第10話・前編
青い空、白い雲
ヒュオンッ!
僕の頬を音を立てて掠めていシャトル
「ッ!」
ズキリと頬が痛み、赤い液体がツーと垂れてくる。どうやら頬が切れたらしい。
かすっただけでこの威力って...
顔面に直撃したことを考えるだけで冷汗が出てくる。
「あんたみたいな危険人物、あの子に近づけさせるわけにはいかないわよ。」
バドミントンのシャトルで流血させられる人の方がよっぽど危険人物だと思う。
僕は今日、生きて下校できるのだろうか。
そう、今は男女合同の体育の真っ最中で僕たちはバドミントンを楽しんでいた。
授業開始前に出席番号順で整列しているクラス一同。
男子は楽しみだからか、すでに大方揃っているが、女子はまだ来ていないようだ。
「おい、榎本。俺たちと一緒の1-Bはかなりの美人揃いらしいぜ。」
授業開始前に出席番号順で整列中、後ろから話しかけてくる彼は小倉君。
ちなみに牛乳の中身が入ったままゴミ箱に捨てていた(通称1-B牛乳汚染事件)犯人は彼だ。
「でも合同って言っても、どういう形式でするんだろうね。まだお互い顔も見たことないのに。」
「男女別れてやるわけじゃねぇだろうしな。それなら合同体育の意味ねぇし。」
僕の前の直人君が会話に混ざる。半袖の体操服をまくってタンクトップスタイルだ。
ていうかすごい体操服がパツパツだ。力んだらはじけるのではないだろうか。
「おい!女子が来たぞ!」
誰かが声を出した。
見ると女子の集団がぞろぞろと体育館に入ってきているところだった。
おぉ!確かにすごい美人揃いだ!
クラスの男子から感嘆の声が漏れている。どうやらみんな同じ気持ちのようだ。
「やっぱり噂通りだったな!榎本、俺は絶対お近づきになるぜ!」
小倉君も興奮冷めやらぬようだ。若干キモイ。
「よーし、全員そろったな。それじゃ授業始めるぞー。」
体育を担当している教師の苅田先生だ。
身長は直人君と同じくらいで体格も良く、髪型は現代ファッションにそぐわない角刈りだ。
ガッツリ角刈りを見たことない現代の生徒は、入学式で苅田先生が出てきたときザワついたらしい。
直人君は爆笑して、後で呼び出されたそうだ。
「角セン、今日は何すんだよ。」
「まだ授業開始したばかりだぞ。あと苅田先生と呼べ、乾」
直人君は入学式の一件もあり、苅田先生のことを角センと呼んでいるらしい。
もちろん角センとは角刈り先生の略称だ。
「今日は、お互い初対面だと思うから交流を深めるため、男女同じ出席番号同士のペアで授業を行っていこうと思う。
まぁ自己紹介を兼ねてだな。種目はバドミントンにするが、採点基準とかはないから仲良くやるように。」
なるほど、バドミントンならそこまで筋力で左右されるわけではないし、経験者も少ないだろうから楽しくやれそうだ。
ペアを組むからお互いに出席番号順に並べと先生が号令をかけると、男女ともに一列に並び始める。
男子は(ウキウキのあまり)先にグラウンドについていたので、すでに番号順に並んでいる。女子が並び終わるのを待つだけだ。
僕の出席番号は4番で、直人君の番号は3番で連番となっている。
「ちなみに今日は出席番号5番の女子が休みだから...じゃあ、男子の5番は俺とするか。」
5番の小倉君が脱兎のごとく逃げ出した。
「おいおい、どこに行くんだ。出席番号5番小倉克己。もう授業は始まっているぞ。」
あ、捕まった。さすがは体育教師、列から抜け出し走り去ろうとする小倉君にすぐさまヘッドロックを極める。
「あだだだだだだだ!え、榎本!助けてくれ!」
「おとなしく先生とバドミントンすればいいんじゃないかな?」
「馬鹿野郎!初の女子との体育なのになんでこんな角刈りのおっさんと汗かかなきゃ
なんねぇんだよ!」
「お前、目の前に本人がいる状況でよく教師の悪口が言えるな。」
このクラスには乾以外にもこんなのがいっぱいいるのか、と苅田先生も呆れた様子だ。
諦めろ小倉君。君がこの刈り上げマスキュラーから逃れる術はない。そして、出番も当分ない。
「ちっ、なんだよ。女子が休みだったら角センとやれたのかよ。」
前にいる直人君がなぜか悔しがっていた。いやまぁ、確かに苅田先生だったら直人君といい勝負しそうだけど。
体育の授業でライバルを探すなよ。直人君とペアを組む女の子が心配だ。
「直人君、今日は女の子が相手なんだから脱いだりしたらダメだよ。」
「わーってるよ。くそっ、筋トレしたくてうずうずするぜ。」
拳を握り天を仰ぐ直人君。だめだ、今彼の思考の大半が筋肉に占められている。
そんな感じで直人君と仲良くおしゃべりしていると一人の女の子が話しかけてきた。
「あの~、出席番号3番の方ですかね。」
なんと、先程食堂で会った美少女ではないか。
「トリッピ!?」
「なんで子供向け番組の鳥のキャラクターの名前を叫んだんだ?」
わお。しまった。興奮のあまり変な声が出てしまった。
「3番ならオレだな。」
「もしかして、昼休みに真理ちゃんがご迷惑をお掛けした方ですかね?」
「その場面にいた一人だな。まあ迷惑を掛けたのはこっちも同じだから気にするな。」
どうやら直人君は昼休みの美少女とペアらしい。なんてうらやましいんだ。
この筋肉達磨、もしこの人にケガさせたらシバきまわすからな。
それにしてもお互い様だなんて、こっちが一方的に因縁をつけられたにもかかわらず、直人君も意外と大人なのかもしれない。
女子側の3番が来たってことは僕のペアも近くにいるのではないだろうか。
この子とペアになれなかったのは残念だけど、美人揃いと噂だからまだまだ期待はできるだろう。
「姫ー、ペアの相手見つかったー?」
期待を胸に膨らませていると後ろから昼間、因縁をつけてきた諫早真理さんが彼女の後ろから歩いてきた。
「真理ちゃん、私のペアはこの人だよ。えっと、名前は...」
「乾だ。乾直人。ぜひこの北岳のように盛り上がっている大胸筋と一緒に覚えて帰ってくれ。」
「そこは富士山じゃないんだ。」
「ふっ、今のオレじゃあ一番は名乗れねぇよ。」
知らねぇよ。
明後日の方向を向いて、儚げな顔をする直人君。対して、姫と呼ばれた彼女はポカーンとしている。
「お前はなんていうんだ?」
直人君から名前を尋ねられた彼女はぽかん顔からはっとし、慌てて自分の名前を名乗る。
「はい!私、1-Bの赤崎姫奈です。本日はよろしくお願いします!」
若干テンパっているように見える彼女は、赤崎さんというらしい。
どうやら姫というのはあだ名のようだ。
うーん、姫奈とはそのかわいらしい外見に恥じない名前だ。
「おう、赤崎か。よろしくな。それで?隣の問題児のペアは誰なんだ?」
隣の問題児とは恐らく、昼間僕に突っかかってきた諫早真理さんのことだろう。
問題児と呼ばれたことに少しむっとしている。
「誰が問題児よ。私の番号はこの子の次で4番よ。」
「あっ、4番なら僕だ。」
どうやら僕のペアは諫早さんらしい。
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