第9話



授業前、昼食を食べた後での事


「女子と合同かー。なんかオレ的にはあんまうれしくねぇな。」


食堂から教室に帰る途中で直人君が不満を漏らしていた。


「なんで?女の子と仲良くなれるチャンスじゃん。」

「だってよ、女子がいたら本気で出来ねぇだろ。怪我とか怖ぇし。」

「高校生にもなってそんな高い志で体育をする方が少数派だと思うけど。」


なるほど、直人君は体育を本気でしたい側の人なのか。僕としてはゆるーく楽しくやれればそれでよいのだが。


「俺も女子がいるのはちょっとな...」

「てめーはどうせまた女にビビってんだろ。」


水城君も直人君と同意見のようだ。

理由は直人君が言ったことに関係しているように、また女の子たちに囃し立てられるからだろう。


「まぁ、二人は少数派だと思うよ。他のクラスメイトも佐倉君みたいにそわそわしてたしね。」


横で遥がフォローを入れてくれる。どうやらみんな浮かれているみたいだ。


「僕もどっちかって言ったらちょっと楽しみかな。」


「ほらね。普通はそうなんだって。二人も案外楽しんでるかもしれないよ。」


そういうと、水城君と直人君はそれはないだろと馬鹿にしたような顔をしている。

む、なかなか強情だな。


「もういいだろ、そろそろ着替えようぜ。」


「そうだね、みんな着替え始めてるし。」


クラスを見渡すと、男どもが服を脱ぎ始めている。

直人君に至っては教室についた時からすでに上半身裸だった。

彼は隙を見せるとすぐ脱ぎたがるからな。今朝もちーちゃんに折檻を受けていた。


うちの学校は更衣室はあるのだが、距離が遠く移動が面倒なうえ、教室には男しかいないためみんな教室で着替えるようだ。

僕も教室で着替えることにしよう。


直人君が水城君が着替えるところをじっと見ている。


「...なんだ。」


水城君が不愉快そうに声をかける。


「はっ。オレに腕相撲で勝ったからどんなガタイをしているかと思えば、やっぱりあの勝負はお前のずるだったみてーだな。」


どうやら水城君の筋肉量をチェックしていたようだ。

腕相撲で負けたことを大分根に持ってるな。


「お前みたいにむやみやたらに鍛えてないだけだ。」

「んだとてめぇ!この三角筋が目に入んねぇのか!」


どんな水戸黄門だ。そんな水戸黄門、格さん助さん要らずだろ。

水城君が着替える横で次々とポージングを取る直人君。


「あはは、二人は仲がいいね。」

「そう見えるのは、遥以外にあんまりいないんじゃないかな。」


喧嘩するほど仲がいいとは言うが、どっちかって言うと犬猿の仲って感じだ。


「そういえば、うちのクラスと体育する女の子ってどんな子たちなんだろうね。仲良くなれるといいんだけど。」


遥はそう言いながら、上着を脱ごうとしている。


「ちょっと遥!?急に何脱ぎ始めてるのさ!ちゃんと更衣室で着替えないとダメでしょ!」


僕は遥の突然の行動に思わず大きな声を上げてしまう。


「え?だって体育だし。みんな教室で着替えてるし。佐倉君も脱いでるじゃん。」

「いやいや!遥はちゃんと更衣室に行かないとダメでしょ!ここには男どもが大勢いるんだよ!?」


なんと危機感のない子だ。男は狼だということを知らないのか。


「いや僕も男なんだけど!?ちょっと二人ともまた佐倉君がおかしくなっちゃたんだけど!」


「おい馬鹿、落ち着け。昼飯の時に壊れたばっかりだぞ。」

「もはやわざとを疑うよな。」


二人はもう慣れたかのように僕をあしらいながら着替えている。


「いやいや、遥は男とか女とかを超越してるでしょ!そのくらい可愛いんだよ!クラスの野郎共も遥が着替えようとしだしたからこっち見ないようにしてるじゃん!」


先程からみんな不自然にこちらに背を向けている。やはり、気まずいのだろう。中にはちらちらとこちらを覗き見るものもいるが後でしばいておこう。


「えっ!?ちょっと嘘だよね!僕だけ一人更衣室なんて嫌だからね!これから一年間一人で着替えなんて!絶対教室で着替えるから!」


くっ!強情だな。しかし、これも男子高校生の心の平穏の為。クラスメイトに新たな扉を開かせるわけにはいかないのだ。


「こうなったら仕方ない!みんな、遥を教室から追い出すんだ!」


僕がそう呼びかけると、クラスの人たちがぞろぞろと集まってくる。


「わりぃな、若園。正直、ちょっと気まずい。」

「いや、別にお前のことが嫌いなわけじゃないんだぜ?」

「でもさすがに教室で脱がれるのはな...」


みんな僕と同じ気持ちだったようだ。遥が担がれて教室の外に運び出されようとしている。


「ちょっと!うそ!ほんとに!?ねぇ、二人とも見てないでみんなを説得してよ!」


遥が水城君と直人君に助けを求めている。


「まさかこの教室にこんなに馬鹿が集まっているとは思わなかった。諦めろ。」

「わりぃな。そういうことだ。じゃあまた後でな。」


やすやすと見捨てられる遥。どうやら今回は僕の勝ちのようだ。


「うぅ...なんで僕だけ...一人...」

外に締め出される遥。とぼとぼと更衣室に向かって歩いて行った。


「少しかわいそうだけどこれで良かったんだよね。二人とも。」


「ノーコメント。」

「いや何言ってるか全然わからんかった。」


二人は着替え終わって、教室から出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る