第6話 監獄、またの名を風紀委員室

「まだカツアゲしてないのに、檻直行なんてちょっとやりすぎじゃないのか?」


「そうだよな、未遂なんだから許してくれてもいいのに」


風紀委員会の地下。そこにいる檻の中で生徒たちは相変わらず騒いでいた。


「ちょっと、(センキュウ)ちゃん。役員にかわいい子いたんだけど」


「役員は五人いる。かわいい子とはどれのことを言ってるのか分からない。赤子からやり直せ」


「ええ、ちょっと察してよ(センキュウ)ちゃん。」


ボスであるエンジュの声が聞こえてくる。エンジュだけはなぜか別の檻に入れられているようだ。


「なんか向こうからボスと風紀委員長の声が聞こえるんだけど?」


聞こえてくる声のもう片方は、風紀委員長のものだ。風紀委員会は校内放送などで定期的に放送を行っているので、この声の正体を知らない生徒のほうが少ない。


「というか、ボスは風紀委員長と何話してるんだ?」


「辛夷さんを口説いてたし、辛夷さんのことなんでしょうね」


「というか、ボスはなんで辛夷さんのこと知らなかったんだ?」


辛夷は入学式だけでなく全校集会や各種イベントなどでも代表者スピーチをしているので、参加している者であれば一度は見たこともあるはず。


「そりゃ、あの人イベントも集会も参加してないから。知らなくてもおかしくはないけど」


他よりも学年が一つ上の生徒が答える。


なぜかはわからないがエンジュは、基本的に生徒会役員が参加するイベントには参加しない。


「あの人は興味があること以外は、全然知らないからな」


生徒たちが雑談をしていると檻の向こうから、こちらに向かう足音が聞こえる。


「うわあ、こっちの檻にはいっぱいいますよ。副委員長」


「なんでそんな、虫がいっぱいいるみたいな言い方するの?」


檻の前に来たのは、風紀副委員長と紙束を持った風紀委員の二人。


「ああ、君たち。今回はまあ初犯だし未遂ってことで反省文一枚でいいって。よかったね」


「未遂でも書かなきゃいけないんですか?」


檻の中の一人が、文句を言う。


「書きたくないんなら、別に書かなくてもいいよ。書くまでずっと出られないだけだから」


そんな文句には慣れているとばかりに副委員長は軽くあしらう。


「それじゃ、さっさと原稿用紙入れてあげて」


紙束を持った風紀委員は檻の中にそれを入れる。


「ペンを持ってない人は貸すから言ってね」


生徒たち一人一人に原稿用紙が配られてゆく。


「君たちいいかな?反省文は反省している旨をしっかり書くんだよ」


床に紙を置いて、反省文を書く生徒たち。


手に持った鞭のようなものを手に持ってぺしぺしと弄びながら、副委員長は檻の前をうろうろとしている。


「書けました」


一人の生徒が反省文を提出する。それを受け取った風紀委員は、反省文をその場で確認し始めた。その一人書き終わると、次々と他の生徒も書き終えてゆく。


「その、鞭みたなものって何すか?」


「これ?あ、これのことか」


書き終わった生徒のうちの一人が、なんの気はなしに副委員長に尋ねた。


「それって鞭みたいに見えるんですけど、新種の杖なんですか?」


「何?普通にただの鞭だけど?」


「ひえ……」


なんでそんなものを持っているのか。それを聞く勇気は、ここにいる誰も持ち合わせていない。


「そうそう反省文なんだけど、もし、あまりにも出来が悪い子は一生ここから出さないからね~」


その言葉を聞いてあれだけ騒いでいた生徒たちは、いっせいに静かにななった。


「あれ?みんな急に大人しくなったね、反省したのかな?」


「何なのですか、ここは」


「風紀委員会はいつもこんな感じだぞ。新人は知らないだろうけど」


生徒たちは声をおさえてひそひそと話す。


「あのカモも取り逃がしちゃったし、今日はついてないな」


「それなんだけどさ」


後ろの方であまり話していなかった、一人が口を開く。


「俺みんなよりも後ろに立ってたからさ、偶然見ちゃったんだ」


「何をだ?」


それを生徒たちは不思議そうに聞いている。見た。とは何のことなのか、その場にいた生徒は続きが気になって仕方がない。


「あの弱そうな生徒、後ろ手に杖持ってた」


「なんだ?杖だって?」


「見たことのない形の杖だった。あれはおそらく、上級の杖だ」


「上級の杖だって?へぇ、面白そうな話してんね」


「あ、副委員長」


「上級の杖だってさ、(センキュウ)委員長」


ぬっと音もたてず、副委員長の後ろから風紀委員長が現れる。


「辛夷が上級以上の杖を持ってるなんて当然だろう?役員なんだから」


「それがどうも違うっぽいんだよね」


「どういうことだ?」


センキュウが尋ねるも、生徒たちはあまりに強いセンキュウの圧のせいで何も話すことができなくなっていた。


「あれが……風紀委員長」


背も高く、体格のいい。まさに鬼のように強そうな見た目。赤茶色の髪は無造作にまとめられ、青緑の目は可愛さや温厚さを少しも宿さない。


「ちょっと、気になるね。こいつらをここに送った役員なら何か知ってるかも」


「確かにそうだな。本部会議室に行けばいるだろうか?」


「俺、こいつら見とくから委員長は行ってきていいよ」


バイバイと手を振る副委員長。そして委員長であるセンキュウは風紀委員室を出て、本部会議室へと向かうことにした。

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