縛り side:ウィル4

翌日。


オルトス父さんに指定された時刻、午後2時を回った頃、

俺はみんなとの約束をすっぽかして優雅にお昼寝をしていた。

…………いや、しているはずだった。


しかし、部屋でいつものように俺がベッドで寝る態勢に入ると、

その瞬間、家のメイドさん達が一斉に部屋に雪崩れ込んできて、

俺を強制的に戦いの場へと連行してくれやがった。


どうやら俺がバックれようとしていたのは読まれていたらしい。


「よくやったな、お前達」


俺を連れてきたメイド達に激励の言葉をかけるオルトス父さん。

ってことは、やっぱり…………、


「これはオルトス父さんの指示か。卑怯者め」


俺は地べたにどっかりと座りながらオルトス父さんに向けてそう言い放つ。


「どっちがだ、馬鹿者。まさかここまで堂々とサボろうとするとは。

…………念の為、保険をかけておいて正解だった」


クソ。そうか、もう少し昼寝の場所を凝れば良かったのか。

失敗した。


「何はともあれ、きてくれて嬉しいよ、ウィル。

今日はお互いに全力を尽くそうね」


そう言って嬉しそうな笑顔を見せるエルド兄さん。

はぁ。なんだかんだ言って、俺はこの笑顔に弱いんだよな。


「つか、まぁ、もう戦うのはいいんだけどさ…………」


そこまで言って俺は初めて周りを見渡す。

今日はお互い本気で戦うということもあって、家の訓練場ではなく、

家の訓練場より広い騎士団の訓練場を間借りすることになった。


そう、なったのだが、


「おぉ。あれが噂の神童か!」

「なんか思ったより、普通の顔してんだな」

「でも、なんか小さい割には貫禄ある……ってか、太々しくないか?」


登場した俺を見て好き勝手に感想を言うギャラリー。

そのギャラリーの殆どが銀色の甲冑に身を包んでいる。

この人達はホイルンド王国の騎士団に属する団員達だ。

たまに家とかにも来たりするから何人か知ってる人らもいる。


まぁ、騎士団の訓練場を借りてるわけだからこの人達はいいんだ。

でも、ギャラリーの中にちょこちょこ紛れてるスーツの人達。

これ、あれだろ、他の貴族達の視察員達だろ。


「オルトス父さん、こんなにギャラリーいるなんて聞いてないんだけど」


「ん?そりゃあ、言ってないからな」


言ってないからなって。それは知ってんだよ。

俺が聞きたいのはなんで他貴族まで情報が出回ってるのってことだ。


訳は聞きたいが、当事者達がいる前で聞けるはずもなく言い淀む俺。

すると、そんな俺の様子を見てエルド兄さんがオルトス父さんに代わって説明する。


「今回の模擬戦は騎士団員の皆さんに僕たちのことを覚えてもらうっていうのも兼ねてるんだよ。

ほら、僕とウィルはいずれ騎士団に入るわけだしね」


いや、なんでもう俺が騎士団入ることになってんの?

俺、今まで散々、騎士団には入らないって言ってきたよね?

ってか、結局、俺が聞きたいことに関しての説明はないし。


「はぁ、もういいや」


どうせオルトス父さんが仕組んだことだろうし、

理由はこの戦いが終わった後で聞けばいい。


「…………それで、オルトス父さん、ルールは?」


昨日聞いたのは時間と場所まででルールは明日話すと言っていたので、

俺は話を進めるため、オルトス父さんにルールを確認する。


「ルールは一般的な模擬戦と一緒でどちらかが戦闘不能か参ったというまで。

ただし、ウィルは参ったは禁止だ。戦闘不能かどうかはこちらで判断する」


は?


「そして、武器は木製のもののみ使用可能とし、魔法はBランクまでとする」


はぁぁぁ?


「また、更にウィルは『剛』の使用も禁止だ」


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


今までは我慢してやってたが、とうとう最後のルールで俺の我慢も限界がくる。


参った禁止でAランク魔法禁止で『剛』禁止!?

それって、めちゃくちゃ俺不利じゃねぇか!


まず参ったが禁止は言うまでもなく、マズイだろ。

こんなの気絶するまでやれって言ってるようなものだ。

そして、それに加えて魔法の使用制限。

魔法にはDランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランクでランク付けがされてるんだが、

これはランクが上がる毎に魔法の有用性が高くなっていく。

まぁ、勿論、それに比例して難易度も上がってくわけだが、

俺はもう既にAランク魔法に分類されてる魔法をいくつも習得している。

それが使えないなど俺の強さ半減どころの騒ぎじゃない。


で、これに加えて『剛』禁止。これが1番やばい。

この『剛』とは俺が使う魔法技の一つだ。

『結界魔法 剛』この魔法は簡単に言うと、全体シールド。

頭から足まで全てをシールドで守ってくれる。

ただこれ、攻撃する際に魔法を解除しないとシールド内で魔法が暴発して、

自分が魔法を喰らうのでずっとシールドを貼っておくことは出来ないのだ。

だから、これは一般的にはBランク魔法に分類されている。

しかし、俺は最近、二重魔法を習得したことにより、

剛解除→攻撃→剛発動→攻撃受ける→剛解除→攻撃という最強の攻撃手段を編み出した。

今回の模擬戦もそれ中心で攻撃構成を考えてたのに、


「ちょっと、オルトス父さん!『剛』禁止は酷すぎるでしょ!」

大体、『剛』はBランク魔法じゃん!」


参った禁止やAランク魔法以上禁止はともかく、

流石に『剛』が使えなくなると作戦が狂ってしまうので俺は猛抗議をする。


「確かに『剛』はBランク魔法だが、お前の底なしの魔力量と魔法センスのせいで、

あれはもうBランク魔法の域を超えている。あの魔法を破るにはそれこそ、

Aランク魔法の使用や真剣の使用を認めなければならなくなるだろう。

だが、それではどちらかが死に至る可能性がある。

だから、『剛』の魔法は使用禁止にした。その代わり、『練』の使用は認めよう」


いや、代わりになってねぇし。


オルトス父さんが言った『練』とは『結界魔法 練』のこと。

簡単にいうとこっちは部分シールドのことだ。

ちなみに魔法ランクはCランク。な?代わりになってないだろ?

本気でやれって言ったり、魔法に制限かけたり、ちょい矛盾が過ぎやしませんか?


まぁ、けど一応、言ってることは正論であったりもする。

『剛』の使用を認めさせるということは死の可能性を高めるということだ。

こんなことで死ぬくらいだったら無様に負ける方がマシ。

けど、


「なら、せめて自分の身を守る為にも参ったはありにしてよね。

始まって何もせずに降参とかはしないから」


これが俺のできる最大の譲歩だ。


「仕方ないな。参ったはよしとしよう」


仕方ないなはおかしいだろ。

元々、不当に権利を奪われたわけだし。


「ウィル、ごめんね。本気でやるって言っておいて色々、制限かけちゃって」


「別にいいよ。エルド兄さんのせいじゃないし」


俺はエルド兄さんの謝罪を受け入れると、ようやく立ってエルド兄さんから距離を取っていく。

そして、エルド兄さんと大体10メートルくらい離れると、足を止めてエルド兄さんと向き合った。


「それじゃあ、2人とも、準備はいいな?」


場の準備が整ったのを確認して、オルトス父さんは俺たちに確認をとる。


「はい。大丈夫です」

「俺は大丈夫じゃないけど、」


「それじゃあ、始め!!!!」

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