直感 side:アレン10 & ルア2

早朝。

起きたらいなくなっていたルアを探して俺は森の中を走り回っていた。

何故に森の中?と思うかもしれないが、地面に残された足跡が森に向かっていたのだ。

おそらくルアはまだ森に中にいるはず。


だが…………、


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


もう探し始めてかれこれ2時間程。

なのに、ルアを見つけるどころか、気配すらも感じない。


やっぱりこのデカい森を1人で探すには限界がある。

父さん達にも手伝って欲しいけど、昨日の夜のせいで使い物にならないし。


ったく。勝手にいなくなったり、酔い潰れるまで酒飲んだり。

俺の周りには碌な奴しかいねぇのか!


こうなったら何としてでもルアを見つけ出して、溜まった愚痴、全部ぶつけてやる!!



◆◇◆◇



ルア視点。


私はこの森を抜けた先にある新たな国を目指して1人、森の中を突き進んでいた。


復讐からはまた少し遠ざかってしまうけど、

これ以上この国にいれば、きっとまた追われることになる。

それでは復讐どころではない。


大丈夫、そもそも私は元々違う国の人間だ。

この国にも逃げ込んだに過ぎない。

ただ一つこの国に心残りがあるとすれば…………、


『君には俺の家族になってもらうことにした』


…………アレン。不思議な人だった。

まるで久しぶりにお母さんと話してるような、そんな気分にさせられた。

ただのお人好しかと思えば非道な部分も持ち合わせてるところとか、

自信からくる余裕の持ち方とか、ちょっと強引なところとか、本当にそっくり。


だから、家族になろうって言われた時は嬉しかった。

またあの日常に戻れるかもとつい心が踊った。


でも、だからこそ、私はアレンと一緒にいる訳にはいかない。

私といればアレンは必ず不幸になる。あの時みたいに…………。


『ザザッ』


「っ!」


付近で草の擦れる音がして私はすぐさま戦闘態勢に入る。

すると、そこから現れたのはアルミラージという兎型の魔物。

朝ごはんを食べていなかった私はアルミラージの捕獲を試みる。

しかし、そのアルミラージは私に気がつくと驚いてすぐに逃走してしまった。


…………まただ。

何故か昔から魔物は私を見ると襲ってこないで逃げていく。

だから、私は今までの人生で一度も魔物に襲われたことがない。

毒魔法の匂いでも残っているのか、それとも本能で私には勝てないと分かるのか。


でも、それは逆を言うと私に襲ってくる魔物がいた時は…………。



「…………………………………。」



その瞬間、私の思考は停止する。

しかし、思考が纏まるより早く、何よりも先に私の身体がこう告げていた。


『逃げろ』と。


背後から段々と近づいてくる気配。

後ろに何かがいる。逆らってはいけない何かが。


私は身体が告げる警告を聞かず、後ろを振り返る。


すると、そこにいたのは私の3倍はあろうかという巨体の化け物。

緑色の肌。身体のあちこちにある傷。そして、手に持たれた大剣。


なに、この魔物…………。


見た目はゴブリンだけど、普通のゴブリンじゃない。

漂う風格が、何より私の本能がそう言っている。

自分の意思とは関係なく震える足と全身から流れ出る汗。


…………絶対に、絶対に私はこの魔物には勝てない。

けど、大丈夫。魔物は私に寄り付かない。

変に刺激さえしなければやり過ごせる。


私はそう考えて、下手に逃げたりはせず、その場でじっと静止する。

しかし、


「ウォォォォォォォォォ!!!!」


その魔物は骨まで振動させるような雄叫びを上げた後、

完全に私に狙いを定めて、走り出す。


「っ!!?」


逃げるどころか、物凄い勢いで私に向かってくる魔物。


マズイ。このままじゃ殺される。

そう判断した私はやり過ごすのを諦めてすぐに戦闘態勢に入る。


『毒魔法 九蛇の毒牙』


私の毒魔法で出現した9匹の蛇が魔物に向かっていく。

『九蛇の毒牙』これは私のオリジナル魔法。

毒蛇が体外から直接、体内へと侵入し、毒でダメージを与える。

威力は大したことないけど、その即効性は私の扱える魔法の中で1番早い。

一瞬、動けなくなったところに私の最高火力をぶつける。


魔物は『九蛇の毒牙』を避けようとすることなく、真っ向から喰らう。


よし。

『九蛇の毒牙』の毒が全身に回るまでは1秒もいらない。

これで魔物の動きは一瞬、止ま…………、


その瞬間、私は信じられない光景を目にする。

今までこの『九蛇の毒牙』を喰らって無傷で済んだ敵はいなかった。

しかし、今、目の前にいる魔物は止まるどころか、全くスピードを落とさず、私に突っ込んできていた。


「っ!!!!??」


止まらない!


その後もその魔物に毒が回る気配はなく、私がいる手前まで接近した魔物は大剣を振り上げる。

この攻撃を喰らったら確実に死ぬ。

今度はその直感に従い、私は緊急時の為に懐に忍ばせていたクナイを取り出すと

自分と振り下ろされる大剣の間になんとか潜り込ませる。

しかし、クナイで勢いの乗った大剣の攻撃を受け止め切れるはずもなく、

私はそのクナイごと10メートルほど後方まで吹き飛ばされた。


「っ!!」


何度か地面に跳ねられた後、勢いに乗ったまま、私の背中と木が激突する。


最低限の対処をしたとはいえ、骨が何本か折れた。

いや、気を失ったり、死んだりしなかっただけ良かったと見るべき。


…………それより、問題はこの魔物。

私の毒が全く効いていない。こんなの初めての経験。


勿論、『九蛇の毒牙』より強い魔法はある。

けど、強い魔法はそれだけイメージに時間が掛かるし、

この魔物にそれが通じるかと言われたらわからない。

少なくとも命を晒してやるにはリスクが高すぎる。


なら、ここは間違いなく逃げるべき。

でも、この魔物が私を逃がしてくれるとは思わない。


…………久しぶりだ、この感じ。

圧倒的強者を目の前にして、自分の持つ力がどれも通用する気がしない感覚。

お母さんと模擬戦をした時とあの男を前にした時以来。



私は今まで一回も魔物に襲われたことがない。

でも、それは逆を言うと、私に襲ってくる魔物がいた時は、

『魔物が私に勝てる』と判断した時だ。

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