学び side:アレン2

「はあああああああ!!」


そんな気合いの入った掛け声と共に俺は持っていた剣を横に一閃させる。

すると、剣の間合いに立っていた大木は真っ二つに両断され、豪快な音を立てながら倒れた。


「…………ふぅ」


剣の修行を始めてから3年と少し。すっかりパパママ呼びの癖も抜け、

8歳となった俺にもようやく剣というものが板についてきた。

最初は扱いが怖くて、木剣しか使っていなかったが、

最近は金属を使った本物の剣で特訓している。


それにしても金属の入手には本当に苦労した。

俺の生成魔法は何もないところからものを創り出せるような便利な魔法じゃないので、

元となる素材が必要不可欠となる。だが、この村ではただの鉄ですら貴重品。

俺みたいな子供が許可なく使っていいものじゃない。

でも、剣作りたいから鉄くださいというわけにもいかないし、

でも、やっぱり剣欲しいし。

そんな葛藤の末、俺は村中の使っていない金属類をこっそりとかき集め、

半年掛けてようやく村の名を冠した剣、『クラリアの剣』を作り出ことに成功した。

まぁ、本物の剣と言っても鉄やらアルミやら色んな金属が混ざってる模造剣なのだが。

今はそんなことより使えることが大事。いつか俺が本物の剣を持つまで我慢だ。

ちなみに強度が心配になった人がいるだろうが、勿論、大丈夫ではない。

俺の使い方が悪い時はすぐ折れる。

ただ何度折れようと俺の生成魔法で直せるのでなんとか形を保ててるという感じだ。


と、そんな感じで俺は今でも『最強』になる為に毎日頑張っている。

折角の異世界なのでカッコいい魔法をバンバン撃ってみたいという気持ちはあるが、

そもそもこんな田舎で魔法が使えたところでここには魔法に関する知識が碌にないし、

見本となる人物がいないので、なんだかんだで剣士の道を選んで良かったと思う。

剣士……ではないが、近接戦の見本なら身近に父さんがいるし、

剣なら難しいことは考えず、振ってるだけである程度強くなれる。


「よし。今日はそろそろ終わりにするか」


夕日が顔を出し、空がオレンジ色になり始めた頃。

俺は特訓を切り上げて、家に帰ろうとする。


その時だった。


「おい、こっちだ!こっちから物凄い音がしたぞ!!」

「気をつけろ!結界が破れて、魔物が出たのかもしれねぇぞ!」


村の方から木が倒れる音を聞きつけた住人たちが数人でこっちへ向かってくる。

それを察知した俺は両断した大木を生成魔法で綺麗に直し、慌ててその木の上へ登った。

そして、完全に葉の中に身を隠すと下を覗いてみる。

すると、そこにやってきたのは村の比較的若い男3人組。


ここは村から少し離れてるし、今までも大丈夫だったから問題ないと思ったんだが。

何かの用事で近くまで来てたのか?

…………危なかった。


「あれ?何ともなってないな?」

「結界も破れてねぇぞ」

「おかしいな。確かにこの辺で雷が落ちたような音がしたんだが」


到着するや否や、何もおかしなところがないその光景を見て困惑する3人。

俺の存在にも、ある異変にも気づいていないようだ。


「空耳だったか?」

「いや、3人揃って空耳はあり得ねぇだろ」

「けど実際、何ともなってねぇからな」

「うーん。………一応、村長に報告だけしとくか」

「あぁ」「そうだな」


そう言って3人は浮かない表情をして村の方へと帰っていった。

と思ったら三人衆の1人が突然、立ち止まって振り返る。

下に飛び降りようとしていた……というか、飛び降り始めていた俺は

空中で慌てて木の枝を掴み、右手一本でなんとか踏みとどまる。


「?」

「おい、どうした?」

「いや、そういえば、ここにこんな木あったかなぁって」


「っ!」


ヤベッ。とうとう気づいてしまった。

元々更地のこの場所にこんな大木などなかったことに。


この大木は俺が剣生成と同時に並行して作ったものだ。

あらゆる木材を集めて剣同様、半年掛けてここまでのものにした。

これはマズイ。母さんは俺がここで遊んでいることを知っている。

そこと関連付けられたら終わりだ。

これまで隠してきた俺の秘密特訓がバレてしまう。


っていうか、それよりもまず右手が死ぬ!!

普通に今までしてきたどの特訓よりキツい!!!

…………あっ、これ、いい訓練になるかも。

って、それどころじゃないだろ!!!!

耐えろ、耐えるんだ、俺!!!!!


「何言ってんだ、あったろ。昔から」

「そうかぁ?」

「まぁ、俺らあんまりここら辺まで来ることねぇからな。

 あったとしても気付きようないだろ」

「確かに。そう言われてみればあったような気もしなくもないような」

「だからあったって言ってんだろ。早く行こうぜ」

「はぁ、分かったよ」


そう言って3人はようやく村の方へと帰っていく。

それと同時に俺の右手も限界を迎えて俺は木から落下した。


「イテッ」


着地の際、俺は尻餅をついて反射的に声を上げる。

しかし、無属性魔法で身体を強化していたので実際にはあまり痛みはなかった。

重力と戦い続けていた右手はメチャクチャ痛むけど。


「つうか、マジで危なかったな」


危うく全部バレるところだった。

今度からはもっと周りに注意してやるようにしよう。


「…………って、ヤベ。早く帰らないと母さんに怒られる」



 ◆◇◆◇



「んー!今日も美味しそうねー!」


食卓に並べられた料理を見て母さんが興奮した様子でそう告げる。

俺は1年くらい前から自分で料理を作るようになっていた。

前世では専属の料理人がいたのであまり料理をしたことがなかったのだが、

簡単なレシピや栄養知識なら頭に入っている。

なので、まぁ、あんまりこういうのを言うべきではないんだろうが、

正直、母さんより俺の方が美味しい料理を作れてしまうのだ。

それに俺の生成魔法を使えば、前世の料理で使われていた便利グッズを創り出せる。

ここにあるピーラーや手動ミキサーなどは俺が創り出したものだ。

よって、これらの物を使いこなすという意味でも俺が料理した方が手っ取り早い。


「ねぇねぇ、アレンちゃん。これは何ていう料理なの!?」


そう言って母さんは今回のメイン料理である美しいロゼ色と薄く切られた鹿肉が

が特徴的な料理、ローストヴェニソンを指差す。


「それは昨日、父さんが仕留めた鹿のロース、背中の部分の肉をもらって、

 それに味付けて、表面焼いて、中にじっくり熱を入れたローストヴェニソンって料理だよ」


「へー!美味しそうね!」

「…………これ、赤いけど食えるのか?」


母さんはあまり気にならなかったのかそこを注意しなかったが、

代わりに父さんがしっかりとそのベタな質問をしてくる。

この質問絶対にされると思ってたけど、質問しない人とする人、逆であって欲しかった。


ローストヴェニソン。みんなに親しまれてる似たものだと、ローストビーフ。

その料理自体がこういうものだというのはみんな知っていると思う。

まぁ、知らない人はどうして赤くても大丈夫なのか自分で調べてくれ。

ここで大事なのは別にそこじゃない。


俺がここで話したいのはこの世界での衛生面の話。

特に寄生虫と細菌についての話だ。

実はこの世界の肉は驚くべきことにどんな肉でも生で食えてしまう。

まぁ、その生物が毒とか持ってたりしたら流石にアウトではあるが。

寄生虫と細菌による食中毒の心配がこの世界にはない。


その理由は俺が考えるに魔力にある。

この世界では例外なく全ての生物が魔力を持っている……と言われている。(村長情報)

人間は勿論、牛、豚、鹿、そこら辺にいる虫でさえ微量な魔力を持っているらしい。(村長情報)

そして、その魔力を一定以上有した人型以外の動物が魔物と言われるわけだ。

まぁ、それは一旦置いておいて、この魔力は寄生虫や菌から身を守る効果を持っている。

と俺は考えている。(多分、これ確定)

元々、肉を生で食えると思っていたこの世界の人達には分からないかも知れないが、

そうじゃなきゃ肉を生で食って大丈夫なんてあり得ない。

それを裏付ける証拠としてこの世界の人間はほぼ風邪を引かない。

俺もこの世界に来て熱を出したのは真夏の猛暑日の中、剣をひたすら振り続けたあの日の次の日だけだ。

(まぁ、その日も俺は特訓したが)


と、こんな感じに魔力が細菌や寄生虫を防ぐ効果を持っていると考えられる証拠がいっぱい揃っている。

よって、さっきも言った通り、この世界の肉は生で食えてしまうのだ。


しかし、この世界で肉を生で食べるのはあまり好まれていない。

理由は明白。ある程度、火を通した方が美味いからである。

この世界にはユッケを作れるような調味料も揃ってないしな。

だから、殆どの料理が火を通して提供される為、

肉が生で食えることはあまり知られていないのだ。


「へー。そうなのか」

「アレンちゃんは物知りね〜!」


寄生虫や細菌のことまで説明すると、なんでそんなこと知ってるのとなるので、

そこを省いて2人に料理の説明をすると、2人は感心した表情を浮かべる。


「いや、父さんは狩りしてるんだし、このくらい知っておこうよ。

 あと、逆に母さんは気にしなさすぎ。もっと注意深くならないと」


「ごめんなさーい」

「いやぁ、面目ねぇ」


揃って謝罪する2人。

そんな2人を見て俺は改めて思う。


やっぱりだ。8年間この世界で生きてきて思ったのだが、

父さん母さんを筆頭にこの村の住人達は新しい知識への欲が薄いように思える。

いや、もしかしたらこの意識はこの村だけじゃなくこの世界の住人共通なのかもしれない。

魔法という便利な力があるが故にあまり技術というものに頼ろうとしない。

おそらく便利なものがあれば使うくらいの意識なんだろう。

新たに生み出そう、発見しようといった気概が希薄。

だから、地球のように中々、新しいものが進まない。


…………だとするなら、もしかすると、あっちの世界の品をこっちで売れば大儲け出来るのでは?


『ブルッ』


「っ!?」


な、なんだ、今の寒気は。


「アレンちゃん、どうしたの?」

「早く食べようぜ、待ちきれねぇ」


「う、うん。そうだね…………」


ま、まぁ、とりあえず、まだいいか。

この家族が本当にお金に困った時の最終手段として残しておこう。

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