第16話 複数競技を同時に行うからこうなる

「31、32、33……」


辛夷たちは、息を切らしながら跳び続ける。


「焦らず頑張ろう。赤組絶対勝つぞ!!」


あれから、何回かやり直して何回飛び跳ねたかわからない。


(なんでこんなことに……)


その隣では、未だにカイカたちが玉入れを行っている。


「ちょっと、誰か入れた玉を出してるでしょ」


(入れた玉を出すってどういう状況だ……?)


辛夷たちは一生懸命に大繩をしているのでよく見ることができないが、どうやら向こうでは何か事件が起こっているらしい。


「ちょっとよそ見しないで」


そのうち誰かが引っかかって、縄跳びも最初からやり直しになった。


「はい、もっかい最初から。諦めないで頑張ろう」


(なんなんだこれは)


隣の玉入れの玉がこちらに転がってきて、それを取りに来る人間が辺りをうろうろしている。


「待って?あんなに入れたはずなのに、なんで0個なわけ?」


向こうの玉入れのチームは苦戦しているようだ。


「絶対誰か裏切ってるよね。敵チームの人間がいるに決まってる」


(敵チーム?玉入れなのに敵チームがいるのか?)


なんだかとんでもない状況になっているようだ。そういえば今頃ソウジュツは何をしているのだろう。


もしかしたら、ソウジュツもこんな風にとんでも競技をこなしているのだろうか。


跳ねている最中に、辛夷の体の向きが偶然変わる。


「いいよ、その調子、58、59」


その角度から青チームの玉入れが見える。


(狐……!?)


青チームの体操服のはずなのに、なぜか狐のワッペン。


あれは、確かソウジュツの体操服に付けていたものと全く同じだ。


(どういうことなんだ?)


ソウジュツは黄色チームだったはずだから、青い体操服を着ているなんてありえないはず。


(……しまった!?)


向こうにいる狐のワッペンの生徒に気を取られてしまい、辛夷は縄を足に引っ掛けてしまう。


「おい、今よそ見してただろ?ナンテンさんも腕が痛くなってきちゃったよ」


「みんな……申し訳ない」


確か、60ほど跳べていたはず。ここでやり直しになるのは手痛いことだ。


「大丈夫ですよ。また、頑張りましょう」


ぜぇはぁ言いながら、優しい言葉をかけてくれるチームの仲間たち。


「辛夷さん?今度よそ見してたら……吸うからね」


「吸う!?」


それに対して意味のわからない圧をかけてくるナンテン。


(吸うって具体的に何なんだ⁉)


よくわからない脅迫に怯えながら、辛夷はひたすら跳ぶ。


生徒たちの残り体力的にも再チャレンジの機会は残り少ないだろう。


そして、皆が力を合わせようやく80を越えた。


「おいお前達、80超えたからって油断するなよ。99以下は全てゴミなんだからな」


たまに、謎の喝を入れながらも、ナンテンは一生懸命縄を回している。


そしてついにその時は訪れた。


「96、97、98、99、……100」


「やった~」


歓声が聞こえる。倒れこむ生徒たちもいるようだ。辛夷は息を整えて、隣を見た。


「ねぇやっぱり誰か入れたやつ、出してるでしょ」


隣ではまだカイカたちが玉入れを頑張っているようだ。


「隣の玉入れは、まだ終わってなさそうだな」


「うん。今回はカゴに全ての玉を入れるまでのタイムを計っているらしいからね」


辛夷が足を引っかけた原因になったあの狐のワッペンの生徒は相変わらず元気に走り回っているようだ。


確かに見た目はソウジュツとは全く違う生徒だ。


髪の色も、目の色も、ちゃんと青色の体操着を着ているし問題は無いはず。


けれど辛夷は何か引っかかって仕方が無かった。


あのワッペンの絶妙な位置といい、狐の形といい。そんなに偶然に一致するものなのだろうか。


「それじゃ、午前中の競技はこれでおしまいだから、俺たちはご飯行こう」


ナンテンが辛夷の服を引っ張る。


「俺はカイカたちと約束をしているのだが」


カイカはあの様子では昼飯どころではないだろう。


入れても入れても噴水のように吹き出すボールをただカイカは一生懸命カゴに入れようとしている。


現在カゴの中身は3個。そしてカゴの外にはざっと数えて27個ほど玉が落ちている。


「それじゃあ、俺もそっち参加していい?委員長の湿気た面拝みながら飯なんて御免なんだよね」


「湿気た面って。お前センキュウのこと嫌いなのか?」


センキュウは……まあ、会えば悪口セクハラ面倒臭野郎ではあるが、案外面倒見のいいところもあると辛夷は思っている。


その証拠に風紀委員会内の他のメンバーからは、かなり信頼されているように見える。


それでも、ナンテンはセンキュウの悪口をいつも言っている。それは本人がいようがいまいが関係なく言っている。


「あの人はね、なんか変な貫禄があるんですよね。なんか実家のおじいちゃんみたいな」


「おじいちゃんなのか。落ち着いてていいじゃないか」


辛夷は謎のフォローをする。これをセンキュウ本人が聞いていたらどう思うのだろうか。


センキュウが落ち込む様子を想像しようとしたが、辛夷には無理だったようだ。


思い浮かぶのは、センキュウが意地悪そうにニヤニヤと笑う顔のみ。


なぜならば、辛夷がいつも見ているセンキュウの顔がそれだからである。


「俺はおじいちゃんと遊びたいんじゃないの。同年代の子供と遊びたいんだよ」


「同年代の子供……?」


同年代の子供という独特の表現に辛夷は不思議そうに首をかしげた。

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