雲間より出ずる"エース"。

 "小説家になろう"にて、修正版を投稿しています。

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 シュネーの本名は「エーミール・シュネー・フォン=ポール」です。

――――――――――――――――――


…―――少し時を遡る…。


 「…ほら、座って下さい、大尉さん…。」

空軍補助員はニヤけながら言った。

 彼女の名は"エーリカ"と言う。

南ドイツ出身の航空整備士で、どう言う訳かシュネーと仲が良い。

「…Fräulein Erikaエーリカお嬢さん、貴女も座って下さいな。」

「HaHa…オレにFräulein嬢さんだってね。」

椅子に腰掛ける二人の前には、シュネーの乗機が佇んでいる。


 ユンカース Ju-87、B-1型。

その腹には、が搭載されていた。


「対艦用の1トン爆弾…戦艦相手に戦うのかい?」

「ええ、…目標はガングート級弩級戦艦"パリジスカヤ・コンムナパリ・コミューン"。

ロシア帝国の遺産です。」

「ロシア帝国…私大戦中の生まれだからなぁ…

物心ついた時にゃソヴィエトだったや…。」

 …彼女の口から発せられる、柔らかいオーストリア訛りは、高地ドイツ語標準語話者特有の腹から声を出すような喋り方よりも遥かに心地よい。

「…大尉さんは如何どうです?」

「私?私ですか…?」



 彼の家、フォン=ポール家は※ユンカーの家であった。

(※ユンカー…エルベ川以東の地主を指す言葉。)

古くはポーランド王国プルシ公爵領の貴族で、ユンカーの中でも特に巨大である。


 …実は、ロシア帝国にが居るのである。

名は、"ヴィクトル家"。正確には"婚姻で結ばれた"…と言うべきか。

少なくともヴィクトル家には、フォン=ポール家の血が流れていた。



「…―――私も良く知らないんですよね…。私も大戦中の生まれですから。」

「そっかぁ…。」

 ロシア革命以降、ヴィクトル家は消息を絶った。

フォン=ポール家も、ロシア皇室の惨憺たる結末を見聞きした身である。

彼等の身に何が起きたかなど、容易に想像出来るであろう。

「気を付けてよ、相手は弩級戦艦だから。」

「対空砲火を恐れる奴にゃ・・パイロットになれないよ。」

「…ふふっ…訛ってるよ、フォン=ポールポーランド出身さん?」



――――――――――――――――――



 ガタガタとを鳴らすキャノピー。

前方では、Me-109で構成される戦闘機隊が、フェオドジア沖の黒海艦隊へ向けて飛行する急降下爆撃シュトゥーカ隊を護衛していた。


 クリミア半島の港湾都市"フェオドジア"。

国防軍陸軍からの通報によれば、黒海艦隊の軽巡洋艦モトロフは、同市に展開せしドイツ軍部隊に対し艦砲射撃を行った。

 …即ち、のだ。



 ―――その時、雲中に閃光走る。

一瞬の事であったが…天空の雲にて、確かに何かが反射した。



 黒海上空。雲間より光芒が降り注ぐ。

「…―――っ!」


 …首元の無線機へ向けて、シュネーは…航空団指揮官として叫んだ。





「上空より敵機!散開!散開!散開!」


 その瞬間、前を飛ぶMe-109の翼が炎を上げて分離した!

護衛戦闘機隊は増槽を投棄し対応に当たるも、

敵機は機体を即座に上昇させ、再び航空隊に機銃を浴びせる…!


 …敵機は急降下から一瞬の間を置くこと無く、再び急上昇し攻撃を加えた。

相当の手慣れでなければ、伸し掛かる重力によって意識を手放すだろう。

…常人には成せぬ技である。即ちの機は…。



 



『大尉殿!あのノーズアートは…―――!






 …白銀に光る機体。

胴体に映し出される"大天使ミヒャエル"の姿。




『敵エース…!ロート・エスパニエンの白星っ!』


 彼の機は、スペイン内戦において撃墜数26機と言う戦果を挙げた、"ロート・エスパニエンの白星"の機体であった。


『背後に付かれた!助けてくれええぇぇ!!』


 白色に塗装されたЯк-1を操り、遥か高空より超高速で奇襲を仕掛け、その人間離れした重力耐性で敵を圧倒する。


『相手は単騎だぞ!たった一機に良いようにさせて堪るかッ!』


…そして、彼の首には、実に※2500ライヒスマルクもの懸賞金が掛かっていた。

(※2500ライヒスマルク…日本円の約350万円に相当。)



 現在、既に2機のメッサーシュミットMe-109が撃墜されている。

手が急降下爆撃シュトゥーカ隊へ伸びる前に、黒海艦隊の展開するフェオドジア沖へ辿り着かねばならぬ―――。



…己の心臓に、重音が響いた。


「…はっ!?」

…機体を揺らす機銃の。それは紛れもなく…


『大尉殿!背後に付かれました!』

…我が方の後部機銃だった。

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Das Stuka! 赤目のサン @AkamenoSan

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