本気 side:アレン4

いつもの更地。

そこには俺と父さんの他に狩りのメンバーも集まっていた。


「みんなも呼んだんだね。まぁ、いいけど」


「俺1人がダメって言ったところでお前は聞かないかもしれないからな」


「………………………………。」


負けたら諦めるって言ってんじゃん。

ってか、一晩経ったら昨日のこと、だんだんムカついてきたんだけど。

散々、色々言ってくれやがって。


ちなみに昨日、俺は村長の家に泊まらせてもらった。

あんな空気で父さんと一緒に寝れる気はしなかったので。


「母さんはどうしたの?」


ギャラリーの中に母さんの姿が見えなかったので俺は父さんにそう質問してみる。


「アミリアは家で待ってもらってる。

アイツはお前がボコボコにされるところなんて耐えられないだろうからな」


「……………………………。」


こういう挑発は無視だ、無視。


「おい、キュロット!!お前が審判をやれ!!!」


「はいぃ!!」


父さんは俺からの返答がないと試合に進もうとする。

審判に指名されたのはこの前、ここに来た3人組の1人、キュロットという男だ。

そのキュロットは俺と父さんの間に立つと、右手を前に出してポーズを構える。


が、


「ちょっと待って」


なんだかもう勝負が始まりそうな雰囲気だったので俺は待ったをかける。


「なんだ、まだ何かあるのか」


勝負する流れだったところに水を差されて不機嫌そうにする父さん。

俺はそんな父さんをよそに自分が持っていた木剣を一旦、地面に刺す。

そして、そばに落ちていた小石を拾い上げると、俺はそれを上に向かって投げた。

すると、上空で小石がぶつかったことで折れた木の枝が俺の横にドンと落ちてくる。

俺はそれを拾い上げると、生成魔法を発動した。


『生成魔法 木の斧』


そうして出来たのは父さんがいつも狩りで使っている斧を木で作ったもの。

俺はそれを父さんの側に向かって投げる。

すると、その斧は父さんの隣に突き刺さった。


「父さんの本気はそれでしょ。本気で来てよ、俺も本気でいくから」


俺はそう言うと地面に刺した木剣を抜いて、戦闘体制をとる。

すると、父さんもそれに応じるように自分の持っていた木剣を捨て、

俺が作った斧に持ち替えて、俺同様に戦闘体制をとった。


そんな俺達の間にはもう言葉はいらない。


「じゃあ!2人とも準備いいですね!?」


「うん」

「あぁ」


「それじゃあ、戦闘開始!!」


キャロットの声が一帯に響き渡る。

それと同時に俺はすぐさま魔法を発動した。


『無属性魔法 身体強化』


相手が強いと分かってるんだ。

最初から全力で行く。


…………そういえば、初めてだな。人に剣を向けるのは。

それがまさか実の父親になるなんて思っても見なかった。


父さんは俺が最強になる為に目指すべき最初の目標だった。

本当はもっと強くなってから勝負したかったけど、

もうそんなことも言ってられない。


俺がもっと、もっと強くなる為に。

超えてやる!今、ここで!!


「いくよ、父さん」


「ああ!こい!!」


俺は覚悟を決めると、思いっきり地面を蹴る。


『バキッ』


力の加わった地面は砕けるが、なんとか俺の足を跳ね返してくれた。


「「「「「ッ!?」」」」」


(速い!!)


みくびっていたのか、俺のスピードに驚く父さん。

俺はそんな父さんとの距離を一瞬にして詰めると、薙ぎ払いで父さんの胴体を狙う。

しかし、流石に狩りでリーダーを務める男。

驚きながらもなんとなか自分の胴体と俺の剣の間に斧の柄の部分を潜り込ませる。


が、


「甘いよ、父さん」


「っ?」


俺が何度、ここで剣を振ってきたと思ってる。

その程度じゃ俺の剣は止められない。


「はああああ!!!」


俺の払った剣は父さんの構えた斧の柄を両断し、父さんの脇腹にクリーンヒットする。

そして、そのまま俺の剣は俺の何倍も重い父さんの巨体を吹き飛ばした。


「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」」」」」


驚愕する狩りメンバー達。

そんな中、俺は倒れる父さんに向かって語りかける。


「父さん、何度も忠告したはずだよ。本気できた方がいいって」


「…………………………………。」


帰ってこない返答。

勝ったのか?いや、


「ダハッ!」


…………だは?


「ダハッ!ダハハハハハハハハッ!!」


仰向けで倒れたまま手で顔を覆うように押さえ、突如、豪快に笑い出す父さん。

そして、一通り笑い終えるとみんなが見守る中、

俺にやられた脇腹を押さえながらゆっくりと立ち上がった。


え。今ので倒せないの?

っていうか、なんだ?


「…………すまねぇ、アレン。正直、お前のことみくびってたぜ。

お前を信じる気持ちはあったんだが、どこかでただの子供の戯言だと思ってた」


「えっ…………」


俺にやられてもっと怒るかと思ったが、

そんな俺の予想とは真逆にどこか清々しい顔で本音を口にする父さん。


「今のお前の一撃効いたぜ。俺が今まで受けてきたどの攻撃より重かった」


「ッ!じゃあ……!」


「いいや、まだだ」


狩りへの同行を認めてもらえたのだと思ったが、

父さんは横に首を振って俺が確認する前に否定する。


「これはお前と俺の勝負だ。男が一度、勝負を口にしたからには、

どっちかが負けを認めるまで勝負は終わらねぇ。

それに、俺も息子にやられたままじゃ父親としてカッコつかねぇしな」


「………………………………。」


男が一度、勝負を口にしたからには、か。

父さんは最初から俺のことを敵として認めてくれてたのか。

だからこそのあの態度。


「…………分かったよ、父さん。続きをやろう」


「あぁ。今度は俺から行くぞ!」


そうして、父さんは強く一歩目を踏み切る。

その身体の運び方は奇しくもさっきの俺と同じもの。

だが、


『ズポッ』


父さんの踏み切り跡は俺のものとは違い、綺麗な円形を描いて凹む。

それは余計な力が入ってない証拠。

つまり、その動きは俺より遥かに洗練されて、速い。


…………瞬きしたほんの一瞬だ。

その一瞬にして父さんは俺との距離を詰める。

そして、気づいたら父さんの振り上げた斧が俺の頭上まで迫っていた。

しかし、俺は父さんが動き出したのと同時に動いていたので、

なんとか身体を捻って横に転がりながら攻撃を回避する。


「危……」


そこまで言いかけた俺の目に再び映りこむ斧。


「ッ!?」


回避からまだ立ち上がれてもいない俺を容赦なく襲いかかる追撃。

俺をその攻撃をこれまたなんとかギリギリ剣で受け止めた。


「って!!」


おっんもぉぉぉぉ!!!!!!


父さんの斧を剣で受けた途端、全身に振動が響き渡る。


嘘だろ。腕から足までの振動がタイムラグなしで来やがった。

つか、これまともに喰らってたらヤバかったろ!

勝負とはいえ、息子に対して…………、


「何してくれとんじゃぁぁぁ!!!!!」


俺は怒りパワーで斧を跳ね返し、一度父さんとの距離をとる。


「…………ふぅ」


怒涛の攻撃。

分かってはいたけど、ヤバいな。


「やるな、アレン。才能あるっていってたのもあながち嘘じゃなさそうだ」


「だからそう言ってるでしょ」


俺は余裕そうな父さんに対抗して、余裕ぶりながら返答する。

が、その実、頭ん中では必死になって策略を練っていた。


さて、どうする?

今の俺が父さんに対して少しでも後手に回ればしんどい。

けど、正攻法でいったって今みたいに防戦一方になるだけだ。

となると、やっぱり勝機は正攻法以外の搦手。それしかない。

けど、そんなの一体どうやって…………、


『カランッ』


「?」


父さんに勝つ為に策を巡らせていたその時、俺の足元から変な音が鳴る。

その音に反応して足元に目を向けると、そこにはあったのは元々父さんが持っていた木剣だった。


あれ?これって父さんが元々持ってた木剣だよな?

さっきまであそこにあったのに。なんでここに?

まさか、父さんの斧を受けた風圧でここまで飛ばさたのか?

ヤベェ…………。やっぱりあの攻撃をまともに受けちゃダメだな。


…………ん?待てよ、そうだ。

この木剣を生成魔法で盾にして突っ込めば、父さんの攻撃防げるんじゃね?

うーん…………、いや、無理だな。

一回頭の中でシミュレーションしてみたが、盾が弾け飛んだ。

そもそも盾の扱い方なんて特訓してないし、付け焼き刃の武器が通じるはずない。


あぁー。こんなことならもっと手札を増やしておくべきだったな。

そしたらもう少し色んな攻め方が…………、


「っ痛!!!!」


その瞬間、突如、俺の右足を瞬間的な痛みが襲う。

俺に痛みを与えたのは小石、父さんが投げた小石だった。


「おい、アレン。戦闘中に呑気に考えことか?

今俺が小石じゃなくて、斧を投げてたらお前は死んでたぞ」


「ッ!」


悔しいが、ぐうの音も出ないほど正論。完全に気が抜けていた。

確かに今父さんの投げていたのが小石じゃなくて、斧だったら…………、

…………斧…………だったら…………?


「っ!!!!!!!!!」


「おい、アレン!また考え事か!!」


「…………………………………。」


ヤバい。ヤバいことを思いついてしまった。

…………これ、いけるか?

今俺が思い描いた通りに俺の肉体は動けるのか?


いや、大丈夫だ。そう言い切れるだけのことはやってきた。


『カンッ!』


再び、父さんが投げてきた小石。

俺はそれを剣の柄で弾く。


「ッ!?」


「…………父さん、宣言するよ。4手。俺は次の4手で父さんを倒す」

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