第7話
午前の授業も終わり、学校も後半にさしかかる。
僕たちは四人で昼休みを過ごしていた。
「ふー、やっと昼休みだな。」
今日も授業中ずっと寝ていた直人君が振り返りながら僕に言う。
隣を見ると、遥が水城君に授業内容の質問をしていた。
折角の昼休みだというのに、二人とも真面目だなぁ。
そんなことを考えていると、僕が見ているのに気付いたようで遥が、恥ずかしそうな顔をする。
「僕、実は勉強そんなに得意じゃなくて...」
なるほど、それで水城君にわからなかったところを質問していたのか。
僕の前で『今日の上腕二頭筋占い』をしているバカも見習ってほしいものだ。
「今日も大吉...だな」
うるせぇよ。
「そんなことより、食堂行こうよ。昨日の様子みると混むだろうし。早くいかないと四人席がなくなるからね。」
昨日はそのせいで、水城君に恨まれる羽目になってしまったから、今日は失敗しないようにしなければ。
「それもそうだな。遥は弁当なのか?」
いそいそとカバンからお弁当箱を取り出しながら水城君は言う。
「僕はまちまちかな。今日は持ってきてないけどお弁当の時もあるよ。」
そういって遥は財布を取り出した。
遥も僕と同じでお弁当があったりなかったりするようだ。僕の場合は、母親が部活をしている妹の分のお弁当を作るときに僕の分も一緒に作ってくれる。
つまり『ついで』というわけだ。いくら妹は部活をしてて、僕が帰宅部だからって優劣をつけたらだめだと思います。
「うっし。それじゃ行くか。」
直人君がそう言うと、僕たちは教室を後にした。
今日は何事もなく昼休みを過ごせるといいんだけど。
「今日も多いね...」
当たり前のことだが、昨日と変わらず今日も食堂は賑わっている。
大きい学校なだけあって席数も多いのだが、それでも四人がは難しそうだ。
「じゃあ食券買いに行こうか。」
昨日と同じでまず席に着く前に食券を買いに行く。...四人で。
「ねぇ、なんで水城君はお弁当があるのに一緒に食券買うのに並んでるの?先に席についてた方がいいんじゃない?」
遥が水城君に聞こえない声で僕に話しかけてきた。
遥は昨日休んでいたからあの出来事を知らないのだ。
「いや、昨日ちょっと...ね。」
言葉を濁す僕。
女子の集団に絡まれたから一人で待つのにビビってるとはとても言えない。
「なんだお前、ホントに一緒に並ぶのか。もしかして昨日女に絡まれたからってビビってんのか?」
だからなんでお前は言っちゃうんだよ。しかも本人に。
直人君に煽られた水城君は、気にした素振りもせず飄々としている。
「黙れ。お前には関係ない。それにビビってもいない。」
「嘘つけてめー!一緒に並んでんだから関係あるだろ!見てたぞ!昨日お前が女相手に顔を引き攣らせてたのを!」
すぐ後ろで二人がいつものようにいがみ合っている。
教室ならまだしも食堂で騒ぐのは勘弁してもらいたい。
...周囲の目が痛いな。
それもそうか、超絶美少年の水城君と超絶体格のいい直人君の二人組が騒いでいるのだから。
僕は周りにカンケイナイデスヨーみたいな顔をしておこう。
そんなこんなで各々昼食を買った僕たちは四人一緒に座れる席を探すことにした。
ちなみに今日は麻婆豆腐定食だ。
「うーん、やっぱり四人が座れるところってなるとなかなかないね。」
今は昼休みの真っ只中だ。もう少し時間がたてば、昼食を食べ終わった生徒が席を立つだろうが待っていられない。
僕のマーボーが覚めてしまう。ご飯は熱々を食べてなんぼだろう。
ぶらぶらと食堂を回っていると、僕の目の前でちょうど四人組が席を立った。
誰かに座られる前に席に座らなければ。
「ねぇ、こっちあいたよ」
「ねぇ、こっちあいたみたいよ」
僕の声と誰かの声がかぶった。
ふと前を見ると机を挟んだ向こうで、髪を二つに結んだ女の子がご飯を乗せたトレイを持って立っていた。
おそらく彼女も席を探していたのだろう。
あんたが譲りなさいよとでも言いたげな顔だ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互いに沈黙が流れる。
「えっと、」
「なによ!私が先に座ったんだから!」
キレられた。まだ何も言ってなかったのに。
「いやでもほとんど同時だったと思うし、じゃんけんかなにかで決めた方がお互い納得するんじゃないかな?」
「はぁ?アンタバカァ?」
「そんな!ひどいよアスカ!」
「誰がアスカよ!」
違った。てっきり某ロボットアニメのヒロインのセリフを言われたのかと思ったのに素だったらしい。
ツインテールなのに。
「何揉めてるんだ?」
呼んだ水城君たちが少し遅れて言い争っている僕たちの元へやってきた。
「揉めてるっていうか、一方的に罵られてるというか、、、」
「ちょっとアンタたち、男なんだから譲りなさいよ。」
1対4になっても強気な彼女。
今の時代に男だ女だなどと口にするとはなんともけしからん。
まあそんなことを本人にいってしまえば、飛びつかれそうなので言わないが。
「ちょっと真理ちゃん!あんまり大きな声だしたら迷惑ですよ!」
彼女の後ろから咎める声が聞こえる。
ツインテールの女の子はあわあわしている。
どうやら真理というのは彼女のことのようだ。
どうやら式波の方ではなく、真希波の方だったようだ。そういえば二人とも二つ結びだったな。
まあ彼女はワンコ君とは呼んでくれなさそうだが。
「そっちか~」
「どっちよ!」
律儀に突っ込んでくれる。中々面白い子だ。
そんなことを考えていると、先ほど彼女を呼んだ子がすぐ傍にいた。
「もう、食堂で喧嘩なんかしちゃだめじゃない。」
「だ、だってこいつがっ...!」
先程までとは打って変わって、怒られた彼女はしょんぼりしている。
「ごめんなさい。真理ちゃんがご迷惑をおかけしたようで。」
彼女は頭を下げて謝っている。
しかし、僕には彼女の言葉が入ってこない。なぜなら、
「カッッッワイイ!」
「へ?」
すっっっごい可愛いんだけど。身長は僕より少し低く、髪は長くストレートで肌も白い。芸能人やアイドルと比べても見劣りしないだろう。
そんな子と喋っている!僕が!さっきまで筋肉達磨や女の子みたいな男の子としか喋っていなかった僕が!
「僕とmarryしてください。」
「なんで英語なの?」
「すごいバカっぽいな」
後ろで遥と水城君が何か言っているが聞こえない。
「え、ええと、その、、、」
彼女は困ったような照れたような表情をしている。実に愛らしい。
「はぁ、これはダメだな、おい直人。」
「あ?あぁ、なるほどな」
そういうと直人君は僕をひょいと肩に担ぎあげた。
「悪いな、どこの誰かは知らないがうちの馬鹿が迷惑を掛けた。」
「い、いえ!そんな!先に突っかかったのはうちの方ですし。あっ!この席良かったらどうぞ。私たちは別の席を探すので」
「えっ!譲っちゃうの!?」
「だって、この席四人まで座れるし、私たちは三人だから他の席でもいいでしょう?」
諭された真理は納得いってないようだったが、しぶしぶ承諾した。
どうやら彼女たち以外にももう一人いるらしい。
「そういうことなら遠慮なく使わせてもらおう。悪いな。」
その後、彼女たちはぺこりと頭を下げて去っていった。
「あぁ、my angel...」
「お前、ちょっとキモイな」
僕を担いでいる、直人君が呆れていた。
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