紫の少女 side:アレン8
「おーい、起きろー」
「……お……え………」
「む、むりぃ…………」
酒で酔い潰れて準備時間になっても起きないダメ男達に対し、俺は起きるように呼び掛ける。
しかし、みんな少し反応を見せるだけで全く動こうとはしない。
そして、そのまま動く気配はなく、しまいにはいびきまで聞こえ始めた。
ダメだ、こりゃ。
もう既に予定時刻からは1時間半程経過している。
今日の遠征、どうすんだよ。
…………ってか、父さんは?
昨日の夜、父さんだけは唯一まともに話ができていた。
まさか父さんまで寝てるってことは…………、
俺は集団の中からなんだかんだで頼りになる男である父さんを探し出す。
が、
「俺は騎士団長に勝った最強の男ー!」
と、ドリー容疑者は理解に苦しむ供述を続けており、再び、眠りにつきました。
この男、さては俺が居なくなった後で飲んだな?
「リーダーの父さんまでこうなったらどうしようもないじゃん…………」
なるほど。前世で大人がよく言ってた、酒は飲んでも飲まれるなってこういうことか。
いつもはあんなに逞しい父さんがこんなに情けなくなるなんて。
…………さて、これからどうしたものか。
こんな有様じゃ起こしたところでって感じだろう。
もしかしたら今日1日は誰も動けないってことも…………。
「はぁ」
遠征でいつも予定は1、2週間とかなのに3週間くらいに長引いていた理由が分かった気がする。
いや、気がするっていうか、絶対にそうだ。
「とりあえず、朝ごはん探してくるか…………」
◆◇◆◇
寝てる狩りのメンバーの1人から弓を借りた……というか、盗んだ俺は、
その弓を思いっきり上空に向かって弾き、矢を放つ。
すると、俺の放った矢は見事、上空で鳥を仕留めることに成功した。
「よし!」
鶏肉ゲット。一発で仕留められたのはデカい。
あとはこれをささみにでもして、村から持ってきたパンと食べるとしよう。
昨日獲った肉はまだ残ってるけど、朝から豚とかイノシシはキツイしな。
…………というか、あの酒飲み連中はそろそろ起きたんだろうか。
帰って起きてなかったらマジでどうしてやろう。
「はぁ。まだ始まって2日目なのに…………」
俺はこの遠征の行く末を案じてそう呟く。
————その時だった。
ふと空を見上げた俺の視界の隅に地面に横たわる人の影が映り込む。
「?」
最初は酒癖の悪い狩りのメンバーが1人離れて倒れてるだけかと思ったが、
その倒れる人物に近づいて見るとすぐに違うことに気がつく。
倒れていたのは、なんというか…………、とにかく紫色の印象が強い少女。
歳は多分、俺と同じくらいで顔立ちもかなり整っている。
けど、それより目を引くのがまるで宝石のように光り輝く紫色の髪と瞳。
「綺麗…………」
俺はそう呟くと思わずその少女の髪に手を……って、いや、ちょっと待て!
危ない、危ない。なにやってんだ、俺。
幼女に手を出すとか以前にこの状況、普通に考えて怪しさ満載だろ。
まず、こんなところに年端も行かない女の子が倒れてる時点で変だ。
そもそもこの近くに村はない。この子はどこから現れたのか。
そして、明らかに栄養不足な顔色に細すぎる身体。
息だって相当弱まってる。1日、2日でこうはならない。
…………匂う。ぷんぷん匂う。
んー、これ関わっていいやつか?
どう見てもなんかの組織に追われて逃げてきた感じだし…………。
うん。
この子には申し訳ないけど、ここは関わらないようにしとこう。
そうして俺はみんな元に1人で…………、
1人で…………、
◆◇◆◇
「…………なんて、できるわけないよなぁ」
少女を見捨てることの出来なかった俺はとりあえず、みんなのいる拠点まで連れ帰り、看病をしていた。
まぁ看病と言っても、俺は医者ではないので、下手なことはせず、水を飲ませて寝かせているだけだが。
しかし、一体、この子の身に何があったんだ?
こんな小さい子がここまで衰弱するなんて普通じゃない。
この世界に魔力という概念がなければ、この子はおそらくウイルスとかでとっくに死んでるだろう。
やっぱ関わるべきじゃなかったかなぁ…………。
いや、俺はいずれ最強になる男。
大勢の命を救うにはまず目の前の命から。
例え、この少女が悪魔の子でも見捨てていい理由にはならない。
助けるか助けないかはこの子が悪か善かしっかり見極めてからだ。
「と、その為には…………」
◆◇◆◇
「っ痛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
父さんの悲鳴に近い悲痛の声が辺り一帯に響き渡る。
そして、そのまま反射的に身体を起こすと、父さんは首をブンブン回して周りを見渡す。
数回首が行き来したところで目線が止まり、その視線はある1人の男に注がれた。
その男とは右手に木剣を持って、冷たい目線で見下す、他でもない俺のこと。
「おい、アレン。お前、何してるんだ?」
事態を理解した父さんは綺麗にたんこぶができた頭を抑えながら、
自分の立場を棚に上げて俺に疑惑の視線を向ける。
「それはこっちのセリフ。今何時だと思ってるの?」
「ん?何時ってそりゃあ、あ…………。も、もしかして、俺、やった?」
俺の言葉でようやく自分が悪いと気づいた父さんは俺にそう問いかける。
俺はその問いに対して首をゆっくり頷かせて答えた。
「そ、それは悪かった。けど、もっと普通に起こしてくれていいだろ」
「それ、この状況見ても言える?」
俺は首をクイっとやって父さんの目線を誘導させる。
そこに映るのは悲惨な光景。
「…………すまん。全面的に俺が悪い」
同類の姿を見て反省を重ねた父さんはまた謝罪する。
大分反省したようだし、そろそろ許してやるか。
「それじゃあ、ちょっと時間ちょうだい」
「ん?なんかすんのか?まさか決闘?無理だぞ」
「違う。少し話があるんだ」
◆◇◆◇
父さんを起こした俺は父さんと一緒に寝かせた少女の元まで行き、
そこでこの少女に出会った経緯を説明していた。
「…………なるほど。それはたしかに事件の匂いがするな」
「うん。父さんはこの子が倒れてたことについてなんか思い当たることない?」
「ん…………、そうは言われてもなぁ。今、二日酔いで頭が回らねぇし」
そう言って父さんは太々しい態度で頭をぼりぼりと掻く。
「それ言い訳になると思ってる?なんか手掛かりになるもの捻り出せなきゃ、
昨日のこと、母さんにチクるから」
「お、おい、それだけはやめろよ!?そしたらもう遠征に行けなくなっちまう!」
「だったら早くなんか出して」
「い、いや、けど、ないものはないし……って、あっ」
窮地に立たされて頭が回ったのか、父さんは何かを思い出したかのように言葉を漏らす。
「何か思い出した?」
「あ、あぁ。関係あるか分からないが、昨日立ち寄った村でその村の村長が、
付近で5人の男の死体が見つかったから気をつけろって」
「5人の男の死体?まさか、それをこの子が?」
「いや、流石にそれはないだろ。お前じゃないんだ、早々大人が子供にやられるか」
たしかに。可能性としてなくはないが、限りなく低いだろう。
となると、
「5人の男達が魔物に襲われてる間に逃げてきた?」
「んー、まぁ、無理やり結論づけるならな」
父さんもそうみたいだが、どうにもしっくりこない感じはする。
魔物に襲われて少女1人だけが逃げられたというのも、可能性としては低い。
まぁ、この子が5人を殺した可能性に比べればあり得るけど。
「…………この子が起きたら聞いてみるしかないか」
「だな」
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