決戦-3
セリを中心に、空間が揺らいだ。
その揺らめきは、広場全体を包み込み。
更には、その遠く向こうにまで拡散していった。
「何をした……!?」
ストレイルが周囲に視線を散らばらせると、そこにはセリ以外の人の姿がいなかった。
広場を覆い尽くしていた何千人もの民衆達は、まるで最初から居なかったかの様に綺麗さっぱり消えていたのだ。
「ま、まさか……消滅の加護!? ば、馬鹿な、こんなに大勢を!!??」
これが、カルディナが頑なに使わなかった《消滅》の真なる能力だ。
《消滅》の加護には、当面の
そのあまりにも巨大な加害範囲から、カルディナはこの秘技を使わないと決めていた様だ。
実際、今の一撃で王都のどの範囲までが加害範囲になったのかセリにも分かりかねない。
もしかしたら、王都の大半の人間が消えてなくなっているかもしれない。
「ば、化け物め! な、なんなんだ、お前は!?」
ストレイルは恐怖が混じった困惑の声を上げる。
「お前と一緒……」
認めたくはないが、その異能の力――間違いなく加護だ。
しかし、何故セリの様な"選ばれていない人間"が神人に覚醒したのか、ストレイルには理解ができない。
「なんで、邪魔者を消したと思ったら……次から次へとっ!!」
そう言い放ったストレイルから、白色の炎が放たれる。
セリは、影を自身の周りに展開し更には
それと同時に周囲を激しい閃光と炸裂音が包み込んだ。
再び視界が開けると広場だったそこは禍々しい白炎に燃やされ、見渡す限り何もない更地になっていた。
直径500メートル圏内が、今後数百年は草一つ生えない焦土と化した。
「流石に死んだか」
この一撃を喰らって生きていた生命体など、ストレイルは知らない。
「
ストレイルは念の為、周囲の生き物を感知する魔法――生命探知ライフサーチを発動するが、そこに自分以外の命ある者の存在は感知できなかった。
完全に殺しきった。
ストレイルが油断しきったその瞬間。
「うっ……!?」
背後から、剣が突き刺さる。
それは、身体を貫いてその先にある、左手を切り落とした。
「な、なんで生きてる……!?」
何故だ。
何故生きているのかが、理解できない。
この周辺の自分以外の命は全て滅んでいる筈なのに。
「お前のせいで、また寿命が縮んだ」
セリはそれだけ言うと、剣を引き抜いて首を切り落とす。
背中の刺し傷も切られた首を直ぐに再生する。
しかし、切り落とされた左腕だけが再生しなかった。
そのまま血が噴水の様に左腕から溢れて出る。
「い、痛い、痛い痛い!? な、なんで回復しな、い……!!」
ストレイルは、加護により感じなくなっていた"痛覚が左手だけ"蘇っていた。
「そ、そうか……お、お前ぇ!!」
ストレイルはセリの身体を見て、理由を瞬時に理解した。
ストレイルの加護の能力は、同種の生物と身体を重ねる事ができる。
それが、《重複》の加護だ。
つまりどんなダメージを受けても、周りに誰かしら人間が居れば、その身体の部位が無事である限りストレイルはあらゆる攻撃を無効化出来るのだ。
だが、周辺にいる人間はセリだけだ。
そして、彼女の左腕は拷問で潰してしまった。
ストレイルの左腕は加護の能力対象外。左腕は再生することが出来ない。
ストレイルは視界がふらつく。
相当な量の出血だ。止血しなければ、死んでしまうだろう。
しかし、残念ながらストレイルは回復魔法を習得していない。
全ては加護で補えると思い込んでいたからだ。
「
ストレイルからどす黒い煙が放たれる。
彼は加護以外での異能として、人間が使うことができない闇系の魔法を限定的に使用することができる。
その代償として、ほんの少し寿命が短くなるが。
そのどす黒い煙は、一直線にセリに向かってくる。
「
だが、セリは禍々しいそれを、神聖魔法で消滅させた。
「し、神聖魔法……そ、そんなものまで……っ!」
神聖魔法の使い手は、この王都ではリユスと言う一級冒険者のみだ。
つまり、彼女もセリに取り込まれてしまったのだろう。
「あっぅ……」
その時だった。
ストレイルは貧血により、視界がぐらついた。
そのまま、地面に倒れ込む。
起きあがろうとしてもうまく身体に力が入らない。
「く、くる……な!」
近づいてくるセリに対して、ストレイルは魔法を乱射する。
様々な魔法がセリに着弾するが、その全ては
ストレイルの前まで迫ったセリは、質問を問いかける。
「なんで、お母さまにあんなことしたの?」
「俺の……名声をあいつは奪ったんだ!!」
「……何が言いたいの?」
「も、元々はここは俺の統括地域だったんだ。それが、あいつが割り込んできて、知らない間に人気集めてよぉ!! 俺のことは誰も尊敬しねぇ!!! みんなカルディナ、カルディナって気持ち悪りぃ!! 元々は俺が神人様って崇められていたのにっ!!」
ストレイルは身体に残った力全てを振り絞って、セリに怒鳴り散らした。
「そんなのお前の人望がないだけ……ただの八つ当たりで私達をこんな目に合わせて……本当にむかつく」
セリは、ストレイルの周りに影を這わせる。
「最後に聞くけど、なんで急にお母さまがあんなにぼろくそに扱われたの? いくらなんでもおかしい」
カルディナは人格者として、人々の間ではかなり好感度は高かった筈だ。そして、ストレイルは横暴さが目立ち、民衆の支持は薄かった。
いくらなんでも偽りの悪行が風潮されたからと言って、そんな急に態度が変わるものなのだろうか。
「……民衆は馬鹿だからな。あいつら直ぐに掌返す!! そんな奴らを信じる様な馬鹿だから、お前のお母さまは死んだんだよ!!」
「あっ……そう、まぁ……なんだろう、もういいや」
セリはストレイルを影で飲み込む。
「や、やめろ!!!! お、おいっ……」
ストレイルの全身を影が貪り喰らうが、それと同等以上の速度でストレイルの肉体が回復していく。
加護によりストレイルに痛みを与えられないのは残念で仕方ないが、身体を食い削られる不快感くらいは与えられる。
それから影に喰われ続け、十分後には影がストレイルを飲み込んだ。
死因は腕を斬られた事による出血死だろう。
結局、影ではストレイルにダメージを与えられる事は出来なかった。
ストレイルを取り込んだ事で《重複》の加護がセリに加わった。
これによりセリは《捕食者》《消滅》《重複》の三つの加護を保有している事になる。
『あと殺すべき相手は四人ですね』
レヴィンがそう問いかけてくる。
そうである。
カルディナをストレイルと共謀して、陥れた奴らは後四人いるのだ。
残る神人は自分を除いて四人。
《付喪》のスヴェラ。
《幻想》のワグナー。
《転輸》のカラシニフ。
《操魂》のエルト。
誰を取っても一騎当万の猛者達だ。
だが、セリは負けるつもりはない。
『さて……これから、何処に向かいます?』
「ギレア公国に向かう」
神人の居場所が分かっているのは、《操魂》のエルトくらいだ。
オスト王国を南に下っていくと、ギレア公国と言う国がある。
その国の大公を務めるのはギレア伯爵家の家長であるエルト・ギレアだ。
つまりは、神人が統治する国であると言うわけだ。
ぶっちゃけてしまえば、セリは他の神人の居場所を知らない。
ともかく、ここに長居する理由もなければ、メリットもない。
さっさとここを立ち去ってしまうべきだろう。
セリは、誰もいなくなった王都で公国の方角へと歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます