第9話 六君子vs11人の私生児たち

辛夷との電話を終えたソウジュツは再び電話をかける。


(頼む……出てくれ)


魔法式の電話は本物の電話のようにコール音も無ければ、留守番機能もない。


無音のなか、ただ相手が出てくれるのを待つだけだ。


「はい?」


「川芎さん。緊急の要件です」


ソウジュツがかけていた電話。その相手は風紀委員長の川芎だった。


ソウジュツがなぜ川芎に電話をかけたかというと、川芎も理事長の子供だからである。


川芎の立場はソウジュツと同じ私生児。


この学園には、ソウジュツと川芎を含めて11人の私生児たちが在籍している。


もちろん、これで全員ではない。あくまで、この学園に在籍している者だけを数えたらの話だ。


川芎が電話に出るやいなや、ソウジュツは話をはじめる。


「辛夷さんが西門に六君子といるそうです」


「はあ?六君子だと?なぜそんなやつがうちの校にいやがるんだ?」


「センキュウさんには言っていませんでしたね。今日、六君子が転入してきたんです」


「はぁ?」


「とにかく、六君子が辛夷さんといるんです。私もすぐに向かうので何とか時間を稼いでください」


「そんなこと言われてもな」


「では、急いでいるので切りますね」


その言葉を最後に、ソウジュツと繋がる電話が切れる。


おそらくソウジュツはソウジュツで辛夷を探しているのだろう。


けれど川芎にしてみれば、今辛夷がどこにいるかなんて知る由もないことだ。


それに、川芎自信も辛夷を探している最中だった。


(この電話がかかってるということは、辛夷は本部会議室にはいないのかもしれないな)


川芎が電話に出たのは、ちょうど本部会議室に向かう階段の踊り場だった。


(このまま進んでいいのか?いや、他に手がかりがあるわけでもねぇからな)


川芎はとりあえず本部会議室に向かうことにした。


「……当たってたようだな」


本部会議室の扉の前に立っているのは六君子だった。


「……」


相変わらず、不気味な漆黒の瞳。視線だけを川芎に向け、六君子はただ黙っている。


「よぉ、六君子さん。久しぶりだな」


先程の辛夷に対する態度がまるで嘘のように、六君子は川芎が話しかけても眉一つ動かさない。


「お前、なぜこの学校に転入してきた?」


「……」


「何が目的だと聞いている」


「……相変わらず蝿のように煩いな」


六君子はどこから取り出したのか、大ぶりの杖を手に持っている。


それは川芎も見覚えのある杖だ。


六君子の持つその杖は、光の杖。


その杖は、この世に存在する数多の杖の中でも、最高の等級。一等星を冠す。


その威力は、一振りで山を砕き、海を呑むとされる。


「お前、やる気か?」


杖を持つということは戦う意思を示すということ。


(このまま、勝手にさせるわけにはいかない)


川芎も自分の杖を持つ。


川芎の杖は炎の杖。その杖は六君子の持つ杖と同じ等級に並ぶものだ。


ひりつくような空気が二人の間を流れる。


このように川芎と六君子が杖を持って向かい合うのはこれがはじめてではない。


「お前が相変わらずのようで安心したよ」


六君子は昔から何も変わっていない。暴力的で、俺様気質。どうしようもない屑だ。


「本当に良かったよ。お前が善人にでもなっていたら、ぶちのめすのに心が痛むだろ?」


「……出来損ないが、お前に用はないというのに」


六君子と川芎はお互い、杖を構えたまま動かない。


その時、本部会議室の扉が開く音がした。


川芎と六君子は反射的に音のする方を見る。


「……!?」


扉から出てきたのは辛夷だ。


川芎は慌てて杖を仕舞おうとして、少し考える。


六君子はどう動くだろうか。


昔から、自分のしようとすることを邪魔されるのを何より嫌う男だった。


それならば、今扉を開けた辛夷のことはどう思うだろう。


(まさかとは思うが、辛夷のことをも攻撃しようってんじゃないよな)


とっさに杖をしまうのをやめて、六君子を見る。


(はぁ?)


六君子は杖を持っていなかった。


それだけではない。見たことのないゴマアザラシみたいな表情になっている。


(なんだあの顔……)


まじまじと見れば見るほど信じられない。地獄の大魔王が急に子兎になってしまったような。


それくらい驚くほどの変化だ。


(なんなんだあいつ)


川芎にとってはそれが不気味で仕方がない。


そして、辛夷が自分の手元をなんとなく見ていることにも気づく。


そういえば、川芎は六君子の動きを警戒して杖を持ったままだった。


(しまった。これでは俺が無害な生徒に杖を向ける危ない奴だと思われてしまう)


六君子は相変わらず、ゴマアザラシの目でこちらを見ている。


(畜生、やられた。これは印象操作だ)


川芎がどれだけ後悔をしても、今さらどうしようもないことだ。

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