第11話
「そうか、そんなことがあったのか。」
「それは大変だったね...」
本日の授業も終わり、現在帰りのHR前の空き時間。
体育の時間にあったことを水城君と遥に話していた。
「なんとか勝ったが、まさか女相手にあそこまで苦戦するとは思わなかったぜ。」
「うん、ほんとにね。」
体育の授業であんな白熱した試合がみれるとは思わなかった。
半分は男女の自己紹介を兼ねていたのに最後の方なんてみんな直人君と諫早さんの試合を応援していた。
勝った直人君は片腕を空に突き出してまるで世紀末覇者拳王のようだった。
なんかその後、お互い認め合ったのか知らないけど握手してたし。
ちなみに苅田先生は感動したのか目頭を押さえていた。
「女子相手にあそこまで苦戦するとは、お前の筋肉はやはり見せかけみたいだな。」
「あんだとてめぇ!あれはバドミントンっていう競技性が良くなかっただけ!もっとパワーを競う競技だったら圧勝だかんな!アームレスリングとか!」
女子相手に腕相撲で勝って彼は満足なのだろうか。
それで歓喜している友人、僕見てられないんだけど。
毎度恒例となっている二人の喧嘩を遥と二人でなだめながら今度は水城君と遥のペアについて聞いてみる。
「二人の相手はどんな人だったの?」
二人とも出席番号が僕たちよりも後ろだったため相手が見れていないから気になる。
特に水城君は男女合同でやることにあまり前向きではなかったはずだ。
「案外悪くなかったな。あの時みたいなやつじゃなくて助かった。」
「僕の相手は陸上部だったんだよね。初対面じゃなかったから普通に楽しかったよ。」
どうやら二人とも楽しめたようだ。水城君が言っている『あの時』とは食堂での出来事のことだろう。
どうやら水城君の相手はイケメンにキャーキャー言うような子ではなかったようだ。
そうこうしているうちに担任のちーちゃんが教室に入ってくる。
「HRを始めるぞー。おいそこ、そのグラビア雑誌を片付けろ。ん?私か?私は右から二番目の子がかわいいと思うな。胸が一番でかいし。」
女の子の好みがおっさんとなんら変わんないんだけど。
「えー、ちーちゃん巨乳好きなのかよー。わかってねぇなー」
「わかってないのはお前らだ。ていうか今日からアイ〇ナのイベントが始まるんだから早くHR始めるぞ。私は一刻も早く帰りたいんだ。」
この人よく教師になれたな。
なんて残念な美人なんだ。僕と初めて会ったときのあのできる女感はどこいっちゃったんだ。
騒がしかったクラスメイト達も徐々に静かになり、本日のHRは終了した。
「おい、今日はどこ行くよ。」
直人君が振り向いて僕たち三人に問いかける。
「えっ、どっか行く予定だったの?僕はまぁ暇だからいいけど。」
「そもそも何で帰りにどこか行く前提なんだ。」
「僕はこの後部活があるから遠慮しようかな。ごめんね。」
三者三様の答えが返ってくる。別に約束してるわけではなかったのか。
「遥は部活か、ならしゃあねぇな。うっし、じゃあとりあえずバッセンでも行くか。」
「バッティングセンターはとりあえずで行くところじゃないと思うけど。」
「おい待て、なんで行くことは決定してるんだ。」
隣で水城君がブーブー言っているが僕も直人君も無視している。
どうせ文句言いながらもついてくるでしょ。いざとなったらたこ焼きで黙らせればいいし。
「いいなー、僕も行きたかったな。次も絶対誘ってよね!」
遥もどうやら一緒に行きたかったようだ。
あとあんまり可愛く言わないでほしい。ドキドキするから。
HR終了後、だんだんと教室から人も少なくなる中、遥の部活が始まるまで喋っているとちーちゃんが教室に残っている人たちに
「あー、誰か時間あるやついるか?ちょっと荷物があるから運んでほしいんだけど。」
と問いかける。
教室で僕たちの他にも何人か喋っていた人もいたが、面倒事を感じたのか雲の子を散らすように走り去っていった。
そして、唯一教室に残った僕たちに話しかける。
「まったく。可愛くないやつらめ。お前らは暇そうだな。誰かひとり手伝ってくれないか?」
「ちーちゃん、オレたちは今青春の真っ最中なんだよ。水を差さねぇでくれるか。」
「お前らの青春なんぞ知らん。そもそもお前らの青春は私達(教師)の残業のもとに成り立っているんだからお前らは私のお願いを聞くべきだろう。」
そんな暴論を振りかざすちーちゃん。僕は絶対推しのゲームがしたいから早く帰りたいだけだと思うけど。
「じゃあ誰かひとり手伝え。」
「荷物持ちなら直人君が適任じゃない?その筋肉の使い時だよ。」
「オレは絶対嫌だ!教師の手伝いなんてこのお利口眼鏡にでもさせろよ!」
「お前が一番暇なんだからすればいいだろ。よかったじゃないか放課後の予定ができて。」
「僕はほら、部活があるからこれで失礼するね!」
醜い押し付け合いが行われているなかで遥はそそくさと「先生さよならー」と教室から出て行った。
「誰でもいいから早く決めろ。じゃあ、じゃんけんしろ。じゃんけん。ほら行くぞ。」
と自分勝手な掛け声にもほぼ反射的に手を出してしまうのが人間の性。
「「「じーゃんけーん」」」
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