第4話
早速だが皆には僕の家族、榎本家の家族構成を説明していこうと思う。
説明と言っても別に八人兄弟の大家族ってわけでも、両親のどっちかが外国人で実はハーフの帰国子女なんてこともなく、両親と僕と妹のごくごく一般的な四人家族である。
しかし、現在父親は県外に単身赴任中であり、家にいるのは母親と僕たち兄妹だけだ。
僕と妹は年が一つ違いの年子で僕の通っている私立許斐学園の附属の女子中学に通っている。
木屋瀬女子高は合併前から付属中学があったらしく、妹は中学三年の進学時に転入となった。(ちなみに烏ヶ江高校側には附属中学はない。)
お嬢様学校の附属中なだけあって、転入試験の内容はそこそこ難しいようだが、妹は試験前日も
「まぁ、大丈夫じゃね?」
とか何とか言って、アイスを食べながらテレビを見ていたが、受かったところを見るとそこそこ勉強ができるようだ。
中学の頃の友人たちには、妹萌え羨ましいだの、紹介しろだの散々だったが、妹がいる人からは共感してもらえるだろうが、妹萌えアニメはすべて原作者の妄想である。
妹萌えアニメの原作者の中に妹がいる人はいないといっても過言ではないだろう。まず、妹というのは基本的に兄をなめまくっている。年子となればなおさらだ。
ちょっと前までは絶賛反抗期でそのときなんかは、僕のことを『佐倉』と呼び捨てで呼び、しまいには『おい』と呼ぶ始末である。
そのくせ頼みがあるときだけ『お兄ちゃん』と呼んでくる強かな生き物なのだ。
以前、妹の友達が家に来た時なんかは僕にリビングに入ってくるのを禁止し、どうやら僕の話をしているみたいだったのでリビングの外で聞き耳を立ててみると、
『兄貴がさ~・・・』
などと格好つけて兄貴呼びをしていた。くそっ、普段は僕のパーカーを勝手に借りて遊びに行ったりしてるくせに!
その日の夜は僕だけハーゲン〇ッツを妹の前でこれ見よがしに食べてやった。私の分は?と聞かれたがもちろんお前のダッツはない。
普段から僕に対しての尊敬が足りんのだ。兄を舐めるなよ。
しかし、僕は高校入学のタイミングで引っ越したから人間関係の構築には特に困らなそうだけど、中学3年のタイミングで転入となった妹は受験の年などもあり、友達が作りづらいのではないだろうか。
妹は以前の学校では陸上部に入っていて、県大会に出るほどのなかなかの実力だったそうだが、次の学校でも陸上を続けるつもりなんだろうか?許斐学園に転入が決まった際には、
「ひゃっほーい!次女子高じゃん!やっぱカワイイ女の子がいっぱいいたり女子校の王子様もいたりするのかな!?やっばテンション上がるんですけど!!!」
とか言ってて、家で暴れまわっていて、「こいつ友達との別れが悲しくないのか?」と思ったものだ。
そんな薄情な妹だが、僕とは違い友達が多く、今まで家に連れてきた友人は数知れず、小学生の頃からあまり友達がおらず家で一人で遊んでいた僕はよく遊びに付き合わされたものだ。
こういった理由で、妹に憧れている悲しきオタクたちには申し訳ないが、昔から妹に振り回されている僕にとってはどちらかというと姉の方が憧れがある。というより、『子供の頃に近所に住んでいた気だるげなお姉さん』的な存在に憧れがある。
いやでも男の子ならみんな憧れない?「やあ、少年」っていう年上の女性。そんな魅力的な人に子供の頃出会っていたら、確実に癖を破壊されていた自信がある。あれ本当ずるいよな、そもそも少年っていう響きがなんかかっこいいんだもん。例えば僕が近所に住んでいる女子小学生に
「やあ、少女。どこに行くんだい?」
なんて話しかけると、すかさずお巡りさんのお世話になってしまうだろう。
僕は不幸にもそんなお姉さんには出会わなかったけど、本当にいるのかな。兄にやたら懐いている妹と同じくらい実在しなさそうだけど、男の子はユニコーンとかドラゴンとか伝説上の生き物がいくつになっても好きだからしょうがないね。
そんなこんなで、第四話の三分の一近くを家族構成と僕の妄想に付き合わせてしまったのだが、今日は僕の華々しい高校生活の二日目だ、遅刻は避けたい。
朝起きてリビングに行くとすでに妹は朝食を食べていた。
「おはよう我が妹よ。」
「おはよう愚兄。」
罵られた。しかも愚兄て。まさかそこまで言われるとは思わなかったよ。こんな清々しい朝なのにどうやら妹は機嫌があまりよろしくないらしい。
「おいおい、いくらなんでも僕が昨日シャンプーが切れていたからってお前のシャンプーを勝手に使った挙句、お前のお気に入りのタオルで体を拭いてしまったからと言ってそこまでカリカリすることはないんじゃないのか?」
「確かに私は勝手にシャンプーを使われたことに怒っていたんだけど、今となってはそんなことはどうでもいいし後半の部分が衝撃的過ぎてもはや私はそんな小さなことで気を損ねていたのかと自分に呆れそうになるんだけど、お前もしかして私のタオルでその汚い体を拭いたのか?」
しまった。自分で罪を告白してしまった。もう機嫌が悪いどころの騒ぎではない。今にも掴みかかってきそうな勢いである。
朝食を食べるのに使っていた箸をくるんと上に返し僕に向けてくる。
「...抉ってやる」
「どこをだ!!!」
目がマジだ。心なしかフシューフシューと怪物のような息を吐いているように思える。
「わかった!わかったから!お前のタオルを勝手に使ったのは悪かった!今度何か買ってやるからその牙〇のごとく向けている箸を下ろせ!」
某新撰組三番隊組長のような構えで僕に箸を向けてくる妹。
僕が先端恐怖症だったらどうするんだ。
おそらく食器で実兄を殺害した日本初の女性として新聞の一面を飾ってしまうのではないだろうか。
迎え撃とうにも僕は寝起きで手元に武器がない。
くっ、どうやら僕の九頭〇閃を披露する場面は無いようだ。
「はぁ...お兄ちゃんさぁ...そんな女子のタオルで勝手に体を拭くようなデリカシーのなさじゃ彼女できないよ?」
「いやいや、妹のタオルを勝手に使うことと僕に彼女ができないことのどこに因果関係があるんだよ。」
「そして友達もできない。」
こいつ...どこまでも僕をバカにしてくるな。
ふっ...舐めるなよ?中学では仲がいい友達もできず、引っ越す際にも特にクラスの人たちから悲しんでももらえなかったあの頃の僕とは違う。
登校初日にして友人が二人もできたのだ。一人は筋肉バカの露出狂もどきだが、もう一人はなんと超絶美少年なのだ。
「そういうお前はどうなんだよ。三年から転入で案外友達ができなくて、昼休みも一人で昼飯を食っているんじゃないのか?」
「万年一人で休み時間を過ごしてたお兄ちゃんと一緒にしないでよ。どうせ休み時間を一人でいられるのを悟られないように寝たふりをして過ごしてたんでしょ?それ周りの人みんな寝たふりだって気づいているからやめた方がいいよ?」
「おいやめろ。妙に解像度の高いぼっちの学校生活を客観的に語るんじゃない。僕にだってプライベートで遊ぶ友達がいなかっただけで、学校の中には友達はいた。」
「プライベートで遊ばない友達は友達って呼んでいいものかと私は思うんだよね。それって社会人でいう会社の同僚みたいなもので決して親しい中じゃないでしょ。」
中学生のくせに妙に説得力の高いことを言うな...
どうやらこれ以上の議論は不毛なようだ。登校時間も迫っているため水掛け論に付き合っている暇はない。いや決して図星を突かれたからではなく。
「僕の話はもういいだろ。僕が質問してるんだよ。なんだもしかして本当に友達がいないのか?」
「そんなわけないでしょ。友達くらいすぐできたよ。なんか附属中学だけあってほとんどの子がエスカレーター式で高校行くみたいだから受験生って感じもあんまりないし。」
ふーん。やっぱり中高一貫ってなるとわざわざ外部の高校を受験しようとは思わないよな。結構進学校っぽいし。
「あと女の子がみんなカワイイ!!!!!!!」
椅子からひっくり返るかと思った。
「急にでかい声をだすな!」
「いやいやお兄ちゃん!女子校って本当にすごいんだよ!純粋に女の子の数が多いからかわいい女の子がゴロゴロいるし。」
「へーそれはほぼ男子校の僕からしたら夢みたいな空間だな。」
「あと下ネタがすごい。」
「ほぼ男子校の僕からしたらいつもの光景だな。」
一瞬で夢をぶち壊された。とんだドリームクラッシャーだ。
「だからお兄ちゃんの学校にもかわいい人いっぱいいるんじゃない?」
「でもクラスが男女で分かれるからなぁ。」
お近づきになるにはまだまだ先だろう。
「まぁお兄ちゃんは共学だった中学のころから女の子どころから男子ともお近づきに慣れてなかったけど。」
「ふん。どこまでも失礼な妹だ。僕にだって友達はいたぞ。高田君とか。高田君はすごいんだぞ。朝のHRに早弁をするんだ。」
「すごいとは思うけど、それはバカにされるほうのすごいでしょ。」
高田君すまない。どうやら君は僕の妹に引かれてしまったみたいだ。
「それじゃあ私、朝ごはんも食べ終わったしそろそろ学校行くね。お兄ちゃんの分のご飯もお母さん用意してくれてるみたいだからちゃんと食べていきなよ。」
そういってカバンを持って玄関の方へ向かっていった。
時計を見ると妹と話し始めてまあまあの時間がたっていた。そろそろ僕も準備しないとな。
そういえば今日まだかわいいかわいい僕の妹の名前を呼んでいない気がするけども、まあ大丈夫でしょ。
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