王都から外に

セリは王都から出て南の方へと歩みを進めていた。




王都の周りを囲んでいた森林地帯も、半日程で抜けて何処までも続く平原地帯を歩いていた。




王都を歩いていて誰一人として人間の姿を見なかった。



もしかしたら《消滅》の能力は相当以上に強力で、王都中の人間を消し去ってしまったのかもしれない。





別に今更そんなことで罪悪感なんて感じたりしないが。




「ふぅ……」



セリは道中にあった岩に腰を下ろした。




『どうしました、流石に疲れました?』




レヴィンがそう問いかけてくる。



確かにかれこれ半日以上は歩いているのだ。そろそろ疲労が限界レベルに溜まってきた。



「疲れたし、今日はもう歩けない……」


『随分移動しましたしね。今日はここで野営でもいいんじゃないんですか』



もうそろそろ、日が沈んでくる頃だ。



近くに町がある訳でもないし、どのみち野外で眠る事になりそうだ。





にしても、疲労感以外にも空腹感が酷い。



森で食べれそうなものを探してみたが、それらしいものも見つけられなかった。




「っ……お腹が減った」




セリはふと口から言葉が漏れてしまう。



『随分と食事をとっていませんでしたからね……体力的にも何かしら食べないと持ちませんね、と言っても食べれそうなものは近場にありませんしねぇ』




確かにこの平原で食べれそうなものなど草くらいだ。


何かしら野生動物でもすれ違ってくれれば、倒して火の魔法で焼いて食べれるのだが。




セリはその辺りに生えている雑草をちぎって口に運ぶ。



『それ、美味しいですか……? 食べないよりマシなのは理解できますが』


「あの牢獄に閉じ込められていた時は、腐ったものしか与えられてなかったし、それよりはずっとマシ」




セリは、とりあえず何度か草を口の中に入れる。


正直こんなもので空腹を満たしている自分が惨めに思えてくるが、何も口に入れないよりはずっと良い。








それから、暫くしてセリは眠りについた。



雑草程度で空腹を満たせるわけがない。


空腹感は酷いものだが、身体の疲労はもっとひどい。眠りに落ちるのはそう時間は掛からなかった。









岩陰で数時間眠り続けていたその時だった。



『起きてください』



レヴィンの声で目が覚める。



セリは目を擦りながら、辺りを見渡してみると数人の柄の悪い男達に囲まれているのに気づく。



彼らの手に持つ松明の明かりのおかげで、暗闇の中でも容姿を確認することができた。




短剣や斧などの雑多な武器を装備した男達――真っ当な兵士には見えない。


恐らく十中八九、盗賊だ。




「こんなところで一人で何してんだ?」



盗賊らしき男が問いかけてくる。



「寝てた……それ以外何に見えたの?」



仮に盗賊じゃなくても、真っ当な人間には思えない


いっそ殺してしまうべきなのだろうか。



その男はセリの身体を下から上まで舐め回すように見渡す。


「……どっかからの逃亡奴隷か? 傷モノで大した値段もつかないだろうが、まぁいい……財布の足しにはなる、捕まえろ!」



男がそう言うと他の盗賊達がセリを抑えようと近づいてくる。



やはり、こいつらは盗賊の類だったようだ。




だが、ある意味これはセリにとって幸運だった。




何故ならーー。



「暴れんなよ。ガキ!」



盗賊の一人がセリの身体に手をつけようとした瞬間だった。



その盗賊は、松明では決して照らすことのできない闇――捕食者の影が包み込む。




「ううあぁぁ!? な、なんだこれ……!!」


「は、離れろ!?」



異質な"ナニか"に仲間が飲み込まれていく光景を見て盗賊達はセリから距離を取る。



今まで見たこともない、想像外の出来事に盗賊達は恐怖心が奥底から湧いてくる。



セリは、まだ疲労が抜けきっていない身体に鞭を打って起き上がる。




「お金と食べ物……置いて死ね」



セリは、そう盗賊達に吐き捨てた。

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