とりあえず。
月這山中
ユミとケイコとエリは大の親友。
幼稚園も同じ、小学校も同じ、中学も同じ、高校も同じ、大学も同じの筋金入りの大親友。
とりあえず、なんでも三人一緒。
ごはんも一緒。
「これおいしい~♡」
「マジで? 一口ちょうだい」
「うちもうちも」
旅行も一緒。
「ここあたし払うよ」
「じゃあ次、私ね」
「ごちそうさま~」
シェアハウスも一緒。
「ねえ、私のタイツしらない?」
「ごめん、あたし履いてるわ」
「うちのアイス知らない?」
「ごめん、食べたわ」
「ちょっと」
ユミとケイコとエリは大の親友。
ゲームも一緒。
「そこ! そこ敵来てる!」
「やーらーれーたー」
「かたきは取るぞ……!」
お風呂も一緒。
「温泉っていいねぇ~」
「そうだねぇ~」
「ちょっとのぼせてきた」
恋バナも一緒。
「それで彼氏が……きゃー!」
「まだ言ってないんだけど!」
「気になる~!」
ユミとケイコとエリは大の親友。
なにかとケンカするけどなかよし。
洋服もとりあい。
「私が先に見つけたんだけど!」
「あたしもこれ欲しい!」
「じゃあじゃんけんしよ、じゃんけん!」
ふとんもとりあい。
「寝違えた」
「風邪ひいた」
「うちのせいじゃないし」
きになる男子もとりあい。
「三股とかありえないわ~」
「あんな男に揃って入れ込んで~」
「バカだったよねうちら」
「もう恋なんてしないぞ、バカヤロー!」
三人はいつも一緒。
ある日、ユミとケイコがこう言った。
「私たち、本当は付き合ってたの」
「ごめんね」
エリはそれを知っていた。
「そうなんだ」
ある夜、こっそり二人きりになっていたことも知っていた。
とりあえず、見て見ぬふりをしていただけだ。
ユミとケイコは結婚式を挙げた。
エリはそれを祝福した。
「おめでとう」
ユミとケイコは車を買った。
エリはそれを祝福した。
「かっこいいよ。よかったね」
ユミとケイコは小さな家を買って住み始めた。
エリはそれを祝福した。
「幸せにね」
エリは独りになった。
「とりあうことも出来なかったなあ」
エリは独りで呟いた。
とりあえず。 月這山中 @mooncreeper
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