」


棚を曲がると、棚に並んだ本をみてなにやら探している様子の赤崎さんを見つける。

ジーパンにTシャツとラフな格好だがまるでモデルみたいだ。

私服姿の赤崎さんに興奮冷めやらないが、なんとか気持ちを落ち着ける。


やっぱりかわいいなー。

どうやらこちらにまだ気づいていないようだ。


「こんにちは赤崎さん。」


声をかけると彼女はびくっと肩を震わせてさっと後ろに何かを隠した。


「わ、わぁ~!佐倉君奇遇ですね。こ、こんなところで何をしてるんですか?」

「こんなところって本を見てたんだけど...」


唐突な佐倉君呼びにどきっとする。

そういえば、赤崎さんも諫早さんと同じで僕の名字を勘違いしてるのか。


「えっと、なに探してたの?」

「いえ!なにもさがしてないですよ!ちょっとふらっと寄ってみただけですから!」

「そ、そう。」


すごい勢いで否定される。

明らかに様子がおかしいが顔が『これ以上聞かないで!』って顔をしているので、あまり追求はしない方がよさそうだ。

少しの沈黙の後、赤崎さんの後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。


「姫、探していた本は見つかったの?なんだっけ、『俺とお前のエデn」

「ちょっっっっと文乃ちゃんこっち来ようか!!!!」


古賀さんが赤崎さんにずるずると引きずられて棚の陰に入っていった。


「ねぇ!なんでタイトル言っちゃうの!佐倉君に聞かれるところだったでしょ!?」

「ごめんごめん。まさかブラちら男がいるとは思わなくて。」


奥でひそひそ声でなにやら二人が話している。やっぱり赤崎さんは目的の本があったようだ。

まあ先程古賀さんが口を滑らせたタイトルからしてBL的な内容なのだろうが。

というか、ここのコーナーがまさしくそうだ。

別に今時BLが好きな女の子なんて珍しくないと思うけどな。

あと赤崎さんの前でブラちら男って呼ばないでほしい。


少しして説教が終わったのか二人が出てきたが、赤崎さんがものすごく疲れた顔をして出てきた反面、古賀さんは特に悪びれた様子もなく出てきた。


古賀さんはホットパンツにオーバーサイズのTシャツというラフな格好だが、女の子にしては身長が高いためおしゃれに見える。

あと生足を出しているため目のやり場に困るな。


「昨日ぶり、えn...佐倉。」


古賀さんは僕の名字を知っているので榎本と呼ぼうとしたが、赤崎さんが佐倉呼びしていたのを察して名前で呼んでくれた。

正直、女の子に名前呼びされる経験がゼロに等しいのでドキドキする。


「それで、あんたも本を買いに来たの?」

「いや、僕は散歩の途中で寄ってみただけで欲しい本があったわけじゃないよ。」

「へー、佐倉君って散歩好きなんですか?ちょっと意外です。」


赤崎さんが感心したように言ってくれる。

妹にテレビを取られて暇だからぶらついてるとは言えない。


「古賀さんも何か買ったの?」

「アタシは姫についてきただけだから。寝てたら起こされたんだよね。」

「うぅ...ごめんね。一人だとちょっと寂しくて...真理ちゃんも部活だったから...」

「いいよ暇だったし。」


この二人は休日に一緒に遊ぶほど仲が良かったのか。ぱっと見タイプが違うからちょっと意外だ。

そんなこんなでBLコーナー前で女子二人とお話しするという傍から見ると一風変わった光景だが、少しすると赤崎さんが何か思いついたようにハッとする。


「あっそうだ!佐倉君ってこの後予定あったりしますか?」

「いや、この後もちょっとその辺り散歩しようかなと思ってただけだけど。」

「もしよかったら私達この後、お昼にしようとしてたんですがご一緒にどうですか?」

なんと昼食に誘われてしまった!

妹にテレビを占領されてふらっと始めた散歩だが結果的に感謝する結果になってしまった。

妹よ。アイスちゃんと買ってきてやるからな。


「えっと、誘ってもらってうれしいんだけど古賀さんは大丈夫なの?僕が急に参加しても。」

「まあ、いいんじゃない?姫が誘ったんなら。」


古賀さんはどっちでもいいって感じだ。


「でも大丈夫なの?女子二人に男一人って気まずいもんだと思うけど。」

「やっぱりご迷惑でしたかね?」


古賀さんの言葉に赤崎さんがしゅんとする。

すこし可哀そうに思うけど、しょげてる赤崎さんもかわいいなー。


「僕はあんまり気にしないけど。」


確かに彼女たちも急に野郎が一人混ざったらやりづらいと思うので代替案を出すことにする。


「じゃあちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」

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