大鷲はセヴァストポリへ

 只今の時刻、午後10時。

右手に制帽を抱え、柱に左肘をかけながら、窓に映る景色ルーシの惨状を眺めた。

 天上は灰色に包まれ、地にはあの憎たらしい積雪が在る。

陽は…雲に閉ざされていた。あの美しい白銀は何処へやら…。


 ふと、シュネーは傍の机に目をやった。

机上のコップでは、赤茶色が揺れている。



 甘ったるい紅茶と、仄かなアルコール。

舌の上で踊る2つの味…脳味噌を鎮めてくれる…。




 …その時、肌に温かいもの雲より射す太陽を感じた。




「…大尉殿、素晴らしい眺めですな。」


 陽に照らされ、ウクライーネの大地は白銀に煌めく。


「フライターク…君は面白い事を言いますね。」

…シュネーは、フライターク伍長の方を向いた。





「…白雪など反吐が出る・・・・・

見すぎると目をられますよ。」


…それは一瞬の事だったが、彼の碧眼が濁った気がした。



――――――――――――――――――


 煌めく黒海の畔。

煙を吹き上げる総勢40機のシュトゥーカは、※第Ⅰ航空団司令たるシュネー大尉の指揮下にあった。

※航空団司令は飛行本部小隊長を兼ねる。

 …―――1941年11月9日、急降下爆撃航空団に大命が下る・・・・・

「諸君、傾聴せよ。こちらは第Ⅰ航空団長である。」

…シュネーは胸元の無線機へ呼びかけた。

「黒海に棚引く鉤十字ハーケンクロイツは、遂に大要塞セヴァストポリを包囲するに至った。この陸軍ヘーアの大戦果は正に、我ら急降下爆撃シュトゥーカ隊の支援あってこそである。」

この時、ドイツ軍は黒海の要所、クリミア半島西岸のセヴァストポリへ達していた。

「黒海における鉤十字ハーケンクロイツ勝利ヅィークを確固たるものにすべく、急降下爆撃シュトゥーカ隊は再び舞い上がらねばならない。

…"海軍情報部B局"の齎した情報によれば、ソ連海軍イワン共は弩級戦艦『パリジスカヤ・コンムナ』に出撃命令を下した。彼女は黒海唯一の戦艦・・・・・・・であり、黒海における帝国ライヒ影響力プレゼンスを脅かす存在である。」

 …ガングート級戦艦、パリジスカヤ・コンムナ。(旧名セヴァストポリ)

ソ連海軍の弩級戦艦であり、黒海艦隊の主力艦艇であった。

「諸君、陸軍ヘーアに活躍の機会を。そして…―――」




「戦線は急降下爆撃シュトゥーカ隊の支援の下に成り立つと言う事、それを知らしめるのだ。」



 黒海の盾『パリジスカヤ・コンムナ』。

セヴァストポリ包囲戦に際し、その剣先を向けた。

…今こそ急降下爆撃機シュトゥーカは舞い上がらなくてはならぬ。

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