第19話 地獄の障害物競争、始まる

そして午後からの競技二つ目の、障害物競走が始まる。


参加者は一斉に開始地点まで転移魔法で飛ばされた。


そしてスタート地点には、各チームの代表者三人が並ぶ。第一走者に選ばれた三人は、コースの先を見据えた。


その先は真っ暗な洞窟のように見える。そしてその中は真っ暗で何があるのかよく見えない。


「さっき見た顔がいる。間違えてついてきちゃったのか?」


「間違えてねえよ、俺もこの競技に参加するんだ」


辛夷とセンキュウは隣に立っている。そしてその隣には牡丹だ。


センキュウは隣に立つ牡丹にさりげなく視線を送る。


牡丹も同じようにセンキュウを見ていた。


三人がスタートに揃ったのを見ると、案内を担当することになった生徒は説明をはじめる。


「今回のコースはホラー風となっております」


「ホラー風だって?!」


「辛夷は驚いたように反応する」


(なんで俺が参加する競技に限ってこうなんだ?)


辛夷はホラーが苦手だった。


役員のなかでもホラーが苦手な人間は少ない。


(ソウジュツや、カイカなら得意だったろうに)


以前、いつもの三人でホラーの映画を見たときも怖がっていたのは辛夷だけだった。


むしろ、カイカはホラーものを見るのがが好きだと言っていたほどだ。


「これが支給品のランタンです」


手渡されたランタンがなんとなく湿っている気がして、辛夷は取り落としてしまう。


けれど、その灯りがなければ洞窟の中は見えないままだ。


渋々辛夷はランタンを拾う。


そのランタンはよく見ると頭蓋骨の形をしていた。


(なんだこれ……)


辛夷心情を知ってか知らずか、他の二人は平然とランタンを受け取って辛夷を見ている。


「おい、何だ。俺は怖くなんてないんだからな」


「俺たちは何も言っていないんだが」


川芎は意地が悪い顔で辛夷を見ている。牡丹は相変わらずの無表情だ。


「それでは、スタートしてください」


合図とともに三人は走り出す。


洞窟の暗がりに飛び込んで、先頭を辛夷。そして次が川芎。最後が牡丹の順だ。


(しまった、急ぎすぎて先頭になってしまった)


今や川芎は、辛夷の後ろを走っている。


辛夷の当初の予定では、センキュウの後ろについていくつもりだった。


(なんであいつ、今日に限ってこんなに遅いんだ)


辛夷はセンキュウが遅いのではなくて、自分がとんでもなく早いということに気が付いていない。


気を紛らわすために、手持ちのランタンをぶんぶんと振って辛夷は走る。


そうして暗闇の中を走っていると、道端に人影が見えた。


(あれは……絶対襲われるやつだ)


勢いをつけて、辛夷はその前を通り抜けようとする。


(……?!)


けれど、その勢いを殺すような。見えない力で袖を引っ張られるような感覚を覚える。


(誰かに引っ張られた!?)


辛夷はびっくりして、とんでもない速度で走ってゆく。


「あ……」


そして、その出来事に驚いたのは辛夷だけではなかった。


「すみません、ミツバさん。ちょっと通り抜けられちゃいました」


道端に立って話しかける係の生徒は困り果てていた。


電話でこの種目を担当していた美化委員長に電話をする。


その生徒は、参加者に話しかけて試練のようなものを与える役目を担っていたのだ。


けれど、辛夷が通り抜けてしまったため、その役目を果たすことができなかったのだ。


「そうか。それも仕方ないな」


美化委員長のミツバは中継された映像を見ながら、休憩場で電話に出ている。


「どれだけ加速していても一度は強制的に立ち止まらせる罠を仕掛けておいたはずなのに」


「あれは、引き止められるのは一度きりだからな」


引き止めたあと、再加速されてしまえばもうどうしようもないことだ。


かといって、引き止める時間が長すぎればそれはそれで不都合が生まれてしまう。


「あ、風紀委員長が来たから切りますね」


「切るのは待ってくれ」


「……?」


「風紀委員長にこの電話を渡してくれ」


言われた生徒は素直に電話を渡す。


「もしもし、風紀委員長?すまない。私だ」


「お前、レース中に電話するのどうなんだ?」


走っている最中だからか、少し息の荒い風紀委員長が電話に出る。


「前にいる辛夷さんが見えるか?」


「ああ、見えてるけど?」


電話ごしに走る足音が聞こえる。中継映像には、暗闇のなかを走る三人が映っている。


「これは言っちゃいけないことなんだろうが。参加者の安全に関わることなのでもう、言ってしまう」


「なんなんだ急に」


川芎は、電話の向こうのミツバがとんでもないことを言い出さないか心配しているようだ。


その不安は全て声の表情に出ている。


「この先は、看板があって片方は安全な道だが遠回りの道。もう片方は荒れている道になっている」


「荒れている?ってのはどれくらいなんだ?」


「まあそれはすぐそこだろうから、見ればわかることだ」


その物言いに川芎は疑問を覚える。しかし、それは本当に見ればすぐにわかることだった。


「なんだこれ!!」


それは、異様なほどに抉れた地面だった。単なる穴ぼことは言えないほど荒れ果てた地面。


これが道だなんて、到底信じられない。


「どうしてこんなことに?」


「少し地形をいじっただけだ。心配ない、後でちゃんと元に戻しておくから」


「そういう問題なのか?」


ミツバはなんてことがなさそうに話している。


川芎が辺りを見渡すと、よく見ると暗がりの道の端に看板らしきものが立っているのが見えた。


しかし、暗すぎるためか何が書いてあるかはわからない。


川芎はランタンの明かりを近づけて読んでみることにした。

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