虐殺

目覚めると、穴の中だった。



地面に直接掘られた穴の中に、セリは捨てられていた。



「ここは……?」



ここはどこだろうか。



穴の深さは、3メートル程度で外の様子は伺えない。



上を見上げてみれば、日光が降り注いでいた。



「眩しっ……!」



三年ぶりの太陽の光は、視界が真っ白になる程に眩しかった。



どうやら、本当に蘇った様だ。




『上手く復活できたみたいですね。良かったです』



頭の中に、レヴィンの声が響き渡る。



「本当に蘇ったの?」


『えぇ、首と頭はくっつけられましたが、それ以外は力及ばず無理でした。それと、あの真っ白な空間にいても暇なので、感覚を共有させて貰ってます。構いませんよね?』


「それは大丈夫だけど、この状況って一体……」



それから、レヴィンはセリが死んでいた間に起こった事を説明してくれた。



どうやら、ストレイルに首を刎ねられた殺された後、この穴に投げ込まれたそうだ。



恐らくだが、この監獄にストレイルはもう居ないだろうとの事だった。




セリは残った片腕をうまく使い、なんとか穴から這い上がる。



どうやら、ここはセリが収容されていた監獄の中庭の様で、辺りは高い石造りの壁に囲まれていた。




自分の周りには幾つか、同様の穴が空いていたが、そう言うことなのだろう。






「お、おい……あいつさっき穴に落っことした奴じゃねぇか」



その時だった。



背後から声をかけられた。



そのにいたのは、二人の衛兵の姿だった。



あの二人は、何度か自分の事を痛めつけてきたのを覚えている。



彼らは首を落とされて死んだはずの、セリが生きていることに困惑している様だ。




『"加護"の使い方は身に染みてるはずです。それでやってしまいましょう』


「言われなくても……やるよ」




この監獄にいる人間は、皆殺しにする。



面白半分で痛めつけてきた奴、言われのない罵詈雑言を浴びせてきた奴、全員だ。



そしてストレイル――いや、神人達は絶対に生かしては置けない。





次の瞬間、セリの背後に黒い影が現れる。



それは、触手の様に這い回る。


影は二人の衛兵を瞬く間に包み込んだ。




「な、なんだこれは!?」


「くそっ!!」



突然の出来事に唖然する二人の衛兵達。



どんどんと増殖していく影に完全に飲み込まれ――。



「た、助けっ……!」



衛兵を飲み込んだ影の隙間から、血が噴き出す。


彼等の命奪った、影は瞬く間に消滅する。



影のあった位置には、衛兵の身につけていた防具と微かな血の跡だけが残っていた。




『これで、あの衛兵達の技術、魔法、加護の力をコピーできた筈ですよ……まぁ、特にこれといった特殊能力は何も持っていなかったみたいですが』




これが、"捕食者"の能力だ。


影が食らった相手の力を全て奪う能力。


全てを奪われたセリが発現するとは、何という皮肉なのだろうか。



『ここを出た後は、取りあえず王都の広場に行きましょう。あそこには貴方の師匠が放置されてます。あの方の"加護"は強力です。今後とも使えそうなので、取り込んでしまいましょう』



「うん……そうした方がいいんだろうけどさ」



自分の大切な人が、焼け炭になってる様を実際に見てしまった時、自分はそれを受け止められるのだろうか。



『放置しておくわけにも行きませんよ。それに、貴方の糧になれたのなら、せめてもの救いでしょう』



確かにレヴィンの言う事には、一理ある。


それにカルディナの持っていた"加護"《消滅》の力は、神人と戦う上では、欲しいと言うのも分かる。



しかし、ただでさえ現実を受け止めるのが精一杯なのに、そんな事をして精神が持つだろうか。


いや、もう常人の精神などとっくに無くなっている筈なのだが。




「な、何事だ!?」



衛兵達の断末魔を聞きつけた衛兵達が、何人、何十人とぞろぞろと中庭へと集結してくる。




『ささ、この調子で潰してしまいましょう』


「分かってる。全員逃しはしない」



セリは黒く澱んだ粘液状の影を四方に広げる。


まるで生き物のように這いずり回って辺りを覆い尽くす。



集結した衛兵達は、セリから伸びる漆黒の影に一瞬のうちに包まれていく。




後は先程と同じだった。



黒い影に飲まれて、後は身につけていた装備品と血痕を残して完全に消し去った。



『にしても、神人とは思えないほど悍ましい能力ですね』


「貴方がくれた力でしょ?」


『私が与えたのは、魂の欠片のみ……どの様な加護を習得するかは、あくまで貴方次第です』


 

レヴィン曰く、加護はその人物の深層心理の情緒を反映した能力を得るらしい。


つまるところ、セリは心の奥底でこの全てを奪う様な能力を渇望していたのだろう。




「まぁ、そんなのどうでもいいや」



セリは地面に無数に転がる血に濡れた防具や衣服を乗り越えて、監獄の中へと戻っていく。



この王都最大の監獄である――リィスト監獄は、血に染まり返る事になる。

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