第2話


青い空、白い雲......男だらけの教室。


「おい!俺の今週の〇ャンプ持ってるの誰だよ!」

「誰だ!賞味期限が切れた牛乳を中身捨てずにごみ箱に捨てたやつ!」

「千景ちゃん!オレの大胸筋は燭台切君に負けてないよな!」


朝礼が終わった後の時間はみんな騒ぎ放題だった。

地獄絵図じゃないか。

世の男子高校生ってここまでバカじゃないと思うんだけど。

あと教室が腐った牛乳のせいで異臭がやばい。窓開けよ。


「乾。何度も言っているが女性に上半身裸で迫るな。乳首をもいだ後、警察に突き出すぞ。」

「ふっ...千景ちゃんよぉ、俺の乳首は成人女性程度の握力じゃびくともしなぁだだだだだだだだだ!取れる!!取れるから!!!」


なぜ彼は乳首に絶対の自信を持っているのだろうか。


「小鳥遊君小鳥遊君、このクラスっていっつもこんな感じなの?」

「初日からこんな感じだな。」


この本を読んだまま僕の質問に答える美青年は、小鳥遊水樹君だ。

切れ長の目で鼻も高く、身長も高い。眼鏡をかけており、見るからにインテリイケメンって感じだ。

席に着くときにモデルがいる!ってびっくりしたもん。ちーちゃんに負けず劣らずだ。

ずるすぎだろ...町を歩けばすれ違う女の子がふりかえるんだろうなぁ。

眼鏡外したらの〇太君みたいに目が3にならないかな。


「はぁ...先が思いやられるなぁ...」

「教室は男しかいないが大学受験に関係のない一部教科や、体育祭や修学旅行なんかは女子と合同らしいぞ。良かったじゃないか。」

「うーん、ならまだ僕の高校生活は灰色に染まり切ったわけじゃないんだね。」


話を聞いてみると、一部のイベントは男女合同なうえ、食堂なども男女で同じなため男女で完全に隔離されているわけではないというわけだ。

お近づきになるチャンスはまだまだあるってことだね!


「あーいてぇ...千景ちゃんのやつ手加減せずにつねり上げてきやがった。」


先ほどまでちーちゃんに乳首を弄ばれていた彼は、乾直人君。

休み時間はほとんど服を脱いで自慢の筋肉を見せびらかしているようでなんら露出狂と変わらない。

自慢するだけあって実際にムキムキだし、身長も高いためかなりガタイが良く見える。

まだ痛みが残っているようで乳首をさすりながら僕の前の席に座った。

いまだに上半身裸で僕たちの会話に混ざってきた。


「まず服を着なよ。」

「馬鹿野郎!休み時間くらい筋肉たちを自由にさせないとかわいそうだろ!」

「諦めろ。こいつは始業式を上半身裸で参加しようとして生徒指導室に連れていかれたくらいのバカだ。」

「ふっ...あんま褒めんなよ...」


今の文脈のどこに褒める部分があったんだろう。


「乾直人だ。よろしくな。直人でいいぜ。」


そういって直人君は右手を差し出して握手を促す。


「さっきも言ったけど榎本佐倉だよ。僕も佐倉でいいよ。よろしくね直人君。」


馬鹿だけど、悪いやつじゃないみたいだ。


「佐倉か。女みたいな名前だな。もっと男らしい名前にしろよ。筋肉剛士とか。」

「榎本筋肉剛士のほうが人の名前として異常でしょ。やだよそんな売れないピン芸人みたいな名前。」


某タンクトップ筋肉芸人の二番煎じみたいな名前だ。

彼の中で『筋肉』という単語は最上級にカッコいい言葉なのだろうか。


「おうスカシメガネ。お前も特別に名前で呼ばせてやろう。」

「断る。」

「んだとてめー!折角人が仲良くしようと歩み寄ってやってんのに!」

「歩み寄ってる人間の態度じゃないだろうが。」


なぜこの二人は入学一週間でこんなにギスギスしてるんだろう。僕が休んでいる間に何かあったのかな?


「なんで二人はいがみ合ってるの?」

「入学直後この筋肉バカはクラスの全員に腕相撲を挑んで、唯一負けた俺に突っかかってくるんだ。」

「え!?直人君筋肉だけはすごいのに腕相撲勝ったの!?」

「おい、いま『だけ』って言わなかったか?」


気のせいだと思う。


「腕力だけのバカに勝つ方法なんかいくらでもある。腕相撲なんててこの原理を用いたら、効率的に力を出すことも簡単だからな。もっともそこのバカはそれに気づかずあっさり負けたみたいだが。」


ほー、腕相撲もそんなスタイリッシュに勝ったのか。それでもある程度の筋力がないと勝つのは厳しいだろうけど小鳥遊君はそれなりに体も鍛えてるんだろう。


「はぁ!?てめぇ!そんなこすいことして勝ったのかよ!あの勝負は無効だ!今すぐ再戦しやがれ!」


直人君は勝負の真相を知り勝負の結果に納得いかないみたいだ。


「近づくな汗臭い。腐った牛乳のにおいがする。」


それは違う理由だと思う。


「佐倉はどう思うよ!ずるして勝つのはダメだろ!男らしく筋肉だけで闘うべきだよな!?」


直人君は第三者の僕に意見を求めてどうにかリベンジマッチをしたいみたいだ。


「うーん、でも話を聞く限りずるってわけじゃなくて、戦略みたいだけど。」

「なんだよ!お前もこいつの味方かよ!もういいよ畜生!」


どうやら再戦は諦めたみたいだが不貞腐れてしまった。筋肉でも褒めたら直るだろうか。


「でも直人君の大胸筋はすごいよね。僕が鍛えてもそんなにはならないと思うもん」

「そんな見え透いたよいしょで俺が喜ぶとおもってんのか。」


どうやらまだ足りないみたいだ。もう一押ししてみるか。


「いやいや本当だよ。腹筋なんて綺麗に六つに割れてて腹斜筋で大根がおろせそうだもん。」


ボディビルダーの大会ではこんな感じの誉め言葉が飛び交っていると聞いたことがある。


「へっ...お前なかなか見る目あるじゃねぇか...まぁ実際にはすりおろせなかったけどな。」


どうやら機嫌取りに成功したようだ。ていうかやったことあるのかよ。

直人君が腹筋で大根おろしを作ろうとしているシュールな光景を想像しながら小鳥遊君に話しかける。


「折角だから、小鳥遊君も名前でよんでいいかな?僕のことも佐倉でいいし。」

「まぁ別にそれは構わないが。」


了承を貰った。一人だけ名字で呼ぶってのもなんか仲間外れみたいでいやだしね。


「おう、よろしくな水城」

「お前には言ってない。」


直人君には許可が下りなかったらしい。


「だろうな!お前が嫌がると思ってわざと呼んでるからな!」


うわッ!性格悪ッ!


「好きにしろ...」


水城君はため息をしながらうんざりしたように答える。

仲がいいのか悪いのかよくわかんないな。二人とも本心ではそんなに嫌っているわけではないと思うけど。

...嫌ってないよね?

そうこうしていたら授業開始の時間になり、ちーちゃんが入ってくる。

一時間目は国語だったが、どうやらちーちゃんの担当科目のようだ。


「授業始めるぞー。静かにしろ。ほら乾、早く服を着ろ。もがれたいのか。」


そう脅された直人君は体をビクッと震わせいそいそと服を着た後、両手で乳首を隠した。

トラウマになっちゃってんじゃん。どんだけ強くつねられたんだよ。

うーん、授業かー。元々勉強ができないのに一週間も遅れてるからついていける自信が全くないんだけど...



キーンコーンカーンコーン

四時間目の終了のチャイムが鳴り昼休みにと突入する。

教室は授業から一時的に解放されたからか生徒がカバンから弁当を取り出したり、近くの席の人としゃべったりしている。

廊下にも他クラスの生徒かわらわらと人が増えてきている。

全ッッッ然分かんなかったんですけど!

マジでヤバい。一週間でこれはマジでヤバい。

特に理系科目、基礎を習ってないから一つも分かんなかった。


「水城君、やばいよ全然分かんなかったよ。どうしよう。」

「まだ一週間だ。毎日少しずつ取り返していけばいつか追いつくんじゃないか?」

「そうだ!大丈夫だぞ。オレも全く分かんなかったからな!」


そりゃそうだろう。君ずっと寝てたじゃん。よく一時間目から四時間目までずっと寝てられるね。

先生も誰も注意しなかったし。


「どうやってこの高校受かったの?」

「おいおい知らないのか?ここは名前書いとけば受かるくらいのバカ高校なんだぜ。」


えっ!?そうなの!?と驚き、真偽を確かめるように水城君のほうを向く。


「そこまでではないが、まぁ簡単なのは本当だな。」


マジか...僕そんな高校の授業で一週間目でつまづいてるのかと危機感を覚える。


「もう勉強の話はやめようぜ。腹減ったよ。オレは学食で飯食うけどお前らはどうするんだ?」


学食!女子生徒も利用するという数少ない交流の場!


「うん!もちろん僕もついていくよ!」


お弁当も持ってきてないしね。


「俺は弁当を持ってきてるが...まぁ食堂で食おう。」


こうして三人で食堂を利用することが決定した。

よーし!学校に来て初めての女の子との出会いだ!

僕は少女漫画よろしく運命の出会いを期待するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る