復讐者 side:アレン9 & ルア

〇〇視点。


…………今でも夢に見る。

消えてほしくても決して消えることのない目に焼き付けられた光景。


何故、あんなことになったのか。

何故、あんな目に合わなければいけなかったのか。


たった1人で村のみんなと私の親を奪い去った青い髪の男。


あの男に復讐するまで私は…………。



◆◇◆◇



「あっ、やっと起きた」


夕方。

出会って半日とちょっと、ようやく少女が目を覚ました。

少女は身体を起こしたまま、きょとんとした表情で惚けている。


俺はそんな彼女に近寄ると、側で腰を下ろした。

ちなみに横には父さんもいる。


「大丈夫か?かなり魘されてたけど」


「…………………………………。」


む、無言…………。

まさか無口キャラか?


「だれ?」


普通に喋るんかい。

どうやら俺達の間にはかなりタイムラグあるようだ。


「俺の名前はアレン。今朝、君が倒れてるところを見つけて、拾った……って言い方もおかしいか。

なんというか、看病……ってほど大したことはしてないし、うーん…………」


まずい。

怪しまれないようにすればするほど怪しくなっていく。


「と、とにかく、怪しいものじゃないから安心してくれ。ちなみに君の名前は?」


「…………ルア」


ルア、か。


「いい名前だ、君に合ってる」


「…………………………………。」


…………ま、また無言。

興味がないことや会話に必要ないことは答えないって感じか。

やりずらいな。


「あっ、そう、そう、忘れてた。俺の隣にいるこのデカい人は俺の父さんのドリーね」


俺は間を持たせる為に父さんの紹介をする。


「おい、アレン。なんだよ、その紹介の仕方は」


「いやいや、父さんを初めて見たら誰でもデカいと思うって」


俺も初めて父さんを見た時、デカッて思ったし。


「まぁ、俺は鍛えてるからな」


「もう父さんのムキムキ加減はそういう次元じゃない気がするけどね」


俺も父さんと同じか、それ以上やってるはずなのに、程々の筋肉しか付かないし。


…………っと、しまった。

完全にルアの事を忘れてた。


俺は父さんとの会話を切り上げて再び、ルアへと目線を戻す。

その瞬間、俺と父さんは揃ってこう声を漏した。


「「えっ…………」」


俺たちの目に映ったのはルアの頬を伝う一粒の涙。

な、泣いてる?


「ちょ、ちょっ、ちょっ、ど、ど、ど、どうした!?」


素性も知らないまだ幼い少女を泣かせてしまい、慌てふためく父さん。

そして、それは俺も同様で、


「も、もしかして、この人が怖かったのか!?大丈夫!!

この人の筋肉、見た目だけだから!俺より全然、弱いし!!」


「そうそう!最近なんて息子に負け越してんだよ!困っちゃうなぁぁああ!」


2人してなんとかルアを泣き止まそうと、とにかく声だけ出してみる。内容は置いといて。

が、次の瞬間、もう片方からも一粒涙がこぼれ落ちた。


えぇぇぇぇぇ!?な、なんで!?

や、やっぱり、父さんが怖いのか!?


「そ、そうだ!!ご飯食べよう、ご飯!!

父さん、ここは俺に任せていいからご飯作ってきて!」


俺はルアから父さんを引き剥がす為に父さんにそう指示をする。

すると、父さんはなんとも言えない悲しげな表情見せたが、

ここはどうにか耐えて、俺の指示を受け入れた。


「…………あ、あぁ。任せた…………」


そう言って負のオーラを纏い、儚げな背中で去っていく父さん。

可哀想だが、泣きそうな大人より泣いてる子供優先だ。


「ふぅ。もう大丈夫だから安心して。しばらくあの人帰ってこないと思うし」


「………………………………。」


またまた無言。

けど、涙は止まったようだ。良かった。


それじゃあ、まず手始めとして、


「えーっと、ルアは自分の身に何があったか覚えてたりする?」


「…………………………………。」


んー、清々しいほどの無言。

せめて首を縦か横に動かすくらいしてほしいんだが。

反応を見せるどころか、表情ひとつ変えない。


「じゃ、じゃあ、どこら辺に住んでたかとかは?」


「…………………………………。」


「す、好きな食べ物は?」


「…………………………………。」


「…………き、君は何歳?」


「…………………………………。」


「…………………………………。」


ダ、ダメだ。難攻不落すぎる。

この世界の10歳くらいの子って大体,こんな感じなのか?


どうしたら話してくれる?

母さんみたいにおやつの話とかで釣られるタイプには見えないし。

うーん、困った。


「…………私をどうするの」


「っ!」


俺が会話の糸口を模索していると、まさかのルアの方から喋りかけてくる。

今、私をどうするのって言ったか?


「ど、どうもしないよ。まぁ、君が助けを求めるなら助けるけど」


「嘘。あなたは私を警戒している」


「っ!」


正直、図星だった。少し喋ってみて心の中で芽生えた疑惑。

5人を殺したのはもしかして、この子かも知れない…………。


「たしかに俺は君を警戒している。でも、助けたいというのも嘘じゃない。

…………だから、聞かせてくれ。ここ最近、人を殺したかどうか」


少しの間、流れる沈黙。

しかし、今度はその沈黙が続くことはなかった。


「殺した。2日か3日前の夜に男を5人」


「っ……………………。そうか」


嘘をつくことも出来たはずだが、正直に答えたか。

罪悪感からか、なんなのか。

でも、表情はさっきと同じように変わることはない。


「どうやって殺したんだ?」


「私は毒魔法が使える。だから、水に毒を混ぜた」


毒魔法!?

た、たしかにそれなら10歳の子供でも容易に大人を殺すことが出来る。

でも、毒魔法ってたしか、超希少な属性じゃなかったか?


「なんで、5人を殺したんだ?」


「復讐の為」


復讐?


「それってその5人にか?」


「違う。村のみんなとお父さんとお母さんを殺した奴。

だから、奴隷商なんかに捕まるわけにはいかない」


「っ!」


…………なるほど、そういうことか。

段々と話が見えてきた。


ルアは村の仲間と親を何者かに殺されて、その復讐相手を探していた。

けど、その際、奴隷商に目をつけられて、捕まりそうになったからその奴隷商人達を殺して逃げた。

で、食事も出来ず、水も飲めず、あそこで飢え死に寸前だった。


多少の違いはあるだろうが、大体、こんなところだろう。

10歳の子供が……いや、そうでなくても、人間が体験するには壮絶すぎる人生だな。


「どうする?私を殺す?それとも捕まえる?」


そうは言いながらも俺に殺気を向けてくるルア。

俺が殺すと言えば、問答無用で襲いかかってくるだろう。


俺はその殺気から逃げるように顔を俯かせる。

…………この世界が地球よりも過酷というのは分かっていた。

けど、どうやらまだ認識が甘かったらしい。


俺の歩んできた人生がどれだけ緩やかなもので、

ルアが歩んできた人生がどれだけ険しいものだったのか。

この子はきっと生きたいから生きてるのではなく、死ねないから生きているんだろう。


そんな子に俺が何を言ってやれるって言うんだ?

恵まれた人生を生きながら過酷な人生を生きたいと願い、

それでも尚、周りに支えられて生きている俺に。一体、何を言って…………。



俺はどうにかして彼女を復讐の道から外そうと気の利いた一言を探す。

しかし、すぐにその間違いに気づいた。



…………いや、違う。そうじゃない。


多分、ルアの決意は俺や他人が何か言って止まるほど軽いものではないはずだ。

おそらくそれだけがこの子にとって今生きている理由だから。

なら、俺がやるべきはパッと思いつくような薄い言葉を並べるようなことじゃない。

彼女に生きたいと、復讐を成し遂げて尚、いたいと思える場所を作ってあげることだ。


「…………決めた?」


俺が結論を出して、再び顔を上げるとルアがそう質問してくる。

その手には何かの魔法も発動され掛けていた。

俺はそんな彼女の手を……震える手を尻目に捉えてこう答える。


「うん。君には俺の家族になってもらうことにした」


「……………………………………。」


無言。でも、さっきとは違う。

若干だが、表情に変化が見える……ような気がする。

魔法も発動が止まった。


「家族になる?意味が分からない」


「別に難しいことは言ってない。今日……はもう遅いから、

明日の朝になったら俺と一緒に俺の村へ帰ってそこで暮らそう」


遠征を途中辞退するのは少し残念だけど、仕方ない。

ここは我慢だ。


「私は復讐を…………」


「分かってる。だから、いつか復讐出来るまでうちの村で鍛えればいい。

俺も父さんもまぁまぁ強いからいい訓練相手になると思う」


まぁ、これに関しては俺が訓練相手になって欲しいだけだけど。

そこはカッコつけさせてもらって。


「…………あなた、頭おかしいの?」


「えっ…………」


カッコいいこと言ったつもりが、突然の暴言。


えっ、俺って頭おかしいの?

い、いや、たしかによく考えてみれば大分、普通の人と思考がズレてる自覚はあるけど。

…………そ、そうか。俺って頭おかしかったのか。

けど、まぁ頭がおかしい俺から言えば、俺は間違った事を言っているつもりはない。


俺だって村のみんなや親を殺されたら絶対に復讐してやると思うはずだし、

よく言う、復讐は何も生まないっていうのはそうかもしれないが、

じゃあ、大切な人を奪われた人の気持ちはどうすればいいんだという話だ。


俺は復讐なんてしたことないし、その時の気持ちなんて想像出来ないから分からないが、

もし、復讐で少しでもその人の心が楽になるなら俺は復讐肯定派だ。

なんであろうと悪人が善人を苦しめていい理由はない。


「殺人者に向かって家族になろうとか頭おかしいとしか言いようがない」


「人を殺した、殺してないで善人か悪人かは決まらない。

俺は噂も法も信じない。その人間が善か悪かは自分の目で見て決める。

で、とりあえず、今のところ、君は善だ。だから、問題はない」


「あなたに問題がなくても、あなたの親や村の人達は認めない」


「それは大丈夫、俺が説得するから。最悪、奥の手もあるし」


今まで温めて置いた甲斐があった。

なんだかんだで大人達はアレに弱いからな。


「だから、俺の家族になれ。絶対に悪いようにはしない」


そう言って俺は手を差し出す。


「…………ひとつ聞かせて」


俺の差し出した手を見ながらそう告げるルア。


「なんだ?」


「なんであなたは今日……さっき会ったばかりの私にそこまでするの?」


答えられない質問だったらどうしようかと身構えたが、

それは俺にとって1番すぐに答えが出る質問。


「簡単。俺が最強になる男だからだ」


「……………………………………。」


自分から聞いといて無言。

まぁ、もういい加減慣れてきたけど。


俺達の間に沈黙が流れる。

そして、数秒沈黙が続くと俺の差し出した手をルアの手が包む。


「分かった。もし許可が取れれば私はあなたと一緒に村へ行く」


「っ!」


よし。


「一緒に復讐頑張ろう!」


「…………復讐は私1人でやる」



◆◇◆◇



父さんと今いる村の人(狩りのメンバー)への説得は意外とすんなり通った。

勿論、時々口論にはなったけど、奥の手を出したら即了承。

やっぱり大人達は意外とチョロい。


今日は遅いので明日の朝になったら俺とルアだけ先に村へ帰ることにした。

ルアがどれだけ強いかは知らないけど、流石に遠征に同行させるわけにはいかないし。

遠征の方は元々、俺は参加しない前提で話を進めてたので俺がいなくなっても問題ないだろう。



「ダハハハハハハ!最高!!」

「やめてくれー!腹がちぎれる!!!」


昨日アレだけ飲んだのに、目の前に広がるのは全く同じ景色。

服を脱ぎ散らかし、酒を流し込み、大笑い。


「あの人達、この調子じゃ明日も出発できそうにないな」


俺は昨日同じように冷たい目で彼らを見ながらそう呟く。

俺は前世を足したら精神年齢27.8の大人だからいいが、

まだ10歳のルアにとっては目に毒というやつだろう。


「大丈夫か、ルア。気持ち悪ければあの人達、締めてくるけど」


俺は隣に座るルアにそう聞いてみる。

けど、意外にもルアの顔はさっきより晴れてる気がする。

気のせいかもしれないが。


っ!まさか、そういう趣味か!?


「…………少し、昔を思い出した」


「昔?」


「お母さんが生きてる頃。お母さんもお酒大好きだったから」


「あ、あれ見て思い出すって……。相当ワイルドのママだったのね……」


俺が少し引きながらそう告げるとルアは前に向けていた視線を俺に向ける。


えっ、何?


「あなたに似ている」


「?」


「お母さん。あなたを見ていてもお母さんを思い出す」


「い、いや、俺、そこまでワイルドな感じじゃないと思うんだけど」


「…………そこじゃない」


えぇぇぇ。じゃあ、どこだよ。

その答えを知りたかったが、ルアは突然、立って歩き始めてしまう。


「どっか行くのか?」


「寝る」


これまた突然。

やっぱり変わってるなぁ。


でも、さっきより喋ってくれるようになったな。

大丈夫だ、この子は。きっといい家族になれる。


そう思っていたのに…………、



翌朝。

目が覚めると、ルアはいなくなっていた。

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