地獄から地獄へ


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「起きてください。いつまで寝ているのですか?」



目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。



上の下も完全な虚無で、上下の方向もまともに分からない。



その様な空間で、セリは漂っていた。




死んだのだろうか――状況が理解できない。




「こ、ここは……?」




辺りを見渡すと、白銀の髪を持った、赤と緑のオッドアイの瞳を持つ少女の姿があった。


年齢的にいえば、自分よりも一回り年上だろうか。



彼女からは人外的な気配が尋常ではない程に発されていた。


特段セリには、そういった感知能力は持っていないのだが、それでも何かしらを感じる程には彼女の存在は異質だった。




「端的に言えば、あの世とこの世の中間地点です」



女はそう答えた。



「身体の痛みもないでしょう? ここは魂のみが存在するので、肉体の痛覚や感覚はありませんから」




確かに言われてみれば、身体中の酷い激痛がない。


常に身体を傷つけられ続け、感覚が麻痺していたが、身体中には、耐え難いほどの痛みが走っていたはずだ。



「名乗り遅れましたね……私は、レヴィン・エル・サトバルサ。貴方達が救世神と呼ぶ者の成れ果てです」



救世神には、個人的な名前が文献に残っていない。


レヴィンと名乗った女は、本当に救世神であるのだろうか。



救世神と名乗った彼女は、話しを続ける。




「貴方にお願いがあるのです。お互いに利益が出るいい話です聞いてくれますか?」



セリは首を縦に振った。



「なら、話は早いです。私は貴方に"加護"与えて復活させます。なので、残りの五人の神人を皆殺しにして欲しいのです」



「な、なんで……そんなことを?」



文献では、救世神は滅亡の危機に瀕していた人類を救済した存在だ。



なぜ人類の守り手たる神人を皆殺しにして欲しいと言っているのだろうか。


あんな屑の掃き溜めの様な連中でも、人類を守護しているのは紛れもない事実だ。



「疲れたんですよ。彼らが私の魂の欠片を持ち続けている限り、この何もない空間で永劫の時を生き続けなければいけません。今後何百年何千年と」




確か、救世神が崩御したのは六百年前だったはずだ。



だとしたら、レヴィンはこの何もない空間に六百年は居続けたと言うことなのだろうか。



「身勝手な理由ではありますが、私はもう消えてしまいたいんです。もう充分以上に人類の為に働きましたし、最後くらいワガママをやっても文句は言わせません」




レヴィンはそう言い、手を差し出してくる。



「勿論、手を取ってくれますよね? 死にたい私と生きたい貴方、死なない私と生きれない貴方――二人が手を取りあえば、立場を入れ替えることができるはずです。生きて復讐がしたいのでしょう? 貴方とその大切な人をこんな目に合わせた奴らに」




そうだ。


復讐がしたい。お母さまをあんな目に合わせた奴らを。


このまま、死にたくなんてない。




セリは、レヴィンの手を掴んだ。




「そうきてくれると思ってましたよ」


「お母さまの仇を取る。このままじゃ死ねない」



セリは覚悟を決めた。


こんなことをしたところで、カルディナは喜びはしないだろう――それでも。




「これから貴方を蘇らせますが、今の私には肉体の破損を修復する程の力は残っていません。その辺りはご了承くださいね」



つまりは甦らせるだけで、傷跡、欠損した右腕や右眼は再生できないと言う事だろう。


それは、できないと言うなら仕方がない。




「貴方に与えられる加護の能力は、"捕食者"です。食らった者の能力、異能、特技を完全に模倣することができます。使い勝手は、身体に刻まれるのでその辺は安心してくださいね」




レヴィンはそう言うと、セリの目元に手を当てる。



「勝手に起こしておいて申し訳ないですが、もう一度眠ってくださいね。次に目を覚ました時には、貴方の新しい人生が始まりますよ」




セリの意識はだんだんと薄れていった。


深い眠りに堕ちる様に、ゆっくりと、そうゆっくりと意識が闇に飲まれていった。

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