兄の帰還 side:ウィル3

家のエントランスに集まるたくさんの使用人と俺&親2人。

普段あまり集まることのないここに何故、こんなにも人が集まってるかというと……、


『ギィィィィィィィィィィ』


メイドさんによって玄関の扉が開かれ、外から現れる2つの影。

それはこの家にとって両方とも見慣れた、

シュタイン家長男、アイゼル・フォン・シュタインと

シュタイン家次男、エルド・フォン・シュタインのものだ。


5日間という短い期間ではあるが、家を出ていた2人の帰還。

それを迎える為に俺たちはこんな場所に集まっていた。


「おかえりなさい、アイゼル、エルド」


「はい。ただいま帰りました」

「元気そうで何よりです、母様」


イレーナ母さんの言葉に丁寧にそう返事を返すイケメン2人。

相変わらず、ペンで落書きしてやりたくなるほどのイケメンっぷりだ。


「アイゼル、エルド。しっかり貴族としての務めを果たしてきたか?」


「はい。シュタイン家の跡取りとして滞りなく」

「僕も名を汚さない程度には」


「そうか」


…………そうかって。オルトス父さん、本当は知ってる癖に。

アイゼル兄さんは18歳で学園卒業後、貴族としての知識をつける為に貴族学園に入学。

そこで色んな貴族と関係を持ち、そのお陰でオルトス父さんはウハウハ。

エルド兄さんも2年生でありながら既に学園トップの成績らしい。


ホント、2人ともイケメンで優秀で羨ま妬ましいよ。


「ウィルも元気そうだね。この前あった時より少し背も伸びたかな?」


そう言って俺の頭に手を乗せる次男の方のイケメン。

…………つうか、身長伸びたのはそっちの方だろ。

顔まるまる二つ分くらい差があるんだけど。

あっ、エルド兄さんの小顔じゃなくて、俺の顔の二つ分ね。


「エルド兄さんは今何センチ?」


「うーん、185くらいかなぁ。もしかしたら、もう少しあるかも」


「へー。ウザイね」


「ウザイ!?」


イケメンで190に届きそうって何事だよ。

妬ましい。


「ウィル、最近はちゃんと魔法の勉強をしてるらしいな。偉いぞ」


落ち込むエルド兄さんに代わってそう言って俺の頭をよしよしする長男の方のイケメン。

こちらもエルド兄さんより少しデカい190の高身長。妬ましい。


「まぁ、家庭教師がついちゃったからね。流石に休めないでしょ」


「そうか。じゃあ、どうやら私の提案は正解だったみたいだな」


ん?私の提案は正解だった?

私の、提案は?


「私の提案って、どういうこと?」


俺はアイゼル兄さんの発言に引っ掛かりを覚え、その意図を問いただす。


「あぁ、実は家庭教師をつけたらいいと父様に提案したのは私なんだ。

ウィルは何故か、身内以外にはあまり強くいけないところがあるから、

多分、全然知らない人をつければサボれないって」


「……………………………。」


え、ちょっと待て。衝撃の真実だ。

ずっとオルトス父さんの一存で決めたことだと思ってたのに。

こんなところにこんな黒幕が隠れたなんて。


「…………じゃあ、アイゼル兄さんが提案しなければルネス(家庭教師)は来なかったってこと?」


「ん?まぁ、そうなるのかな、一応」


うーん、これはどうしたことか。

火炙りの刑か、氷水の刑か。


まぁ、とりあえず、


「雷魔法」


「「「「「え?」」」」」


「兄とか、久しぶりの帰還とか、関係あるかぁぁ!!

今ここでこの恨み、晴らしてやる!!!!」



◆◇◆◇



「へー。そんなことが」

「はい!毎日、色んな発見があって面白いです!」


咲き乱れる笑顔。

料理人達が気合いを入れて用意した豪華な昼食をとりながら、

2人が家を出る前と同じように全員でテーブルを囲んで話をする。

とても微笑ましい家族の団欒だ。


同じ空間に身体を椅子にぐるぐる巻きにされてる奴さえいなければ。


「あのー、これ、解いてもらえませんかー?料理食べたいんですけど」


どうせ無駄だとは理解しつつ、椅子と身体をぐるぐる巻きにされてる奴、

っていうか、俺は俺をぐるぐる巻きにした張本人、オルトス父さんに向かってお願いしてみる。

けど、まあやっぱりオルトス父さんの答えは、


「ダメだ。久しぶりに帰ってきた兄に向かって魔法をぶっ放すような奴に食べさすものはない」


「…………………………………。」


はぁ、やっぱダメかぁ。

魔法ぶっ放すような奴って言っても、俺が魔法ぶっ放す前にイレーナ母さんが

糸魔法で俺のこと止めちゃったから実際には未遂なのに。

オルトス父さんも頑固だよなぁ。


「父様、私のことはいいのでウィルを許してやってはもらえませんか?」


そう言ったのは他の誰でもない被害者(仮)であるアイゼル兄さんだった。

おぉー、許さないけど、ナイスだよ、アイゼル兄さん。許さないけど。

俺が言ったらあれだけど、被害者(仮)であるアイゼル兄さんが言えば、流石のオルトス父さんも、


「ならん」


「……………………………………。」


えー。これは困った。

どうやらオルトス父さんは結構、ガチで怒ってるらしい。

あぁー、せっかく、こんなにも美味そうな料理が目の前にあるのに。


「じゃあ、父様。こういうのはどうでしょう」


そう話を切り出したのはアイゼル兄さんではなく、エルド兄さん。

何か俺の顔をチラチラ見てるけど、なんの合図だろうか。


「実は僕とウィルで久しぶりに模擬戦をやりたいと考えています。

しかし、父様も知る通り、ウィルは普通にやっても本気でやらない。

だから、僕との模擬戦を本気でやる代わりに許してあげるというのは」


え、何それ。

それなら全然、許さないでもらっていいんだけど。


「なるほど。それは面白いな」


おい、ちょっと待て。

何乗り気になってるんだ?


「…………よし、いいだろう。エルドとの模擬戦を本気でやる代わりに

ウィルを許すことにする。アイゼル、それでいいか?」


「はい。私も弟達の真剣勝負を見てみたいです」


おいおいおいおい。

マズいぞ。この流れはマズい。


「ウィルもそれで文句ないな?」


「いや、俺は……「文句、ないな?」


頷くことしか許さない。そんな圧を込めて2度同じことを言うオルトス父さん。

ここで断ればどうなるか、それはちょっと想像したくない。


「…………はぁ。分かりました」


流石の俺でもここで自分の我を通せるほど強メンタルではない。


「よし。ならエルドも帰ってきたばかりで疲れが溜まってることだ、

勝負は明日の昼時としよう。ルールや場所のセッティングは私に任せておけ。

今日は2人ともゆっくり休んで明日に備えるがいい」


そう言って無駄に張り切るオルトス父さんはいち早く食堂を出て行った。

…………いや、縄解けよ。


「ウィル、よろしくね」


そう言って気持ちのいい笑顔を見せるエルド兄さん。

勝負するっていうのに一歳、嫌味のない笑顔だ。


はぁ。


「…………ちゃんと手加減してよね」


「ごめん、無理」

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