転生 side:ウィル

「はぁぁぁあああ」


俺は凄まじい二度寝の誘惑を感じ、大きなあくびをする。


早い事で俺がウィルミスことウィルに転生してからもう5年の歳月が経った。

俺は引きこもり隠キャの下沢安人からシュタイン公爵家三男、

ウィルミス・フォン・シュタインに転生した。


シュタイン家は数百年前に実在した大賢者、エリュード・フォン・シュタインの末裔で

何百年も前から代々この国、ホイルンド王国の繁栄に尽力している歴史ある貴族らしい。

そんなんだからやっぱり力がすごく、家はクソデカいし、使用人がうじゃうじゃいる。

正直、ここまでとは思ってもみなかった。


まぁ、でも、部屋も使用人もどれだけいても困るようなもんじゃないし、

第一、いい家に生まれたいって言ったのは俺なのでそこに文句はない。


…………そこには、な。

けど、俺の顔には文句がある。


後で紹介するが、俺の家族は全員、整った顔面をお持ちだ。

母親はメチャクチャ美人だし、父親はむちゃくちゃ男前。

だから遺伝子的に失敗しようがないんだ。

実際にそれを2人の兄が証明してるわけだし。


なのに!なのに!!!

何故か俺の顔はそこそこ中くらいの顔に収まった。


…………信じられません。

まさに、文字通りの神の悪戯。

どこかで見たことある目だと思ったら前世と同じような死んだ目だよ。

願い叶えてもらっておいて何だけど、絶対に許さないからな。

とりあえず、今度また喋れる機会があったら文句を言おうと思う。



『ギィィィィィィィ』


家の中とは思えないどデカい扉を小さな身体で開け、

呑気に頭を掻きながら俺はみんなの集まる食堂へと入っていく。

すると、そこにはたくさんのメイドと執事が壁に沿うようにズラーっと並んでいた。

更にその真ん中には美女とイケメンと美少年が食事の並べられた大きなテーブルを囲んで座っている。


「おはよう、ウィル」


食堂に入るや否や、そんな耳心地の良い優しい声が俺の耳に入り込んでくる。

その声の主は綺麗な金髪を靡かせ、純白のドレスに身を包んだ絶世の美女。

この人の名前はイレーナ・フォン・シュタイン。俺の今世の母親だ。

イレーナ母さんはメチャクチャ優しくて、しっかり者。

使用人にも当然、俺たち息子からも慕われててこの家の癒しの存在だ。


「うん、おはよぉ」


俺はそんな気の抜けた声で返事を返すと用意された自分の席に着席する。

貴族、それも公爵家となれば扉を開けるとか、

椅子を引くとかは普通、メイドさんがやってくれるのだが、

俺は自分のペースを崩されるのが嫌いなので自分でやると言ってある。

まぁ、そうすると怒られるんだけど。


「ふふっ。ウィルは相変わらず、今日も眠そうだね」


そう言って俺の隣で可愛らしく頬を緩ませる金髪美少年。

思わず顔を背けたくなるほど憎たらしいその顔の持ち主は

エルド・フォン・シュタイン。こちらは俺のお兄さんだ。

エルド兄さんも母さんの血を濃く引いたのか、優しく気さくでいつも気遣ってくれる。

だから、憎たらしいイケメンでも特例として許すことにしている。

ちなみにたしか俺と7歳差だったからエルド兄さんは今12歳だった筈だ。


そして、エルド兄さんの他にもう1人、俺には兄がいる。

今は学園に行っていて、そこで寮暮らしをしてるからこの家にはいないが、

アイゼル兄さんという俺の10歳上のイケメンだ。

ちなみにアイゼル兄さんは長男で才覚も申し分ない為、シュタイン家次期当主となる予定。

ここで俺らが当主になりたいとなったらまた話が拗れたりするのだが、

エルド兄さんは騎士団に入りたくて俺は絶対に当主なんてごめんなのでほぼ確定だ。


「あのね、エルド兄さん。俺は眠そうじゃなくて、眠いんだよ。

みんな、よくこんな朝早くに起きれるよね」


「まぁ、もう8時だからね。8時3分……」


エルド兄さんは時計を見てそう言うと、気づいてはいけないことに気づく。

シュタイン家では朝と夜は絶対に家族で食卓を囲むという決まりがある。

その時間はいつも決められていて、夜は19時。そして、朝は、


「ウィル、3分遅刻だぞ」


食堂全体に少し怒りの混じったイケボが響き渡る。

その声の主は……、俺の父親、オルトス・フォン・シュタイン。

この家の大黒柱にしてシュタイン家現当主の男だ。


「ウッ……。いや、出た時はたしかに8時だったんだけどなぁ」


そんな通るはずもない言い訳で切り抜けようとする俺。

それを聞いたオルトス父さんは「ハァ」と深くため息を吐いた。


「全く。お前はいつになったら自分が貴族だという自覚が出るんだ」


「い、いやぁー、でも、僕、まだ5歳児だし…………」


「5歳として扱われたいなら5歳らしく振る舞え」


んな、無茶苦茶な。

こちとら精神年齢前世と足して22歳だぞ。


ちなみにだが、うちのパピーもマミーもお兄たまもまだ俺が転生者だということは気づいてないらしい。まぁ、俺も別に隠しているつもりはないので、気づかれるのも時間の問題だと思うけど。

実際、俺の態度とか言葉使いが年相応じゃないなと思ってるみたいだし。


「まあまあ、父様。朝ごはんも冷めちゃうし、説教は後にしようよ。

ウィルには後で僕からも言っておくからさ」


おぉ、流石、エルド兄さん。

イケメンすぎる。


「はぁ。まぁ、そうだな。せっかく作ってもらったのに冷めては悪い」


うぇーい。

今日は説教タイムが短かった。

ありがとう、エルド兄さん。


「それじゃあ、命に感謝を」


「「「感謝を」」」


そう言って日本で言う「いただきます」のような挨拶をすると、

俺は目の前に用意された豪華な食事に手をつけていく。

出来立ての数種類のパンにサラダ、目玉焼きみたいなのにソーセージみたいなの。

the朝食って感じのメニューではあるが、一つ一つに細かな工夫がしてあり、とても美味い。

前世ではカップ麺ばっかだった俺にとってはこっちの食事の方が好きだったりする。

ここら辺はやっぱり貴族の恩恵を感じるよなー。


「それでウィル、最近はちゃんと魔法の練習をしてるのか?」


「……………………………。」


楽しい朝食タイムにいきなりぶっ込まれた質問。

俺のパンに伸ばしていた手が止まる。


「…………し、してるよ。ね、エルド兄さん(嘘)」


「えっ!?えっと……、う、うん、まぁ。してるっちゃしてるけど…………、

ほ、殆ど、僕の魔法を見てるだけかな。日陰で」


なっ!?エルド兄さん!!?


「ウィル、そうなのか?」


信じていた兄に裏切られ、窮地に立たされる俺。

エルド兄さんの方に顔を向けると、エルド兄さんはすっかり顔を背けていた。

クソッ、許さんぞ、裏切り者め。


「どうなんだ、ウィル」


「まぁ、そうとも言えなくも無いっていうか…………。

…………はい、サボってました。すいません」


俺の頭ではこっから挽回する策が思いつかず、素直に謝罪する。

すると、オルトス父さんはまた深いため息。


「あのな、いいか?お前には才能があるんだ。

お前の肉体には我らが先祖、大賢者様が宿っている」


いや、宿ってねぇよ。

ただ引きこもりの性根が染み付いてるだけだよ。


「過去、魔法属性の適正数が最も多かったのはこの家の創始者にして、

大賢者と呼ばれた大魔法師、エリュード・フォン・シュタイン様の5つが最高。

しかし、お前はそれ以上の7つの適正を持ち、しかも、もうその歳で魔法を自在に操れている」


「……………………………。」


「こんな才能を枯らす手はない。お前はエルドと共に騎士団に入り、

大賢者様をも超える大魔法師となるんだ」


「……………………………。」


話だけ聞いてれば俺が黙ってるだけのように見えただろうが、俺はちゃんと答えていた。


顔で。


「すごい納得いってない表情だね、ウィル」


俺の表情から俺の感情を読み取り、苦笑いでそう告げる裏切り者。


そりゃあ、こんな顔もしたくなる。

俺が望んだ異世界生活は知識チートで無双してスローライフルート。

決して魔法チートで魔王討伐ルートじゃない。


はぁ。それもこれも全部、神のせいだ。

顔に引き続き、こんな呪いまでつけるなんて。

大賢者と同じ炎、水、風、土、雷属性の適正に加えて、結界と氷属性の全7属性。

ホイルンド王国で確認してる属性適正数の中では歴代最高らしい。

何でかなー。何でこういういらないことしちゃうかなぁ。

転生者にはチートとかもうそういう考え方古いと思うんだけど。

そりゃあ、最初は嬉しかったけど、こんなもの貰ったら強制的に戦いの場に駆り出されるに決まってる。

実際、オルトス父さんは俺を騎士団に入れる気満々だし。


あぁー、俺もミスったよなぁ。

一年前のあの時、みんなの前で魔法使えるかなぁってやってみたりしなければ。

まさか一発で魔法出て部屋一個全焼させちゃうとは思わんやん。



「————おい、ウィル。おい」


すっかり自分の世界に入り込んでいた俺はオルトス父さんの言葉で現実に引き戻される。


「聞いているのか?」


「…………聞いてはいるよ。聞いては」


納得したかは別として。


「そうか。なら後で訓練場に来い。今日は私が直々に教えてやる」


「えー。オルトス父さんさんが……?」


「なんだ、不満か?」


「いや、不満とかないけど…………、めんどくさ」


「今なんか言ったか?」


「いえ、何もー」



シュタイン家三男、ウィルミス・フォン・シュタイン。

大賢者すら超える属性適正数と魔力量、そして、センスを合わせ持つ数百年間現れなかった『神童』

この名はもう既に他国にすら知れ渡り始めていた。

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