オリジナル魔法 side:ウィル6

エルド兄さんの成長も見れたし、いい感じのところで負けようと思ってたが、前言撤回だ。

この裏切り者を許してはならない。全力で叩く、そして、泣かす。

…………あのイケメン面、鼻水でぐちゅぐちゅにしてやる。


その為にはまず、エルド兄さんが最初に放った泡をどうにかしなければならない。

これのせいでただでさえ制限を受けてる俺の魔法が更に制限を受けてしまっている。


まぁ、でも一応、これをどうにかする方法はあった。

失敗したら隙デカいし、面倒くさいからやらなかったが。

…………後悔するといいよ、エルド兄さん。

こっからが俺の本気だ。


今日初めて見た魔法だが、あれだけ泡にいいようにやられれば弱点も見えてくるというものだ。

多分、この泡は攻撃が当たると相殺されて消える。

炎槍も雷槍も氷槍も全部吸収されたのではなく、相殺されていた。

だから範囲の広いAランク魔法を使えばおそらく一発で終わりだ。


しかし、ここで問題が一つ。

それはBランクの基本魔法に範囲の広い技がないこと。


オルトス父さんもエルド兄さんがこんなに強くなってると思わなかったんだろうな。

完全にルールの設定ミスだ。後で文句を言ってやろう。


てなことで、現段階でこれを打ち破る方法は、

即興でオリジナルの魔法を作り出す。これしかない。

威力が強いとルールに引っ掛かる。だから威力は弱めに、でも範囲の広い魔法を、


俺は手に『火球』を作り出してからそれを意図的に爆ぜさせる。

すると、爆ぜた火花が辺り一体に散り、火花に当たった泡達は次々に割れていった。

そして、最終的に残った泡は一つだけ。俺はそれを小さな氷槍で割り、全ての泡を消すことに成功する。


「あぁ、やっぱりウィルは破ってくるかぁ。今の魔法は即興かな?」


割れていく泡を眺めながらそう呟き、俺に質問してくるエルド兄さん。

まるでさっき自分で言ったことを忘れたかのように接してくる。

どうやら罪の意識がないようだ。これは俺が分らせてあげないといけない。


アイゼル兄さんの時はイレーナ母さんに止められたけど、今は模擬戦中。

邪魔だった泡も攻略した。これでもう俺を止められる者はいない。


ルール範囲でぶっ放してやる!!


『雷魔法 雷槍』


俺は泡がなくなったことで解禁された雷槍を左手で細く分けて発動する。

さっきも言った通り、雷魔法はハッタリだ。

細かくした雷槍では当たってもちょっとピリッとするくらい。

当然、さっきのように水魔法でもなんなら風魔法でも防がれる。


けど…………、


俺は10個に分けた雷槍を順番に少しずつエルド兄さんに向けて放っていく。

すると、エルド兄さんは今度は受け止めずに走りながら回避していった。


やっぱり。エルド兄さんは俺を買い被ってるからな。

何かあると思って大袈裟に避けてくる。


そして、こっからが本命。


『炎魔法 炎槍』


俺はタイミングを見て空いた右手で炎槍を発動する。

これは最初に発動した炎槍と違って手加減なし。

許されてる範囲での最大火力だ。


Bランク魔法でエルド兄さんに力とスピードで勝てる魔法はない。

けど、スピードだけなら雷魔法で対抗できる。

だから、雷槍で誘導して、炎槍で仕留める。これが俺の思い描いたシナリオ。


喰らえ、エルド兄さん。


俺の放った炎槍は雷槍で回避に専念させられていたエルド兄さんを捉える。

そして、エルド兄さんと炎槍の接触により、小さな爆発が起きて、そこからは煙が立ち昇った。


…………やったか?


エルド兄さんの姿を確認する為、俺は煙を凝視する。

しかし、おかしなことにその煙は一向に晴れる気配がない。


「っ!」


まさか!


俺はある可能性に気づき、風魔法を発動して、その煙……だと思っていたものを霧散させる。

すると、そこにはあるべきエルド兄さんの姿がなかった。


やっぱりいない。

どこいった?右?左?


俺は首を左右に振ってエルド兄さんを探す。

だが、どこにもエルド兄さんの姿は見えない。


『ヒュゥ』


「っ!」


上か!


俺の耳が微かな音を拾い、俺は目を上に向ける。

すると、そこには剣を構えて俺に向かってくるエルド兄さんの姿。

そのままの勢いで俺を攻撃する気だ。


さっきの攻撃を防いだのは流石。攻撃の組み立ても流石。

けど、俺相手に空を取るのは自殺行為だろ!


『炎魔法 炎弾』


ここで外したり、仕留められなかったりしたら魔法を発動した隙を突かれて終わり。

そう判断した俺は最大火力の炎槍ではなく、炎の銃弾がいくつも襲う炎弾を選択する。

スピードはないが、火力は細かくした槍シリーズより上だ。


無防備な姿で近づいてきてくれるのは寧ろ、理想の展開。

いくらスピードが遅いといってもこの距離なら外さない。


俺は炎弾を放った瞬間、勝ちを確信する。

しかし、エルド兄さんはこれを持っていた剣をビュンっと一閃させ、一掃して見せた。


「はぁ!?」


なにそれ、理不尽すぎだろ!

いや、でも、防ぐのに剣を使ったってことは、攻撃は出来な……。


そう思ったのも束の間、剣を持ってなかった方の左手が、

エルド兄さんの後ろから飛び出してくる。

その左手には水魔法の水球が発動されかけていた。


俺がそれに気づいたと同時にエルド兄さんの左手から水球が放たれる。


「っ!」


元々、これで俺を仕留めるつもりだったのか!

水球は初歩の初歩魔法だが、当たれば、貧弱な俺はすぐ倒れる。

それにこの距離からの攻撃。回避する余裕も、魔法を発動する余裕も……、


いや!


『結界魔法 練』


水球が当たる寸前、俺の発動した練が完成される。

当然、水球如きで練が破れることもなく、練と激突した水球達は無惨に散っていった。


残念。


「俺の魔法発動速度と正確さを見くびったね、エルド兄さん。俺の勝ちだ」


俺は練を発動した手とは逆の左手で新たに魔法を発動する。


『炎魔法 火球』


いくらエルド兄さんとはいえ、向かってくる速度+ノー距離攻撃。

これには耐えられない。


…………結局、最初に考えてたこの形になった。

結界魔法で防いで攻撃。でも、卑怯とは言わせないよ。


「いいや、ウィル」


「?」


「…………僕の勝ちだよ」


絶望的な状況のはずなのにいつものように笑うエルド兄さん。

それは勝利を確信した笑いに他ならなかった。


『合成魔法 敗走者の追撃』


次の瞬間、俺は前方以外の全方位から何らかの攻撃を受ける。

手数は多いものの、一つ一つに大した威力はない。

が、一瞬で身体が大きく揺らされたことにより、脳が揺らされて俺は膝を地面につく。

当然、その手に発動していた魔法も解除されていた。


「…………こ、これは、」


何とか意識を保ったものの、動くことが出来ない俺は四つん這いになりながら現状を把握しようとする。

しかし、俺が答えを出すより先に地面にそっと着地したエルド兄さんが答えた。


「風魔法と水魔法の合体技。水球を防がれることを前提として、

敢えて四方に散らし、そこから相手を追撃する。

学園で編み出した僕のオリジナル合成魔法だよ」


エルド兄さんは決着だと言わんばかりに俺に剣を突きつけながらそう告げる。


…………オリジナルの合成魔法?

水球はフェイク。防いだと油断させてから警戒が解かれたところに追撃。


そんなの、


「初見じゃ防ぎようないじゃん…………」


俺は諦めと共にそう言いながら仰向けで地面に寝っ転がる。

そして、目の前に広がる大きな空を見ながらゆっくりと手を挙げた。


「オルトス父さーん、文句はないよね?」


「あぁ」


あーあ、折角、珍しく本気出したのに。

こういう時だけ上手くいかないんだよなぁ、俺ってやつは。


はぁ…………、


「参った。参りましたよ」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


俺の敗北を認めるその声でギャラリーからはものすごい歓声が上がる。


そんな俺の敗北が嬉しいですか。そうですか。

結局、最後まで観戦しやがって、この税金泥棒共め。


「お疲れ。やっぱりウィルは強いね」


エルド兄さんはそう言って俺に手を差し出す。

エルド兄さんは握手のつもりで手を差し出したんだろうが、

生憎、俺はそんな騎士道持ち合わせていないので、その手を掴んで起き上がらせてもらう。


「それ、負かした相手に言う?」


「ウィルが制限なしの本気で戦ってたら僕が負けてたよ。

それに、僕には幾つか隠し球もあったしね」


「…………………………………。」


負けた相手のフォローも完璧かよ。妬ましい。


「それであの最後の魔法、合成魔法って言ったっけ?

もしかして、あの邪魔な泡達もその合成魔法とやらなの?」


「うん。あと、あの煙……というか、霧もね。

流石のウィルもまだ合成魔法は習ってなかったか」


いや、そういえば、ルネスがそんなことを言ってたような、言ってなかったような。

大体、授業は聞いてるふりしてるだけだからな。

もう少しちゃんと聞いておけば良かった。


「あっ、そういえば、エルド兄さん。ルネスを推薦したのは僕ってどういうこと」


本当はボコしてから問い詰めるはずだったが、

逆にボコされてしまったので、普通に聞いてみる。

でも、返答次第じゃぶっ飛ばす予定。


だったが、


「あぁ、あれはね…………、「ウィルを本気にさすための嘘だよ」


さっきまで俺たちの戦闘を見守っていたアイゼル兄さんが

俺たちの側まで寄ってきて、エルド兄さんの言葉を奪ってそう告げる。


って、嘘?


「側から見てもウィルは途中でもういいやという顔をしてたからね」


「………………………………。」


「だから、あれはエルドがウィルに本気を出させる為に言った嘘。

ルネスを選んだのは私と父様だよ」


えぇぇぇぇ。


念の為、アイゼル兄さんの隣にいたオルトス父さんに目を向けると、

オルトス父さんも頷いて、アイゼル兄さんの言葉に同意したみせた。


「ってことは、結局、全部エルド兄さんの掌の上だったってことか」


「ふふっ。ウィルのことなら僕が1番よく知ってるからね」


「……………………………。」


そんな笑顔でそんな照れ臭い事を言えるなんて、やっぱり妬ましい。

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