VS冒険者-2

 


「邪魔するつもり?」



セリは"白銀の刃"の面々に問いかける。



「お前が何を考えているかは分からないが……多くの一般市民がこの先にいる。通すわけには行かない」



黒髪の男――"白銀の刃"のリーダー、レット・ファイマンだ。



五百人の魔人族を一人で殲滅した猛者だ。神人には劣るが、この王都では英雄視されている。




彼の横にいる女神官は、リユス・コルサル。


土の元素魔法を極めており、更には特異体質で人間には使えない筈の神聖魔法を使うことができる。




双剣使いの男は、ラグラン・ゴール。



かつてドラゴンと対等に渡り合った実力者だ。戦闘狂らしく、各地の猛者と戦い続けた末にこの冒険者チームに落ち着いた、という経歴の持ち主だ。



初老の魔術師の男――グリア・ゴウンは、火の元素魔法を極めており、単純な魔法勝負ならカルディナに匹敵する。




この四人は、超一級の強者達だ。


彼らは王都では知らない者はいない程の英雄的存在。


神人には及ばないが、かなり面倒な相手だろう。




確か、彼らは生前のカルディナとも親交があった筈だ。


セリは、カルディナに連れられて一度だけ、彼らの元に向かった記憶がある。





「貴方達もお母さまがあんな事をしたと思っているの?」



セリは彼らに問いかける。



「信じたくはない……あんな人だとは俺達も思っていなかった! だが確たる悪行の証拠があるんだ。お前はまだ間に合う……! これ以上はやめろ。その身体の傷だ充分に罪は償っている筈だ」



セリはレットの言葉に落胆する。



母と交友があった彼らなら、カルディナの無罪を信じている――そう思っていたのにこの様だ。



他の奴らと一緒で、極悪人の犯罪者呼ばわりだ。




「決めた。お前ら全員殺す……絶対に許さない」



怒りが溢れてくる。



母を信じなかったこいつらが。


生前は仲良くしていたのに、こんな酷い言い様をするこいつらが。



「犯罪者のクソ魔女の娘は、所詮は同様の汚物って事ですね」



そう口開いたのは、女神官リユスだ。



「汚物……? お母様のことをそう言ったの?」


「そうです。裏切り者のクズなんですから、そんな事言われて当然です。私たちは信じていたのに」




一体何を言っているのだろうか。



勝手に裏切ったのはどう考えてもそっちだ。


陥れて、こんな酷い目に合わせたのはそっちの癖に。




「口では幾らでも言えるでしょう。実際は違った……今まで散々騙されてきたのですよ? あんなに私は信じていた」




そのリユスの発言を聞いたセリは、一瞬頭の中が真っ白になる。




「許さない……許さないっ!」



リユスに向かい、黒い影を全力で向かわせる。



黒い津波の様に形作った影は、リユスを飲み込もうと降り掛かる。



神聖流布セイクリッド・エクスパンション!」



リユスが魔法を詠唱すると、白色の光が周辺に拡散する。



その光は浴びた、黒い影は光を当てられた闇の様に一瞬で溶け消えてなくなる。



「やはり、大当たりです。あの影は闇属性を帯びていましたから、神聖魔法で無害化できますの」



だが、セリは止まらない。



「だったら、斬り殺す!」



セリは剣を構えて、そのままリユスに飛びかかる。



全能力向上オール・ブースト!」



強化魔法を使った事で、その身体能力は一級線レベルの戦士と大差ないものへとなる。



更には、取り込んだ兵士達の技量や経験のおかげだろう。


セリの動きは、歴戦の戦士のものだった。




だが、間に入ってきた双剣使い、ラグランにより斬撃を塞がれる。



「何という一撃……!」



ラグランは、セリの斬撃を受け止めて確信する。


予想以上の強者である事を。




その華奢な体躯から放たれているとは思えないほどに、斬撃は重かった。


少しでも力を抜いたら、その瞬間に斬り伏せられるだろう。



四撃カルテット!!」



ラグランは剣を双剣で受け止めながらも、剣技を発動する。


二つの双剣からそれぞれ四つ、合計で八つの斬撃の残像が現れ、セリに襲いかかった。



だが、セリはそれを的確に回避する。


身体を捻ったり、足を上手く捌いてそれら全て避ける。



「なに、あの距離で斬撃を全て回避しただと!?」



ラグランは驚きの声を上げる。


ほぼゼロ距離で、8回分の斬撃を避け切ったのだ。




しかし、それ以上に驚くことが一つあった。



過去に御前試合で戦った王国軍人のアサラトに避けられた時と全く同じ回避方法だった。




ラグランは、ある事を思い出した。


アサラト率いる王国軍は、近隣の監獄から、"影を操る少女が殺し回っている"と言う報告を受け、偵察に行っていた筈だ。




「お前、アサラトを殺したか……?」



ラグランはセリに問いかけた。



「アサラト?」


「王国軍の所属している人間だ」



それを聞いたセリは首を傾げた。



「その人は知らないけど、もしかしたら食い殺しちゃたかもね」



表情を何一つ変える事なくそう言った。

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