第15話 同じチームと別チームどっちが得か
そして、体育祭の当日がやってきた。
広々とした運動場の周囲には、魔法を使って組まれた仮設の建物が並ぶ。
「うわぁ、すごい華やかだねぇ」
「ああ、いつにも増してカラフルな気がする」
普段はモノクロの色調で構築されているティタン魔法妖術専門学校の校舎も、この日ばかりはその趣を変える。
赤、黄、青。
それぞれのチームの仮設小屋はそのチームカラーに染められて、生徒たちが自主的に施した装飾がさらにそれを引き立ている。
今日この日のために作られたそれは、翌日になればすっかり解体されてしまうものだ。
なのでこの光景を見ることができるのは、体育祭のこの日だけとなっている。
「それでは皆様。体育祭頑張りましょう」
辛夷は壇上でのスピーチを終える。
晴れ渡った空の下。一競技目のアナウンスが流れる。
「今日は、すっかり晴れましたね」
本部役員が集まるための簡易の休憩所には、やけにカラフルな衣装の面々が集まっている。
「俺たち全員違うチームなんだね。みんな一緒が良かったな~」
「そんなことないぞ。違うチームだからこそ、同じ競技で鉢合わせることがあるかもしれない」
辛夷は、赤い体操着を着ている。それは普段の体操着に見た目を変える魔法を使っているだけの簡素なものだ。
そしてチームの色さえ合っていれば、どんな風な装飾魔法を使ってもいいという決まりのため、生徒たちの着ている服装はいつにもまして華やかになっている。
「辛夷ちゃんは、服の色変えただけなの?もったいないよ。せっかく今日はアレンジオッケーなのに」
「まあ、どんな風にアレンジすればいいかわからなかったから」
「ま、俺も大したアレンジはできなかったんだけどね」
そう言って笑うカイカの着ている服は青色で、何やら胸元に可愛らしい犬のワッペンのようなものがつけられている。
「そうだ。俺のにつけたワッペン、辛夷ちゃんのにも付けといてあげるよ」
カイカは、辛夷の運動着の胸ポケットのあたりに手を添える。
すると、淡い光が出てそれはベリーのワッペンへと姿を変える。
「ずいぶんと可愛らしいワッペンだな」
「うんうん、上出来かな」
カイカはワッペンの出来に満足したようだ。
「ついでにソウジュツちゃんのにも付けてあげようか」
ソウジュツの方を見ると、ソウジュツは首を振っているようだ。
「私は遠慮しときます。可愛らしいものが似合う柄じゃないので」
そうして断ったはずのソウジュツの体操着の右腕のあたりにも、ワッペンが取り付けられることとなった。
「どうして?」
ソウジュツのワッペンは可愛らしいツリ目が特徴の狐である。
「狐か。かわいいな」
辛夷はソウジュツの狐のワッペンを眺めている。
「そうですか」
最初は嫌がっていたソウジュツも、今ではまんざらでもなさそうだ。
そうしているうちに第一競技召集の放送が流れる。
カイカの足元には転移の魔法陣が生成されている。
「あ、俺第一競技の参加者だから招集されるかも」
「そうなのか?」
「俺の競技は確か、体育館でやるはずだから絶対二人も見に来てね」
そう言い残してカイカは転移の魔法陣に吸い込まれてゆく。
辛夷は今日の競技が全て書かれた予定表を見た。
そこに書いてある通りならば、今頃カイカは第一競技場で行われるの玉入れに参加しているはず。
第1競技場は、ここから歩いて五分ほどだ。
辛夷は歩いて第1競技場に向かうことにする。
「……⁉」
そのはずだった。辛夷の足元には魔法陣が出ている。
(俺は玉入れの後の大縄に参加するはずだろ)
魔法陣が辛夷の疑問に答える機能などついているはずもない。
わけがわからないまま、辛夷は魔法陣によって転移されることとなった。
そして辛夷が辿りついた先は第1競技場。
「これはどういうことなんだ?」
すぐ隣では玉入れ競技が行われているようだ。
かごに向かって、青チームの面々がボールを投げ入れている。
その中にはカイカの姿も見える。
そして、辛夷と同じように連れてこられた赤チームのメンバーたち。
「あれ、大縄って玉入れの次だよな」
「早めに呼ばれたんだろ」
他のメンバーもどうやら事情は知らないらしい。
「あ、辛夷様も大縄ですか?」
「そうだが、まだ玉入れ終わってなさそうだし早く呼ばれ過ぎだよな」
「そうですよね」
玉入れが行われている競技場のその端でみんなして集まっていると、入口から誰かが走ってくるのが見える。
「はい、赤チームの皆さん並んてください」
それは、大縄を持ったナンテンともう一人。手をふってがこちらに向かって呼びかけている。
「はい、大縄の皆さんこんにちは。我々赤チームはこれから、大縄をしますよ」
「まだ、前の競技が終わってないようだが?」
カイカたちは、今も必死に玉入れをしている。それは、またまだ終わりそうにない。
「何を言ってるんですか?そんなこと言ってるうちに他の第2、第3の連中は百回跳び終わりますよ」
「百回だって?」
辛夷は驚きすぎて、というより言いたいことが多すぎて混乱していた。
「そうです。今回の大縄は、どのチームが先に百回跳び終わるかのタイムレースなんですよ」
だから早くとせかされて、辛夷は仕方なく列に並ぶ。
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