トリあえず、異世界少女の創作料理

孤兎葉野 あや

トリあえず、異世界少女の創作料理

「アカリ、先程ミソノと見回りをしている時に、

 近くのお店から『トリアエズナマ』という言葉が聞こえてきましたが、あれは一体何だったのでしょうか。」

私達が美園と定期的に行っている、近くに霊的な異常が無いかの見回りを終えた後、帰り道でソフィアが尋ねてくる。


「あはは、面白いところを拾ってきたね。私達にはあまり関わりが無い言葉だけど、まず『なま』はお酒の種類を示してて・・・本当はもう少し長い名前なのを、最初のほうだけ取ってきた呼び方だね。」

「なるほど、そうだったのですね・・・!」

まだお酒を飲めない私でも、どこかで耳にして知っている言葉ではあるけれど、異世界からやって来たソフィアには、分からないのも無理はない。


「あのお店は、他にも色々なお酒や料理を出す所だと思うけど、最初にその『生』と呼ぶお酒を皆で飲むのが、この国で大人が集まった時によくある風習らしくてね。

 『とりあえず生』というのは、それを確認したり、お店に注文する時に使われる言葉だよ。」

「ありがとうございます、アカリ・・・!」

そう言った後にソフィアが、少し考え込むような表情になった。


「ソフィア、何かあったの?」

「その、アカリ・・・少し思い付いたことがあるのですが、良いでしょうか。」

「うん、もちろん!」


「ありがとうございます。今日は見回りの後、夜食を買って帰ろうと話していましたが・・・私が料理を作りたいと思います。」

「えっ・・・! それは構わないけど、少し遅い時間だし、ソフィアに無理をさせることにならないよね?」


「はい! 簡単なものですし・・・この前知った『創作料理』というものを、今思い付いてしまいましたので・・・!」

「あはは、それなら大歓迎だよ。楽しみにしてるね!」

「頑張ります、アカリ・・・!」

ソフィアがきらきらした笑顔で言うのを見ていると、私も心から楽しみな気持ちになった。



*****



「アカリ、冷蔵庫に鶏肉が残っていましたよね。」

「うん。そろそろ賞味期限だから、使うにはちょうど良いと思うよ。」


「そして、本当は『ホウレンソウのシラアエ』というものを勉強しようと思っていましたが・・・」

「ああ、また買いに行けばいいんだし、ソフィアが作りたいものを優先して良いよ。」


「ありがとうございます! この三つを・・・」

「この三つを・・・?」

「そのまま焼きます!」

「え・・・?」


「あっ、お塩も良いですけど、あの町にあった少し濃いお味噌を付けるのも美味しそうですね。」

「う、うん。確かに合う気がするよ。」


「・・・・・・出来ました! その名も・・・」

「そ、その名も?」


「『トリあえず』です!」

「・・・あはは、さっき聞いた『とりあえず』の言葉に、

 鶏肉と、元々はえる料理に使おうとしたものを、そのまま焼いたのを合わせたんだね。」


「それだけではありません。アカリ、先日ミソノから借りた『ラビットクラン』の最新話で、シーナ・マイユ・メルの仲良し三人組が使っていた技を覚えていますか?」

「うん、『トリプルフラッシュ』・・・! ああ、そういうことね。」


「はい、『トリ』には異国の言葉で『三』の意味があると聞きました。

 そしてこの料理は、鶏肉・ホウレンソウ・トウフの三種類を焼いたものですから!」

「うん、確かに『トリあえず』だね。」

料理が得意な人からすれば、突っ込みどころもあるとは思うけれど、

私にとっては、ソフィアがこちらの世界について学んで、その知識をもとに作ってくれた、紛れもない創作料理だ。


「うん、美味しいよ、ソフィア・・・!」

「良かったです・・・! これなら今日のように依頼で遅くなった時にも、手早く作れますね。」


「うんうん、そういうところも考えてくれて、本当にありがとう。」

「ふふっ、アカリが喜んでくれるのが、私は一番嬉しいですから。」

ソフィアが楽しそうに笑うのを見ながら、二人で向かい合って食事をする時間は、いつも以上に温かいものに感じた。

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トリあえず、異世界少女の創作料理 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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