決戦
セリは、道路を真っ直ぐ歩いていく。
やがて、セリの視界に群衆の群れが映る。
人々の動揺と響めきが、セリの耳に不快にこびり付く。
中央広場は、人々がひしめき合い奥進めるようなスペースはない。
『これだけの人がいては、進めそうにありませんね……』
レヴィンはそう言った。
ならば、どうすれば良いかなど決まっている事なのに。
セリは、前方一直線に影を伸ばした。
影はその上にいた民衆を瞬時に飲み込み、広場の中心部まで真っ直ぐ広がる道が出来上がった。
食いこぼした血痕が赤いカーペットのように一直線に敷かれていた。
それは、まるでセリを歓迎するかのように中央にある燃え尽きた組み木まで案内していた。
『一つ邪険な事を聞きますが……どんな気分ですか?』
「……なんとも」
ここにいる人間は、カルディナに暴言や暴行を加えていた加害者だ。
そんな奴らが何十億人死のうが心は痛まない。
『満点の返答です』
レヴィンは楽しそうな声色で言う。
周辺にいた民衆達は、理解が追いつかない状況にパニック状態に陥った。
我先にその場から離れようと、人の下に人が下敷きになる。
それが何層にも重なり、何百人もが圧迫死していく。
「「焦るな!!」」
その時、聞き慣れた不愉快な声が周辺に響き渡った。
その声の主は、あのストレイル本人だった。
恐らく、音声拡散魔法を使っているのだろう。広場中にその声が鮮明に広がった。
「「ここにはこの俺がいる。今すぐその元凶にとどめを刺す!」」
そう不愉快な声の持ち主――ストレイルはそう宣言した。
それを聞いた、民衆達は動きを止める。
「そ、そうだ……俺らには神人がいる! ストレイル様がいるんだ!」
「そ、そうよ。ストレイル様が、あの化け物を殺してくれるわ!!」
民衆達は、徐々に歓声を上げる。その歓声は伝播して少しずつ大きくなっていく。
「あぁ……うるさい。うるさいなぁ」
不愉快だ。それ以上その男の名前を聞くと頭が、おかしくなってしまいそうだ。
その、聞き難い歓声の中をセリは進んでいく。
「っ、死ねぇ!!」
何を勘違いしてか、民衆の中から一人の男が飛び出して襲い掛かってくる。
「邪魔」
「ううっ……あぁぁ!!!?」
だが、男は影に瞬時に飲み込んでしまう。
それ以降、セリに襲いかかってくる愚者はもう居なかった。
広場の中央に到達すると、セリは最も見たくもなかったものを見てしまった。
それは、変わり果てた師匠にして母――カルディナの慣れ果てた姿だった。
その姿を見て、思わない様にしようと心に決めていたはずだった。
筈だったのに。
「……うっ……お、母さまっ……なっ、な、んで……」
それを見てしまったセリは、何かが崩壊するに涙が溢れてくる。
「なんで、なん、で……なん、で……なんで、なんで!」
カルディナとの楽しかった記憶――今までの生活の全てが鮮明に脳裏に焼き付いてくる。
このまま泣き喚いて、泣き崩れて、どうにかなってしまいたい。
しかしら今の自分にはそれすらできない。
「なんで生きてんだよ。気持ち悪いなぁ」
その時だった。
正面から罵声を浴びせてくる男がいた。
そう、ストレイルだ。
「お前は、お前は絶対に殺す! 私から、お母さまから全部奪ったお前達だけは……!!」
涙を拭ったセリは、これ以上ない殺意をストレイルに向ける。
「神人の俺を殺せると!? 笑わせるな、出来損ない。お前がなんであろうと、足元にも及ばないんだよ!!」
ストレイルは、そう言うと背後に無数の魔法陣が出現する。
「跡形もなく消してやる。塵も残さねぇ!!」
そう邪悪な笑みを浮かべるストレイルを前に、セリは影でカルディナだった消し炭を取り込んだ。
「誰にももう……奪わせない」
カルディナをもう誰にも奪われたくない。
セリは、そう思いながらもカルディナをその身に取り込んだ。
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