第6話


無事荷物を運び終わり遅刻もせずに済んだ後、校門で直人君と出会った。


「よう佐倉、おまえにしてはめずらしくギリギリの時間じゃねぇか。」


「おはよう直人君。直人君はいつも通りギリギリの時間だね。」


直人君はいつものように学ランの腕をまくり、カバンを肩に掛けて口にはピザトーストを加えていた。


「そのパターンで味付きの食パンを加えてることあるんだ。」

「そりゃおまえただの食パン食っても腹にたまった気がしないだろ。」


いやまぁそりゃそうなんだけどさ。僕だって最低でもジャムくらいは欲しいし。

あとなんかピザトーストとか小洒落たもん食ってんのが腹立つな。


「それでなんで今日はギリギリなんだ?うんこか?でけぇうんこが出たからそんなニヤニヤしてんだろ。」


「違うよ。困ってたおばあさんを助けてたんだよ。その時にかわいい子と出会って

さ。うちの学校の一年生なんだって。」


朝飯食べてるんだからうんこを連呼するなよ。


「ほーん。そいつはいい身体してたのか?」


多分、彼の言う『いい身体』とは普通の男子高校生とは違う意味合いだろう。


「いや、いい身体かは知らないけど身長はあんまり高くなかったね。僕よりは低かったよ。」

「なんだ。じゃああんまり興味ねぇな。」

「言うと思ったよ。確か名前は若園遥さんだったかな。」

「若園?それって...」


キーンコーンカーンコーン

そこで学校の朝のHRの予鈴が鳴った。


「やばいよ!急がないと遅刻になっちゃう。」

「あ?あぁそうだな。急がねぇとやべぇな。」



直人君は何か言いかけていたが、僕は気にせず教室に急いだ。


「なんとか、間に合ったな。」


「そうだね、直人君が途中でプロテインが作り始めなかったらもうちょっと余裕あったけどね。」


まさか、遅刻ギリギリでプロテインを飲み始めるとは思わなかった。どうやら一日の飲むタイミングが決まっているらしい。


教室に入って自分の席に向かう途中に水城君が誰かと話していることに気づく。


水城君は僕の隣の席で、僕の前の席が直人君だ。直人君の席の隣は、そういえば昨日は空席だったな。


「水城君おはよう。」


「ああ、今日は遅かったんだな。」


「まあ、ちょっとね。」


水城君に挨拶をすると、席の後ろを向いて水城君としゃべっていた子が僕の方を向いた。


「あっ!榎本君だ!」


朝通学中に会った、若園遥さんだった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「えっ⁉何⁉なんで叫んでるの⁉」


「あぁ、やっぱり若園遥ってお前だったのか。」


隣で直人君がうんうんと頷いている。


「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「ちょっと小鳥遊君!雄叫びが止まらないんだけど!?これ大丈夫なの!?」


「知らん。俺に聞くな。おい直人、お前がなにか知ってるんじゃないのか。」


水城君はやれやれと言いたげに溜息をつきながら、直人君に問いかけた。


「ん?ああ、なんかさっき会ったときに『登校中に美少女と知り合った!』とか言って騒いでたんだが、どうやらそれが若園のことだったらしい。」


「なるほどな。大体理解した。こいつが叫んでいる理由がくだらないってことも分かった。」


「えっ?もしかして僕のせい?」


「いや違う、100こいつが悪いから大丈夫だ。」


「いやいやいや!勘違いしたのは僕が悪いにしても理由がくだらないことはないでしょ!」


「おっ、正常に戻ったな。」


直人君はバカだな~と笑っており、水城君は呆れ顔だ。当の本人の若園さんはまだおろおろしている。


...えー、本当に男の子なのかよ。


「ていうか、直人君知ってたんなら教えてくれたらいいじゃん!早めに教えてくれてたらこんなに絶望しなかったのに!」


いや、まあ自分でもこれは八つ当たりってわかってるんだけども。


「だってお前があまりに喜んでたから同姓同名なのかと思ったし、そもそも言おうとしたら遅刻するからって走ってったじゃねぇか。」


ぐっ...あの時何か言いかけてたのはそのことだったのか。


「ごめんね。僕がもうちょっと男らしかったら勘違いしなかったんだろうけど。」


若園さん(君?)は申し訳なさそうにしている。


そもそも男だったら声をかけていないとは口が裂けても言えない。


「私服だったら女の子と勘違いされることはあるけど、まさか学ランで勘違いされるとは思わなかったよ。」


「こいつは女のことになると著しく知能指数が下がるからな。」


「アホだな。」


「うるさいよ!」


散々な言われようだ。まさか直人君にアホ呼ばわりされるとは。


「だってうちの学校がジェンダーレスを推進している学校で女子でも学ランが着れる学校の可能性だってあるでしょ!」


「普通そんなことを考え付く前に男である可能性を考慮するだろ。」


「じぇんだーれすってなんだ?」


「えっと、ジェンダーレスっていうのはね......」


「そのバカに説明しなくていいぞ。どうせ明日には忘れるから時間の無駄だ。」


若園君が直人君に質問され、答えようとしたところを水城君が制止した。

まあ僕も水城君の言う通りだと思うけども。


「うるせぇ!てめぇには聞いてねぇよ!」


うわ、めっちゃキレてるよ。


「だいたいコイツとこの前たこ焼き食いに行ったときに、

『知ってるか?たこ焼きはたこが入っているからたこ焼きというんじゃなく、多方向から焼いているからたこ焼きというらしいぞ。だから、もともとはたこう焼きだったわけだ。』

とか嘘を教えやがったんだ!」


「まさか本当に信じるとは思わんだろう。」


「そのせいで姉ちゃんの前で『この多方向焼きなかなか美味いな』ってドヤ顔で言っちまってめちゃくちゃバカにされたんだぞ!」


ださっ!しかもそれに関しては水城君関係ないし。


「嘘教えちゃだめだよ小鳥遊君。」


横から水城君を注意する若園君。


「たこ焼きは本当は多幸焼きから来てるんだから。」


すまし顔でさらっと嘘をついていた。


「...ッ!まじかよっ...!」


そして騙されているバカ一人。

ハッとした顔で何か思いついたようだ。


「若園まで俺を騙すつもりか!そう何度も同じ手を食うか!」


ビッと若園君を指さして言う。

どうやら彼にも学習する知能はあったらしい。


「だいたい飯なんて食ったら幸せな気持ちになるもんだろうが!!!」


馬鹿な人って時々核心を突くことを言うよね。

彼にはずっとその気持ちを持ってもらいたいと思いながら、僕は席について、カバンの中から教科書を取り出し机にしまう。


「そういえば、若園君昨日休みだったよね。体調崩してたの?」


彼は、僕の初登校日である昨日休んでいたため、同じクラスで席が近いにも関わらず、朝の登校時にお互い気づかなかったのだ。


「ううん、体調は良かったんだけどね。部活でちょっと怪我しちゃったから、病院に行ってたんだ。」


まだ入学一週間だというのにもう部活をしているとは、見かけによらず意外とスポーツマンのようだ。


「大丈夫か?プロテイン飲むか?」


「直人君はプロテインの効能をもう少し調べた方がいいと思う。」


彼の中では、プロテインは万病に効くのだろう。

アハハと苦笑いしてから若園君は少し気まずそうに口を開く。


「ねぇ、三人は名前で呼び合ってるんだね。」


「うん。僕は昨日初めて会ったんだけど、席が隣の水城君と仲良くなってそれから直人君と三人で昨日は喋ってたからね。」


「もし良かったら、僕のことも名前で呼んでくれないかな~なんて...」


ああ、なるほど。どうやら、一人だけ名字呼びで疎外感を感じていたらしい。


「そんなことならいくらでも大丈夫だよ!折角同じクラスになったんだから仲良くしたいしね。よろしくね遥。」


遥は顔をぱぁっと明るくさせる。


「う、うん!よろしくね佐倉君!」


うーんやっぱり顔は女の子にしか見えないんだよなー。これは油断するとうっかり新たな扉を開いてしまいそうだ。


「二人も大丈夫だよね?」


水城君と直人君にも了承を得る。


「いや、まぁそれは大丈夫なんだが...」

「オレも別に構わねぇけどよ...」


?二人ともどうにも歯切れが悪い。何か不都合があるのだろうか。


「「よく高校生にもなってそんな恥ずかしい会話ができるな」」


今後の高校生活でこの二人がこんなに息ぴったりなのは金輪際ないのではないかと思った。

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