第23話 クライマックスバトルロイヤル

そして、体育祭。最後の競技がついに始まろうとしていた。


その最後の競技は全ての生徒が参加する、そしてこれまでのようにチーム戦ではなく個人戦だ。


ゴールドフラッグ争奪戦と呼ばれるそれは、毎年恒例のように行われている。


そして、体育祭ではそれを楽しみにしている生徒は数多い。


そのルールは、最後にゴールドフラッグを手にしていたものが勝つという名前通りの単純なもの。


そしてその本質は何でもありの勝ち抜きバトルだ。


そしてその優勝者は、大会の商品とは別に個人的に何か欲しいものを一つだけもらう権利を得る。


「体育祭は、みんなこれが目当てだからな」


「そうだよね。運が良ければ誰でも優勝の可能性があるから」


去年のゴールドフラッグの生徒は、コルヌコピアの一年間食べ放題チケットを貰っている。


さらに過去には、単位を貰った生徒もいるとかいないとか。


台車に乗せられて運ばれてくるゴールドフラッグを生徒たちは熱心に見守る。


「合図を出すまで、フラッグには触っちゃダメですよ」


体育委員会の生徒は時間が来るまでゴールドフラッグの護衛を務める。


そしてほどなくして開始の合図であるベルの音が鳴った。


「ゴールドフラッグ貰った!!」


ゴールドフラッグの一番近くにいた生徒がはじめにフラッグを手にする。しかし、それも一瞬のことだった。


「よし、横取り成功」


少し離れたところにいた生徒が、釣り竿に似た装備を使ってフラッグを回収する。


そしてその釣られたフラッグを途中でまた別の生徒が叩いて、それは地面に落ちた。


「なんなんだお前」


「ちょっと押さないでくれ」


フラッグに密集する生徒たち。地面に落ちたフラッグを引っ張りあう。


そして複数の生徒に掴まれたままになっているフラッグに、誰かが杖を投げつける。


「あ、フラッグが飛んだ」


飛んだフラッグを箒で追いかける生徒。そして箒が手元に無くて右往左往する生徒もいる。


「誰か!!俺の箒を勝手に使ってないか?」


「あ、フラッグが水に潜った?」


今やだれもが杖を持ったまま奔走しているので、正確には誰の魔法のせいかはわからないがフラッグは今は水に潜っているらしい。


会場の近くにある学園名物の池の中にフラッグはすっかり水没してしまっていた。


「は?水?フラッグが水に潜るだって?」


「なんだって?本当か?そんなのありなのか?」


情報も錯綜して、いよいよ混沌めいた状況になってゆく。


「フラッグが無い。フラッグがどこにもない」


「おい誰か、フラッグが消えた。フラッグを消すのはさすがに反則では?」


一番前でフラッグを追っていた生徒たちが騒ぎ始める。


「は?そんなはずは……魚?」


足元を濡らしながら、一生懸命池の中を探す生徒の一人がそれを見つける。


それはまさに黄金の魚だった。全身が金色の見たことのない魚だった。


「もしかして、これがゴールドフラッグなのか……」


思わず生徒はつぶやく。そのつぶやきを聞いて続々と他の生徒が集まってきた。


「しまった……」


その生徒は後悔するがもう遅い。


一人の生徒が金色の魚を捕まえようと手を伸ばす。


「……⁉」


すると魚はその手をするりと抜けて、優雅に泳いでいった。


「それなら網を使うしか」


どこかから網を持ち出す生徒たち。それでも魚は素早く水草の間を移動し、捕まる気配すら見せない。


「仕方がない。ここはみんなで協力だ」


生徒たちは四方から網をもって魚に近づく。するとフラッグは網から逃げるように中心へと移動してゆく。


「そうだ。いい調子だ」


魚を囲む包囲網が縮まったその時、魚は羽ばたいた。


「なんだっ……!?」


取り囲む生徒たちを激しい水しぶきが襲う。水しぶきに目を閉じて、生徒たちが目を離したその一瞬の隙。


中心にいたはずの魚はいつの間にかいなくなっている。


「おい、魚がいないぞ」


「どこに行ったというんだ」


騒ぐ生徒たちのうちの一人が何気なく空を見上げた。


そこには黄金に光る鳥が羽ばたいている。


「今度は鳥か!!」


黄金の鳥は、簡単に校舎を超え、そこらじゅうを自由に飛び回る。箒を持った生徒が慌てて飛び上がって追うものの、その鳥はあまりに速すぎて追うことができない。


そのうち、鳥は学校のなかで最も背の高い棟に止まってそして降りてこなくなった。


「どうだ?箒で届きそうか?」


「いや、あの場所は箒で入るには狭すぎる」


棟の上は複雑な装飾が施されていて、そこに箒で侵入するほどのスペースはない。そしてあまりに高すぎて窓から登ることも難しそうだ。


いくらフラッグとはいえ、命がけで取りに行くほどのものではない。誰だって命が一番大切なのだ。


「どうする?これ……」


元はフラッグだった黄金の鳥を、ほとんどの生徒たちは下から指をくわえて見ることしかできない。


その状況で一人の生徒が杖を振る。


それは、飛行魔法でなければ網のような捕獲用の魔法でもない。


魔法の中でも上級の、一握りの優れた生徒しか扱えないとされる魔法。


「あれは、まさか支配魔法か?」


そのきらめく眩しい光とともに放たれた魔法を見た生徒が思わずつぶやく。


「はぁい、皆さん。エンジュさんが捕まえるから、お前らは邪魔するなよ」


エンジュはいつものように部下を従えて、堂々と杖を振るう。


その魔法の光の糸は杖から伸び、一直線に鳥の元へ向かっている。


鳥は、エンジュのほうを見た。


「お前自ら、俺のところへ来るべきだろう」


鳥はエンジュから目を離すことができなくなっている。


「ボス、がんばってください!!」


エンジュの取り巻きの他の生徒たちはエンジュの魔法を固唾をのんで見守る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る