振り返れ過去
すみはし
切り抜いた過去
「一度だけ過去に戻れるとしたらどの地点がいい?
不幸なあなたに一度きりのチャンスをあげる」
女神と名乗る人物が声をかけてきた。
不思議と疑う気になれず信じてしまっていたのはどうしてかはわからない。
「はぁ、過去っすか…戻りたいとこだらけっすよ」
気のない返事をしてはふと過去を思い返し苦笑い。
「どれか一つ、選びなさいな。私が戻してあげる」
まず、思い返すのは俺の好きなあの子のこと。
いつの間に俺の親友とあの子、仲良くなったんだっけ。
仲良くなる前なら…俺にもチャンスはあったんだろうか。
親友があの子にしてあげたこと、全部俺がやってやれば……あの子は振り向いてくれたんだろうか。
楽しそうな二人が目に浮かぶ。
あの子の隣に居るのが俺ならなぁ…。
俺の事を気にかけてくれた子のことも頭の真ん中にぽっと現れる。
その子が別のやつに告白されそうになったときに彼氏のフリしてくれって言われた「こいつ、俺の彼女だから」ってあの台詞。
そのまま実現できていたらいくら幸せだったろう。
俺のことをしっかり見ていてくれたその子。
時たま見せる弱さから俺が守ってやれたら…そう思ったのは一度や二度ではなかった。
その子は付き合うだなんて関係を選ぶだろうか、俺が隣にずっと居ることが正しいことだろうか。
わいわいと皆で遊んでいる風景が頭に浮かんだ。
その他にもあの時こうしていたら、なんてことは山ほどある。
「戻したら、今の世界はどうなるんですか」
「そりゃあ、なかったことになるわよね」
「あー…」
あの子と並ぶ親友。気兼ねのない関係のその子。
俺が戻って、選択を変えたら、この関係はなくなるのか。
もし俺があの子の隣に居れば親友が笑うことはないのだろうか。
もし俺がその子の隣に居ればその子は本当に幸せだろうか。
「……やっぱ、いいっす。俺今の関係がなんだかんだみんなが笑えて、幸せな気がします」
しばらく考えた後の結論。女神は呆れたように笑った。
「あなた、人生損するタイプね」
「はは、知ってます」
振り返れ過去 すみはし @sumikko0020
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