第17話 結局お昼の時間が一番楽しい
「ねえねえ、見てくれてた?ほんと大変だったんだから」
カイカが遅れて帰ってくる。
「ああ、大繩を跳びながらちょっとだけ見えてたぞ」
「ああ、隣で大繩やってる人たちがいるなと思ったんだけど、それって辛夷ちゃんだったんだ」
「ああ。百回は大変だった」
それでも辛夷は疲れている様子ではない。それは競技が終了して少し時間が経過しているからだった。
それはそうと、今はお昼休憩の時間だ。
「ソウジュツちゃんは、まだ来てないの?」
「ああ、まだ見てないな。ナンテンは見たか?」
「あ~、俺も見てないかも」
「もう少しだけ、待つか」
辛夷たちはバスケットをそれぞれ持ちながら、役員の休憩場所で待つ。まだお昼の休憩時間は始まったばかりだ。
「そういえば、辛夷ちゃんたち何を持ってるの?」
「ああ、これか」
カイカは辛夷の持っているバスケットを指して尋ねる。
「これは、お昼にみんなで食べるために作ってきた弁当なんだが」
「弁当?もしかして手作り?」
「まあ、そうだけれど。大したもんじゃないぞ」
「そうなの?楽しみだな」
カイカと辛夷は談笑している。そうしていると、ソウジュツがやってきた。
「皆さん、お待たせしました。ちょっと買い物に行ってて」
「ああソウジュツちゃん来た」
そしてソウジュツの後ろには、当たり前のようにセンキュウが引っ付いてきている。
「げっ、委員長。なんで来てるの」
「なんだ?俺は来たらダメだったのか?」
センキュウをナンテンは睨む。センキュウはそれを見て愉快そうにしている。
「すみません。荷物が多かったので少し手伝ってくれると言うものだから」
見ればセンキュウの腕には何か荷物が抱えられている。
「だめでしょ。ソウジュツちゃん。こんな獣を連れてきちゃ。野生動物の保護法に違反してるよ?」
「すみません。気づかなくて」
「俺は野生動物じゃねえよ?」
「それはそうと、そろそろ昼を食べようか」
あまりに収拾がつかないので、辛夷は残りの面子に声をかけ、勝手に昼食を始めることにした。
「あ、これ卵焼きと、から揚げだ。おいしそう」
「そうだろう。オーソドックスなメニューかと思って」
机の上に弁当を広げながら、カイカは弁当の中身を見ていた。
その内容は、からあげや卵焼き。そして一口サイズのパン、そして果物入りゼリーなど。
そしてもう一つの箱を開けると、何かの野菜を煮たものと焼き魚が入っている。
「こっちの箱は感じが全然違うんだね」
「あ、そっちは俺が作ったやつ」
「あ、そうなんだ。渋いチョイスだね」
そちらの箱はナンテンが作ったもののようだ。
なんとなく、高級料理屋さんに出てくる献立のような料理にカイカは感心していた。そして思い出す。
(そういえば俺、菓子パンとかしか持ってきてないや)
他のみんなは見た限り何かすごいお弁当を持ってきているようだ。それで自分だけなにもだせないというのは気まずいのではないだろうか。
「そういえば、俺菓子パンで済まそうと思ったから菓子パンしかないんだけど。ごめんね」
カイカは申し訳なさそうに申告する。
カイカの手持ちのバックにはパンが入っているが、それはどれも菓子パンだった。
「いえ大丈夫ですよ。私たちが買ってきたサラダとサンドイッチもありますから」
カイカに対し、気を遣うように声をかけるソウジュツ
「俺は、飲み物と蒸した芋と焼いた肉を持ってきた」
「蒸した芋と焼いた肉?」
センキュウが持ってきた謎の大きな壺には、本当に蒸した芋と、焼いた何かの肉がこれでもかと詰められている。
「これは何?」
「蒸した芋と、焼いた肉だが?」
何度見ても謎の料理だ。それなのにセンキュウは何も問題がないという表情をしている。
そしてすべての料理が並べ終わった時、ようやく昼飯の時間が始まるのだった。
「この蒸した芋、おいしいな」
辛夷は蒸した芋を食べている。
センキュウは自分の作った料理を褒められて嬉しそうだ。
「この芋っていうのは、何の芋なの?」
ナンテンは芋を見ながらセンキュウに尋ねる。
「芋は芋だろ?」
センキュウは何を言っているのか理解していない様子だ。
「じゃあ、こっちの焼いた肉ってのは何の肉なの?」
「肉は肉だろ?」
ナンテンは尋ねるものの、返ってくるセンキュウの答えは先ほどとつゆほども変わらないものだった。
「センキュウとナンテンはさっきから何をやっているんだ?」
辛夷は不思議そうに二人のやりとりを見ている。
「あ、このからあげおいしい」
カイカはそんなことは我関せずと、みんなのお弁当を少しずつ貰っている。
「しっかり食べないと、後半の競技に身が持たないですからね」
ソウジュツは自分の買ってきたサンドイッチを食べているようだ。
「そういえば、ソウジュツちゃんは午前中何の競技に参加してたの?」
カイカは食事をしながら何気なくソウジュツに話しかけた。
「それ、聞いちゃいます?」
ソウジュツは気まずそうだ。
「そういえば、カイカの玉入れのチームにソウジュツと同じワッペンの生徒がいたのを見たぞ」
辛夷は第一競技場で見たことを思い出していた。
「そんな、ソウジュツちゃんは黄色チームなんだからそんなはずないでしょ」
カイカは辛夷が冗談を言っていると思っている様子だ。カイカの言葉を聞いても、辛夷は未だに納得できずにいた。
「まあ、確かにそうかもしれないが」
はっきり見たとは言えない。確かにあの生徒の顔はソウジュツとは全く違っていたし、偶然同じ位置に同じワッペンなんてことがあるのかも。
いやそんなことがあるのだろうか。
「隠すことでもないのでもう言います。確かに、あれは私でした」
突然ソウジュツが、なんでもないように言う。
「やっぱりあれはソウジュツだったのか」
辛夷は納得をする。
「あれって何さ。どういうこと?」
しかし、カイカはまだ納得できていないようだ。
「あなたのチームに、やたら入れた玉を出してしまう人がいたでしょ」
「確かに。なんでそんなこと知ってるの?」
カイカの不思議そうな顔。ソウジュツは少し申し訳なさそうだ。
「あれが私なんです」
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