第12話 校長先生(おじ)
「……」
無言のまま廊下を歩いてゆくソウジュツと六君子。
二人の間には凍り付くような冷たい空気が流れる。
「なぜ、邪魔をする?」
「邪魔をしているのはあなたのほうですよね」
廊下の窓からのぞく空は夕方のオレンジを失い、真っ暗に染まりつつあった。
二人が向かうその先は校長室。校長室は、本部会議室と同じ棟の一フロア上に存在している。
重厚なこげ茶の絨毯に沿って歩くと、そこには大きな二枚の扉がそびえる。
ソウジュツはその扉に触れる。
するとその扉につけられたノッカーが、ひとりでに動いた。
「どうぞ、お入りください」
重低音の音をたてて扉は開く。
そこには、ただ一つだけ。存在感のある黒色の石でできた大きな執務机が二人を出迎える。背の高いその上に乗せられているのはは大量の書類。
六角形のその部屋の壁は、全て美しい色付きガラスの窓によって覆われている。
それに半ば埋もれるようにして座っている校長が見えた。
「ずいぶんと遅かったな。まあ、早すぎたのかもしれん。どちらでもいいことだが」
書類から顔をのぞかせて校長は話す。
「久しぶりだな、お前たち。ソウジュツについては、弟が迷惑をかけてすまなかった」
「いえいえ、校長先生にはいつもお世話になっておりますから」
ティタン魔法妖術専門学校の校長は理事長の実の兄であった。つまり、ソウジュツにとっても六君子にとっても叔父である。
「六君子については特に言うことも無い。そこに制服を用意してある。あと寮の鍵も置いてある」
地面から何かが生えてきて、それは花のように開く。
その中には青色のローブが入っていた。その青色ローブはソウジュツやカイカ、辛夷と同じ色をしている。
ローブの色は学年によって決まるから、六君子はソウジュツと同じ学年であるということだ。
「六君子は僕らよりも、年齢が一つ下のはず。赤色が正しいのでは?」
「いわゆる飛び級というやつだな。それも弟の考えだ。私は関与してない」
六君子はローブと鍵を手に取った。それを広げると、新しい服特有の匂いがする。
「寮の部屋はどこかは教科書とともに渡した資料に書いてある」
「私が案内しましょうか?」
ソウジュツが話しかけても、六君子は不機嫌そうな顔のままだ。
「いや、いい。だいたい知ってる。転校するのは慣れてるからな」
「そうですか、それは良かった」
ソウジュツは嫌味をこぼす。
仲の良さが欠片も感じられない二人を見て校長はため息をついた。
「もういい。行っていいぞ。何かあったら私に連絡してくれ。連絡先は二人とも知ってるだろうから」
それきり椅子をくるっと反対に向けて、校長はそっぽを向いている。
「それでは、失礼しました」
ソウジュツと六君子は挨拶をして校長室をそれぞれ去ることにした。
それぞれ廊下に出た二人は、同じ方向に向かって歩く。
校長室から出てすぐのその廊下は、ある程度の場所にたどり着くまでは一本道だから二人は嫌でも同じ方向に向かわざるを得ないのだ。
「そういえば、どうして辛夷さんに案内をしてもらいたかったんですか?」
転入してきたばかりなのに先を歩く六君子の背中に話しかける。
「お前に関係があるか?」
六君子は抑揚のない冷たい声で返事をする。その表情はソウジュツからは見えない。
「ええ、関係があります。辛夷さんは私にとって大切な存在ですから」
ソウジュツのその言葉で、六君子の肩が少しだけ動く。
「大切な存在?」
「そうです。あなたには分らないでしょうけど」
「……」
六君子は黙って歩き続ける。そのうち、廊下は分岐に近づいてゆく。その道は二つ。
一つは一般の寮や校舎に続く道。もう一つは役員たちが使う本部会議室に続く道。
ソウジュツと六君子はそこで別れることになる。
「あなたが何を企んでいるのか知りませんが、辛夷には指一本触れさせません」
別れる間際、ソウジュツは六君子の背中に向かって宣言をした。
妖精の灯が照らす暗い廊下その分かれ道でで六君子はソウジュツと対峙する。
「お前にそれができるのか?」
煽るように笑って、それから六君子が振り返ることは二度となかった。
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