馬鹿触れ合うも多生の縁

斉藤 輝

第1話

「入学早々、一週間も病欠とは災難だな」


僕にそう言いかける人物は、佐伯千景。

この私立許斐(このみ)学園で僕のクラスの担任らしい。

口調は男らしくもあるも、外見は足も長くスタイルがいい、肩口に切りそろえた黒髪を耳にかけており、容姿端麗でそこいらの芸能人にも負けず劣らずだろう。

そして、何故か白衣を着ている。...煙草を吸いながら。


「あの~ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「ここって職員室ですよね?」

「?お前は逆に職員が集まっているこの部屋のことをなんと言っているんだ?」


ふむ、どうやら遠回しに職員室で煙草を吸っている理由を聞いたのだが、全く伝わっていないらしい。

というか他の職員は、なぜ誰も注意していないんだ。聖職者だろう。少なくとも生徒の前では吸うなよ。


「いや、この学校って禁煙じゃないんですか?」

「敷地外に出るのが面倒だからな」


そういう問題じゃないと思う。


「煙草、苦手だったか。」


いまいち欲しい回答は得られなかったが、大丈夫です。とだけ言っておいた。

そのあと、休んでいた分のプリントや新しい教科書を貰い一通りの説明が済んだ。


「まぁ一応はこんなところだな。何か質問は?」

「先生は彼氏はいますか?」

「27歳独身。彼氏絶賛募集中だ。」


即答すると彼女は煙草をフーッと吐き出す。

......かっけぇ

なにこの人、世の27歳ってこんなに魅力的なの?僕もうこの人にメロメロなんですけど!

成人までのあと4年の歳月を一日千秋の思いで待つしかないのか!


「教師と生徒の禁断の愛ってどう思います?」

「スリルがあっていいんじゃないか?」


アハハハハ!オモシれーやこの人!

なんでこの人教師やってんだよ!


よし!この人は心の中で親しみをこめてちーちゃんと呼ぶことにしよう。...間違えて呼ばないようにしなければ。


あと周りの男教師ども、お前らちーちゃんが彼氏募集中って言ったとき2.3人が「ぴくっ」って反応したの見てたからな!お前らにちーちゃんの彼氏が務まるものか!

そうして職員室で男同士の静かなる戦いが行われている中、


「そろそろ朝礼の時間だ。一緒に行こうか。」


僕はそう言い職員室を後にする彼女についていく。

職員室から出て扉を閉めたのを確認すると、彼女はハーとため息をつく。


「あそこはいかん。おっさんばっかで息が詰まる。」


確かに、職員室には女性教師は彼女しかおらず、ガタイのいい男性教師が多かったように見えた。


「むこうだったら女性教師のほうが多いんだけどなー」


?むこうとはどこだろう?


「いやしかし、入学早々一週間も休むとはどんな不良生徒が来るのかと身構えていたんだけど、存外まともそうなやつが来たから安心したよ。」


そう言いながらちーちゃんは笑っていた。ふむ、どうやら職員室でのクールな態度は僕を品定めしていたようだ。案外親しみやすい先生なのかもしれないな。

ちーちゃんてぇてぇ。


「これ以上、”アレ”なやつが増えたら私も手に負えないからな...」

「その発言で高校生活に非常に不安を覚えたんですけどl


アレってなんだよ、怖いよ。僕生きて卒業できるのかな。


「まぁ、うちのクラスは問題児ばかりだが本当に問題を起こすような奴はいないよ。榎本もすぐ馴染めるさ。」

「それならいいんですけど...」


僕が入学式も休んで一週間も欠席していたことに対しての一番の懸念点がこれだ。

中学と違い高校は様々な学区から学生が集まるため、ほとんどが初対面である。しかし、一週間もあればクラスメイト同士それなりに仲良くなるだろうし、グループもできてくるだろう。


そんな中で、一週間ものディスアドバンテージを負ったら、クラスに馴染めず浮いてしまうのではないかと、恐怖とインフルエンザの寒気で布団の中で震えていたのだ。


そんな会話をしながらなんやかんやで僕のクラスである1-Bに着いた。

朝礼前の教室は騒がしく教室の外までかなり声が漏れている。


「じゃあ、私が先に入ってあとから呼んでそこで自己紹介してもらうから。」

「よくあるやつですね?」

「お決まりってやつだ。」


緊張するなー、こういうのって最初が肝心だから失敗したらやばいんだよなー。


「お前ら、席付け!朝礼するぞ!」


そんなことを考えているとちーちゃんが教室の中に入っていく。


「ちーちゃんおはよう!」

「ちーちゃん今日も綺麗だね!」

「結婚してくれー!」


なん...だと...

まさかちーちゃん呼びしているのが僕だけではなく、本人に向かって言っているとは...僕も後でこっそり呼んでみよう。

あと求婚してるやつがいたけど大丈夫かこのクラス。


「えぇい!うるさい!黙れ!気色悪い!」


ほら見ろ。いくらちーちゃんといえど男子高校生に結婚を迫られるのは気持ち悪がっているじゃないか。


「私に結婚を申し込むなら燭台切君くらい男磨いてからにしろ!」


違った。求婚自体は否定してなかった。ただのスペック不足だった。

ていうか、ちーちゃん刀剣女子なのかよ。

クラスメイトのやばさとちーちゃんの意外な趣味を耳に挟みながら廊下で待機していた。


「あーもう、一週間病欠で休んでいた榎本が来てるから出欠確認の前に挨拶してもらうから。入っていいぞー。」


クラスの喧騒もやや収まりのうちに、催促された。

ガラガラと教室の扉を開け、壇上の上に乗って黒板に名前を書く。


「えー初めまして。一週間休んでたんですけど今日から登校させてもらいます。榎本佐倉っていいm」


そこまで言って僕はふとあることに気づく。


「先生このクラスって女の子はいないんですか?」


そう何故かこのクラスには女の子がいなかったのだ。空席もあるわけでもなく女子が全員休みというわけでもないようだ。


そんな僕の質問を聞くと、先生もクラスメイトもみんなぽかんとしている。

その直後、質問の意味を呑み込めたのか大爆笑で起こっている。

状況を理解できず、ちーちゃんの顔をみると少し呆れたような、笑いをこらえているようなひきつった顔をしている。


「あのな榎本...」


え?なんで笑われてるの!?この学校って今年から共学なんじゃないの!?



「うちは確かに共学だが、男子と女子とで教室が分かれていてなんなら棟も分かれている。」



ちーちゃんが窓の外に指をさす方向を見てみると確かに中庭を挟んだ奥に僕たちの校舎と同じような形の校舎がある。


「最初は普通の共学にするつもりだったらしいんだがな。木屋瀬女子高側の保護者の反対が多くてこんな特殊な形態になったんだ。

ていうか、受験時にも説明があったし、去年の学校説明会からいわれていたはずなんだけど」


ウキウキが止まらなくて聞いてなかった。

クラスのやつらはバカを見るような目でいまだ笑っている。





「だっ...」

「騙されたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

僕の夢の高校生活の始まり始まり(終わり終わり?)

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