現在地 side:アレン5

「…………4手で俺を倒す?」


「うん」


逆にこれでダメなら今の俺には父さんを倒せない。

これが最後の勝負だ。


「ダハハッ!アレン、お前、本当にどうしちまったんだ!?

今まであんな大人しいやつだったのに急に男らしくなっちまって!」


今までの優等生ぶりとはかけ離れた俺を見て、

何故か嬉しそうにする父さん。


「そりゃあ、父さんの息子だからね。大人しいはずがないでしょ」


「ダハハハハッ!それもそうだな!!

いいぜ、アレン!受けて立ってやるよ!!!」


「うん、ありがとう」


…………父さんには感謝してる。

普通、実戦じゃこんな相手が待ってくれることなんてない。

本来なら父さんはまだ俺が太刀打ちできる相手じゃないんだ。

だからこそ、次の攻撃は本気で行く。

俺は負けて情けで狩りに連れて行ってもらうなんて御免だ。

ちゃんと勝って、この攻撃で認めさせて、心置きなく狩りに行く。


「それじゃあ、行くよ」


俺はそう言うと身を屈めて地面からあるものを掬い上げる。


「ん?今、何か拾ったか?」

「アレンの奴、何する気だ?」


俺の行動が掴めず、不思議がるギャラリー達。

俺はそんな彼らに対して、忠告を入れる。


「みんな、目を瞑っておいた方がいいかもよ」


「「「「「ん?」」」」」


「これが目に入ると…………、痛いからね!!!」


そう言って俺が父さんに向かって投げたのは、


「はぁ!?砂ぁ!!?」


そう、ただの砂。


父さんは驚きつつも、砂で目がやられること危惧して、剣を振り、風圧で砂をガードする。

しかし、


「あぁーあ。やっちゃった」


父さんが起こした風で俺が投げた砂は更に細かくなり、

さっきより寧ろ、砂による被害が広がっていく。


「うわぁ!!」

「なんだ、これ!!」


父さんを含め、全員が砂煙で視覚を奪われる。

あらかじめ魔法を使用していた俺以外は。


『無属性魔法 透視』


本来、この魔法は壁やものを透視する時に使うものだ。

しかし、目を閉じてこの魔法を使うことにより、

目を閉じたまま、視界を確保することが出来る。


つまり、今、状況を把握出来ているのは俺だけ。

この状況を創り出したかった。


…………見える、砂煙で目を痛めるみんなと砂は回避したが、

俺のことがよく見えず、目を細める父さんの姿が。


俺が父さんを倒す為に用意した4手。

これが、まずその最初の第1手、自然の煙幕。

そして、これが第2手目だ。


「いっけぇぇぇぇ!!!!!」


俺はそんな掛け声と一緒に力いっぱい握った剣を父さんに向けて思いっきり投げる。

混乱の中、砂煙を掻き分けていきなり現れる剣。

これは幾ら父さんでも、


「甘い!」


飛んできた剣に気づいたのはほんの1メートル手前くらいの筈だが、

それでも父さんは持っていた斧で俺の剣を弾いて見せる。

そうして、父さんに弾かれた俺の木剣は父さんの後ろに聳え立つ大木に突き刺さった。


…………まっ、そうだよね。

分かってたよ、このくらいで撃てるわけないことくらい。

だから、俺は次の攻撃を用意したんだ。


『ヒュルルル、ヒュルルル、ヒュルルル、ヒュルルル』


辺り一帯に静かに響く風を切り分ける音。

その音はだんだんと大きくなっていく。


(なんだ、この音は?)


父さんは気づいていない。

砂煙が舞った時、俺が投げていた剣は一本だけじゃないことに。


第3の手、上空から襲う刃。


父さんは実戦というものをよく知っている。

だから、自分の予想し得ない状況になった時も慌てない。

…………けど、そのお陰で座標が絞れた。


「痛っ!!」


流石の父さんもこれには対応できなかったようで、

俺が上空に投げておいた剣は父さんの肩に追突する。

しかし、これは第2手とは違い、俺が思いっきり投げた剣じゃないので致命打にはならない。


「…………でも、父さんを崩せれば十分だよね」


「ッ!?」


砂煙が晴れ始めたところに突如、姿を現した俺。

父さんは驚いて身を硬直させる。


この一瞬。この一瞬が欲しかった。


「触れさせてもらったよ、斧」


『生成魔法 木箱』


俺が父さんの持っていた斧に触れ、生成魔法を発動すると、

父さんの持っていた斧は突如として武器とは扱えない木の箱に変化する。


「…………は?はぁぁぁ!!??」


自分の武器がガラクタになってこれでもかと分かりやすく混乱する父さん。

これが俺の用意した最後の1手、父さんから武器の奪取。


父さんがさっき言った、俺が投げていたのが斧だったら死んでいたというのがヒントになった。

あれは父さんにとって斧が自分の中で最強の攻撃手段と自覚してる証拠だ。

ならば、それを奪ってしまえば、父さんの強さは大幅に減少する。


何故、気づかなかったのか。

最初の時点で父さんの最強武器が斧であると気づいていたはずなのに。

まぁ、普通、斧は触れるものじゃなくて、避けるものだからな。

その発想に至らなくても無理はない。


「今の俺でも武器がない父さんなら勝てる。これで俺の勝ちだ!」


俺は拾い上げておいた剣で一撃目と同じ場所、父さんの脇腹を狙う。

ノーガードに加え、父さんは俺の一撃目がかなり効いている。

これなら間違いなく、倒せ……「土魔法 円突」


「…………え?」


下から突き上げられるような感覚。

いきなり高くなる視界。

そして、手から離れていく剣。


まるで時間の流れがゆっくりになったかのような一瞬が流れ、

やがて俺は背中から地面に着地する。


「……………………………。」


目の前に広がる青空と停止する思考。


「…………8歳とは思えない馬鹿力と戦闘技術。

そして、あの流れるような攻撃を一瞬で構築したセンスと知性。

本当に見事だった。お前の中に強い意志を感じた。でも、」


仰向けに倒れた俺の顔の横に突き刺される剣。

そして、目の前に映り込んだ、高く、強く、聳え立つ父さんの姿。


「俺の勝ちだ、アレン」


「————っ!」


…………ま、負けた?


なんでだ、どうして。

どうして、


父さんの魔法が頭から抜けていた?


父さんが土魔法の適正を持っていることは当然、知っていたのに。

自分は最後、魔法という手段を使っておいて。なんで…………。


後悔と恥ずかしさと歯痒さと、色んな感情が一体となって俺を襲う。

この世界に来て初めて流す涙。俺はそれを手で顔を覆って隠す。


「俺が勝てば、お前を狩りには連れていかない。そういう約束だったな」


敗北者である俺に容赦なく現実を叩きつける父さん。

俺はゆっくりと立ち上がると、それに対して返事を返す。


「…………分かってるよ。狩りに行くのは潔く諦める」


言い訳は出来ない。それほどまでに父さんの強さも自分の弱さも痛感させられた試合だった。

そうして、俺がその場を去ろうとしたその時、父さんが俺の手を掴む。


「まぁ、待て、アレン。そう急くな。

確かにお前は俺に勝てなかったが、お前は確かな強さを示した。

これから最強になれるかはお前次第だが、狩りに行くには十分な強さだ。

だから、どうしてもお前が狩りに行きたいというなら……「言わないでよ」


父さんが何を言おうとしてるか察した俺は父さんがそれを口にする前に止める。

それは俺が1番言って欲しくなかった言葉だ。


「俺は父さんに勝って、父さんにちゃんと認めてもらって、狩りに行きたかったんだ。

だから、それは父さんが許しても、俺のプライドが許さない」


俺は昨日と同じように父さんと真正面から向かい合って宣戦布告する。


「1年間、俺はまた鍛え直す。だからその時はまたここで勝負してよ。

…………今度こそ絶対に勝って、父さんに認めさせるから」


「アレン、お前…………、」


今の俺では全然足りなかった。全然届かなかった。

吐きそうなほど悔しいし、頭が沸騰するほど自分に対して、怒りが込み上げてくる。

でも、お陰で前よりももっと明確な目標が出来た。


目指すべきものはもっと上。

俺が今まで想像してた壁はどれだけ小さなものだったか。


「覚悟しといてよ、父さん。次は手加減する余裕なんてないから」


逆に今日勝てなくて良かった。

壁は高い方がいいに決まってる。


「…………あぁ、望むところだ」


俺は父さんのその返事を聞き、満足するとその場を後にしたのだった。



この一年後、俺は父さんとの戦いで見事、リベンジを果たすことになったのだが…………、

逆に父さんがリベンジのリベンジに燃えてしまい、

毎日一回父さんとの模擬戦が日課になってしまったのはまた別の話である。

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