初めての反抗 side:アレン3

ここから3話は描写を切り替えると変な感じになるのでアレン側のストーリーを続けてかきます。

アレン側が終わったらウィル側のストーリーが少し続きます。


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もう何度も通い詰めて、すっかり見慣れた更地。

しかし、今日、俺の目に映る光景はいつもと違う。


「…………きたな、アレン」


俺が立てた大木の前に立つ俺の父親、ドリー。

その男を前にすると、俺は足を止める。


これから始まるのは男の意地と意地を掛けた決闘。


一体、何故、こんなことになっているのか。

それは昨日の晩に遡ってみれば分かる。



◆◇◆◇



昨晩。


「んー!おいしー!!!」

「ダハハハハ!!おれの息子は天才だな!!」


今日も俺の料理を食べて大絶賛する母さんと父さん。

別に料理人じゃなくても自分の料理を褒められたら嬉しいものだ。

俺は素直にその賛辞を受け取っておく。


…………が、それはそれとしてだ。


今日、俺はある勝負に出ようと思っている。

数日前、秘密の特訓がバレそうになったあの事件をキッカケに俺は思った。

『もうそろそろいいんじゃないか』と。

8歳。少し幼くはあるが、自分の才能に気づくにはいい頃合いだ。

5歳から剣の特訓をしていたではなく、気づいたら剣を使えるようになっていた。

そういえば、俺が転生者だとバレることもないはず。

まぁ、それでも、バレるリスクがあることも確かではあるが、

俺にとっては帰ってくるリターンの方が大きいと思っている。


今のところ、俺が剣を使えると公表して得られるメリットは2つくらい。

まず1つは言うまでもなく、わざわざ隠す必要がなくなるということ。

今まで我慢してきた剣士として父さんに聞きたいこととかを遠慮なく聞くことが出来るし、

稽古だってつけてもらえるかもしれない。それに隠すのも結構大変だし。

そして、もう1つは狩りに連れてってもらえるようになるかもしれないということだ。

俺は今まで1人の特訓ばかりでまだ実践を経験していない。

多分だが、その経験の差というのはとてつもなく大きなことだ。

正直言うと、父さんと母さんに内緒で1人で森に入るというのも考えはした。

けど、それは母さんとの約束に反するし、

何より、もし2人に黙って森に入って、俺が戻って来なかったりしたら。

その時の2人の反応は想像に難くない。

俺は2人から沢山の愛情を貰った。

自分の欲を満たす為だけにそんな恩知らずなことは出来ない。


けど、やっぱり……どうしても狩りにいきたい!!!

これは俺が最強になる上で絶対に必要なことなのだ。


だから、変な小細工はせず、正攻法でいくことにした。

俺の夢を正直に語って2人に認めてもらうのだ。


「あ、あの、父さん、母さん!!」


俺は勇気を振り絞り、食事が終わったタイミングで話を切り出す。


「ん?どうした、アレン」


いつもと違う俺の雰囲気に戸惑う2人。

でも、話を聞いてくれるようだ。


ふぅ…………。大丈夫だ、きっと2人なら認めてくれる。


「2人に聞いて欲しい話があるんだ」


「聞いて欲しい話?」

「なんだ?」


「えっと、その聞いて欲しい話っていうのは俺の夢の話なんだけど、実は俺…………、」


俺がそこまで言いかけると、その瞬間、大きな手が俺の肩に優しく乗せられる。

俺は驚いて俯いていた顔を上げてみると、そこには父さんの顔があった。

全てを悟ったような目をした父さんの顔が。


「いつか切り出してくるとは思ってたけど、随分早かったな」


「えっ……」


「いや、そんなこともないか。あの日からお前はずっと頑張っていたもんな」


あの日から?


「そ、それって、もしかして…………、」


「あぁ、勿論。分かっていたさ。俺はお前の父親だぞ」


…………そう、だったのか。知らなかった。

父さんに知られていたなんて。


「アレン、お前、料理人に……なりたいだろ?」


「…………うん、そうなんだ。俺、料理人に…………」


って、え?


え?え?え?



え?


完全に秘密の特訓の話をしていると思い込んでいた俺は父さんから出てきた言葉に理解が追いつかない。


え?今、完全に俺の夢を応援してくれる感じの流れだったよね?

い、いや、まぁ、ある意味、応援はしてくれそうだけど。

違う、違う、そうじゃないよ。


「ハハッ!やっぱりな!」


俺が最初ちょっとノっちゃったばかりに盛大に勘違いする父さん。


「大丈夫!こんな美味い料理が作れんだ、お前ならやれる!!」


いや、だから違うって。


「私も応援するからね、アレンちゃん!ママはもうアレンちゃんの料理のファンなんだから!!」


そう言って目から涙まで流して応援してくれる母さん。

あぁー、もう余計言いづらくなったって。

嬉しいよ。嬉しいけど、違うんだ、母さん。


「ここでゆっくり修行して、旅立ちは18くらいにするといい!!

せっかくだ!王都で一旗あげてこい!!」


ちょ、ちょっと、俺の将来、勝手に決めないでくれます?


「えぇーん!アレンちゃんが出てっちゃうなんて悲しいよー!!」


いや、まだ出ていかないし。

っていうか、あぁ!!!もぉぉぉぉ!!!


「違くて!!!俺は最強の剣士になりたいんだって!!!!」



「「……………………………………。え?」」



俺の一言で訪れる長い静寂。

2人ともフリーズしてしまったので仕方なく俺が喋り出す。


「2人には勘違いさせちゃったかもだけど、料理は趣味程度で本当は剣士になりたいんだよ。

2人も知ってるでしょ?俺の生成魔法。あれで剣を作って最近は毎日、剣を振ってる」


「そ、そうだったのか…………。え?いや、剣士?」


予想外だったのか今度はターンが入れ替わったように

父さんは数秒前の俺と全く同じ反応をする。


「そう、剣士。こう言うのもなんだけど、才能ある自覚もある」


「…………ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。今頭が混乱してて理解が追いつかん」


うん、分かるよ、その気持ち。

俺もさっき同じ状態なったから。


「あっ。も、もしかして、アレンちゃんが昼間遊びに行ってるのって……」


頭を整理中の父さんに代わり、母さんがそう質問してくる。


「うん、剣の修行してる。まぁ、最近始めたばっかだけどね」


「…………は、初めて知ったわ」


まぁ、隠してたからな。そりゃあ、そうだ。


「で、でも、お前、よりにもよって剣士って。狩人じゃなくてか?」


どうやら頭のアップデートが済んだ様子の父さんがそう尋ねてくる。


「そうだね。俺が目指すのは狩人とは少し違うかも」


「………………………………。」


俺に狩りを継がせたかったのかショックを受けた模様の父さん。

申し訳ないが、ここだけは譲れない。

最強の狩人では俺の野心は収まってくれそうにないのだ。


「…………そ、そうか。ま、まぁ、それは一旦いい。

けど、わざわざ俺達にこんなことを話したのは何でだ?

こんな宣言するような真似して、自分で逃げ場をなくすためか?」


これも普段からあまりものはっきりを言ってこなかった弊害か、

ただ夢を語っただけなのに、大袈裟に考える父さん。

まぁ、何かあるってのは間違ってないけど。


「自分で逃げ場をなくすため。確かにそれもあるかもしれないけど、

2人に話した本来の理由は2人に協力して欲しいことがあるからなんだ」


「「協力して欲しいこと?」」


さぁ、前段階にかなり手間取ってしまったが、ここからが本題だ。


「一つは俺が13歳になったら王都の学園に行かせて欲しいということ。

そして、もう一つは今すぐ俺を狩りのメンバーに入れて貰いたいということ。

さっき狩人にはならないって言っておいて、なんだけど、

狩りで実戦の経験を積ませてもらいたいんだ。…………どうかな?」


あまり空気を重くしない為、敢えてさらっとお願いしてみる俺。

だが、その願いは当然、どちらも簡単に叶えられる願いではない。


まず、この世界の学園はみんなが気軽に通えるような学校とは違う。

選ばれた者達がさらに大枚をはたいてやっとという場所だ。

とてもこんなど田舎の平民が行けるようなところではない。

そして、それは狩りも同様。こんな8歳の子供が行けるような場所ではない。


俺が願いを口にしてからまたもや家に静寂が訪れる。

2人とは言ったが、答えを出すのはやっぱり家を支える父さんの役目だ。

母さんもそう思っているようで答えを完全に父さんに委ねている。


そして、そんな父さんの答えは…………、


「ダメだな」


「えっ…………、」


「学園はともかく、狩りはまだ早すぎる。最低でも成人するまで待て」


言葉を濁すことなくはっきりそう告げる父さん。

しかし、その言葉は俺にとってそう軽いものではない。


この世界の成人は20歳ではなく、18歳だ。

だが、だとしても、10年。俺が狩りに行くには10年待たなければならない。

それではあまりにもスタートが遅すぎる。

学園を卒業してからではみんならとなんら変わらないのだ。


「なんでよ、父さん。俺、本気なのに」


俺は冗談と捉えられたと思い、そう伝える。が、


「本気かどうか関係ない。8歳では若すぎると言っているんだ。

15歳くらいからなら考えたが、学園に行くというならどうせ成人してからになる」


「……………………………………。」


予想してた事態ではあった。

しかし、あまりに取り付く島もない状況だ。

こんな父さんは見たことがない。


正直、母さんと父さんなら許してくれるとどこかで思っていた。

のに、


「ごめんね、アレンちゃん。ママもパパと同じ意見よ。

アレンちゃんが最強の剣士さんになるのは勿論、応援するし、

学園に行けるようにママも頑張るけど、狩りに行くのは賛成できないわ」


父さんに拒否された際の唯一の切り札でもあった母さんは完全に父さん側につく。

これでは母さんを通じて父さんにお願いするという作戦も通じそうにない。


「じゃあ、話はこれで終わりだな。稽古くらいならつけてやるからいつでも言え」


そう言って話を終わらせて、去って行こうとする父さん。

俺はそんな父さんの前に先回りしてなんとか引き留める。


「ちょっと待って、父さん!父さんなら分かるでしょ!

普通に段階を踏んでいたら最強の剣士なんかにはなれない。

成人してから狩りを始めるんじゃ遅いって」


「そうだな。だが、それもまた、さっきと同じで別の話だ。

剣を始めたてのお前が狩り行ったところですぐ死ぬだけ。

そんな足手纏いを狩りのリーダーとして連れていくことはできない」


違う。本当は3年前から剣は振り続けているんだ。

…………でも、それを言えば、俺が前世の記憶を持った転生者だとバレる可能性は高まる。

それにそれを言ったところで今の父さんから許しが出るとは思えない。


「もうこれで終わりでいいか?」


引き留めた俺に対して父さんは最後の確認を取る。


ここで行かせてはダメだ。

多分、もう次のチャンスはない。


「父さん、お願い。俺は本気で最強の剣士になりたいんだ…………」


俺の心の底から出た願い。

しかし、


「分かった。なら、はっきり言おう。お前は最強の剣士にはなれない」


「—————ッ!」


今までそこには触れてこなかったが、俺の諦めの悪さをみて、

父さんはとうとうそれを口にする。


「いいか、アレン。この世界にはお前が想像出来ないような化け物がごまんといる。

それこそ俺なんか鼻息で吹き飛ばせるほどの奴らがだ。

そして、そういう奴は得てして、生まれた時から最強になるべくして生まれてきている。

…………お前がダメなんじゃない。俺たちの子では最強にはなれないんだ」


「そ、そんなのやってみなきゃ…………」


「じゃあ、アレン。お前にとって最強ってなんだ?」


「えっ…………」


さっきまでとは少し違う、変化のつけられた質問に俺は戸惑う。

俺にとっての最強?


「お前は具体的にどうなりたい?どうなれば最強だと思っている?」


「そ、それは…………、」


言われてみれば今まで最強になるって言ってきただけで、

どうすれば最強の称号が得られるのか考えていなかった。


「まだ、分からない」


俺は父さんの思う壺だとは思いつつ、正直にそう告げる。


「…………ほらな。この質問に即答できない時点でお前は本気じゃないんだ」


「っ!」


俺が本気じゃない?


「この世界で最強の剣士になるというのは無謀な夢だ。

そうでなくとも、夢を叶えられるような人間はしっかりとした目標をもってやっている。

なのに、剣を始めたてのお前がただ漠然と最強の剣士になりたいと言って

叶えられるような夢だと思っているのか?

もし本当にそう思っているなら、悪いことは言わない。別の夢を探せ。

まだ小さいお前には分からないかもしれないが、いずれ、それがお前の為になる」


「……………………………。」


わかる。これは俺を思っての発言なんだろう。

ただ息子の夢を否定したいわけじゃない。


でも、だけど…………、


中2だ。前世の中2の頃から俺は最強を夢みてきた。

だからこそ、異世界に、この世界にこれた時は本当に嬉しかった。

5歳になってからは毎日、剣を振り続けて、この3年間でもう何回剣を振ったかは数えきれない。


父さんに本気じゃないと言われた時、正直、揺らいでしまった。

けど、前世から自分が辿ってきた道を振り返ってみて思う。


俺のこの気持ちは紛い物なんかじゃないと。


「…………分かった。狩りに連れてってもらうのはもう頼まない」


俺から出た言葉に安堵した表情を浮かべる2人。

だが、それも束の間。


「自力で勝ち取ることにするから」


「…………は?」


俺は俯いた顔を上げる。

そこにはまだ俺の発言の意図が理解できていない父さんの顔。

俺はそんな父さんの目を見て真正面から宣戦布告する。


「勝負してよ、父さん。俺が勝ったら狩りに連れってもらう。

その代わり、負けたら狩りに行くのは諦めるよ」


「な、何を言ってる、アレン。お前と俺じゃ勝負に……「ならないって?」


ここからは掛けだ。

相手にされなければそれまで。だが、乗ってくれば、


「村で1番強いからって少し浮かれ過ぎじゃない?

最強になる奴は最強になるべくして生まれてきている。

そう言ったのは父さんだよ。俺が最強になれる器かどうか、父さんが確かめればいい。

…………それとも、もしかして、息子の俺に負けるのが怖いの??」


「………………………………。」


「ちょっ、ちょっと、アレンちゃん!何言ってるの!」


俺と父さんの間に流れる地獄のような空気を察して、

今まで会話にあまり入って来なかった母さんが止めに入る。

しかし、その母さんを父さんは手を横に出して静した。


「…………分かった、いいだろう、アレン。勝負してやる」


よし。やっぱり乗ってきた。


「明日の朝、お前がいつも遊んでる場所に木剣を持って来い。

そこで相手をしてやる。逃げるなよ」


「父さんこそ」



ってなことがあって…………、



◆◇◆◇



翌朝。


「きたな、アレン」


「……………………………。」


お互い剣を持って向かい合う俺と父さん。

その間にはいつもにはない緊張感が漂っている。


「本気でこいよ」


「そっちこそ。手加減なんて考えない方がいいよ」

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