第18話 魚の内臓が入っているか否か

「ええ、そんなことが?!」


「まあ、ちょっと罪悪感もありますけど。正直に言うと、妨害するのは楽しかったです」


「じゃあ、俺が入れた玉が全部出てたのはソウジュツちゃんのせいってこと?」


「そういうことですね」


玉入れは辛夷も知らない間に、いつの間にか妨害可のルールになっていたようだ。


「ちなみに、赤チームには青チームの妨害。黄色チームには赤チームの妨害選手が一人紛れている仕組みなんだ」


センキュウは得意げにそう話す。


「やっぱり、普通に玉入れするだけなんてつまんねえから。ちょっと工夫しようって俺が考えたんことだ」


「お前のせいなのか?」


そうすればあの地獄の大縄跳び100回もセンキュウの仕業なのだろうか。辛夷は不機嫌そうにセンキュウを睨む。


「おお怖い。そんな不機嫌になるこたぁねえだろ?」


「お前も大繩100回跳ばすぞ」


「ちょっと待ってくれ、大繩は俺が仕組んだことじゃねえよ」


センキュウはあわてて否定をした。それでも辛夷の怒りは止まらない。


「いつも通りだって打ち合わせで言ってたのはどこのどいつか覚えてるか?」


「確かに言ってたけどな。余裕があったから五虎と考えたんだ」


「五虎と?」


確かに準備の日、川芎は五虎と一緒に帰っていった。


もしかしたらその時の帰りに話していたのかもしれない。


「俺は50回くらいでいいんじゃないかって言ったんだけど、五虎がそれでは物足りないって言ってた」


川芎はだから俺は悪くないとばかりに言い訳を始めている。


「お前は止められてないんだから同罪だ」


もちろんそんな言い訳は辛夷には通じない。二人が睨み合っていると、午後の競技が始まる放送が流れた。


「あ?俺ら次の競技だわ」


「私も、そのようですね」


ソウジュツとナンテン、そしてカイカは転移魔法陣で移動していった。


その場に残されたのは、センキュウと辛夷だけだ。


「おい、次の競技は何も仕込んでねえだろうな」


「次の競技は借り物リレーだな。お題が何なのかは俺は関与してねえからな」


「またとんでもないことにならないといいが」


辛夷は次の競技に備えて座って休むことにする。


一方、借り物リレーのスタート地点は既に参加選手が並んでいる。


その脇の観客席は見物する生徒たちで賑わっていた。


「あれ、ナンテン様とカイカ様だ。」


「ハーイ、オーディエンス!!見てるかな?俺が優勝しま〜す」


ナンテンは観覧席に向かって両手をふっている。


「いや、これチーム戦だよね?個人戦じゃないよね」


その隣で、カイカはツッコミを入れている。


そして、その隣には体育委員長の五虎。黄色の体操着。肩にタオルをかけた格好をしている。


「お前らがトップバッターなのか?俺もそうなんだ。よろしくな」


「よろしくって何を?」


カイカは憂鬱だった。そんなに足に自信があるわけでもないし、自分の借り物だけ滅茶苦茶難易度が高い可能性もあるわけだ。


「お題が変なのだっらどうしよう……」


「変なのって、何?腐った魚の内臓とか?」


「何?腐った魚の内臓って本当に何?」


ナンテンがあまりにも妙なことを言うものだから、カイカは余計に怖くなってしまう。


「まあ、腐ってない状態だったらギリいけるよね」


「何がいけるの?」


ナンテンは怖がるカイカを気にもしていないようだ。


「そういえば、コースを作ったのって五虎だよね」


「いいじゃないか。別にずるはしてないんだし」


「嘘?制作者がライバルってありなの?」


このコースを作ったのは五虎ならば、五虎には有利なのではないだろうか。


カイカは疑念に満ちた表情で五虎を見る。


「なんだよ。そんなこと言うなら、借り物のお題を考えたナンテンだってそうじゃないか」


「ナンテンさんがお題を考えたの?」


「まぁ、そうだよ?」


そしてちょうどその時、スタートの合図であるベルが鳴らされた。


カイカは、何故か制作者側の二人に挟まれたまま走り始める羽目になる。


「ちょっと待って!?魚の内臓入ってないよね。魚の内臓が入ってないかだけ教えて」


カイカの問いかけを無視して、二人は前コースを走ってゆく。


そして、第1関門。


お題が入ったボックス。最初にたどり着いたのは、五虎。


五虎はボックスに手を入れて、一枚の紙きれをつかみ取り中身を確認する。


「どれ、俺のお題は」


五虎が引いた紙には、委員長と書かれていた。


「……」


そこで五虎は迷う。


(これって自分が委員長だった場合はどうなるんだ?)


五虎は体育委員会の委員長を務めている。もしかすると、何も持たなくても大丈夫ではないのだろうか。


けれどそれで大丈夫であるという保証もない。


(委員長か……)


委員長で近場にいるのは誰だろうか。そう思って辺りを見回したとき、目についたのは野生の飼育委員会委員長だった。


「ちょうどいいところにいてくれたな」


そう言って野生の飼育委員会委員長を誘拐していく五虎。


そして、その次にボックスにたどり着いたのは意外にもカイカだった。


「簡単なのが来ますように、簡単なのでお願いします」


そしてカイカが引いた紙には、役員と書かれていた。


(……?)


そしてカイカも考え始める。自分が役員の場合は(以下略)


しかし、五虎のときのように野生の役員はいないようだ。


(どうする……ソウジュツちゃんは後続の走者だし、牛黄ちゃんとチモちゃんは今どこにいるのかわからないぞ)


カイカはとりあえず競技に参加していない辛夷を探すことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る