4日目上

うーん。私、気を失っていたのかな。……知らない天井だ。


 嘘です。なんとなく言ってみたかっただけです。でも憧れるよね!交通事故に遭いそうな最愛の人を身を挺して庇っちゃうやつ。そして病院に搬送されて1ヶ月くらい昏睡状態になって。その間庇われた人が毎日お見舞いに来てくれて想いが深まっていくの……


 朝から何考えてるんだろう私。不謹慎だしその癖妙に細かしいし。現実逃避はやめよう。


 今私はシルファちゃんのメイド役として王立貴族学園の寮にいます。最初はなんともベタな名前と外観だな〜って失礼極まりないことを思っていたけれど、いざ中に入ってみると心踊っちゃうものね。


 私は紗枝ちゃんに勧められて1度だけ乙女ゲー?ってやつに触れてみたことがあるけれど、内装や行き交う貴族やその付き人たちはまさにゲームの中で見たことのあるようなやつなのだ。


 それに同居人の存在も頭を悩ませる。この学校の寮は生徒1人につき1人世話人を連れていけるのだが、なんと部屋は1つしか用意されない。つまり、実質シルファちゃんと同棲状態なのである。幸いベットは2つあるので、昨夜はシルファちゃんの一緒に寝たいアピールを気合と根性で捩じ伏せて1人落ち着いて眠りにつけたのだけど、どうしてもシルファちゃんの存在を意識してしまう。


 私としてはメイドという立場を利用させて、彼女が私にとんでもない命令をしてくるのではと内心とても不安。


「おはよう。佳織。早速で悪いのだけど、服、着せてちょうだい」


 あまりにも早すぎるフラグ回収に感動すら覚えるわ。でも、メアさんに言われたんだよなぁ。



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 それは屋敷に戻り、部屋に戻って荷造りをしている最中のこと。何か手伝うことはないかちメアさんが私の部屋に入ってきた。


「私から佳織様に2つ学園に行く上で注意して欲しいことを伝えます」


 人差し指を立てて、じっと私を見てくる。


「1つ目。この国の貴族はみな重度の面食いです。お見合いで婚約者を決めるしきたりから外見で人を判断する傾向が非常に強いのです。佳織様は非常に整った容姿をしていますので、同性を含めて立ち回りはゆめゆめ気をつけてください」


 そうだったのか。どうもこの世界に来てから視線を感じると思ったが、面食いだらけだったのね。あれ?じゃあもしかして……


「シルファちゃんも一目惚れの類ですかね?」


「お嬢様がどうかはわかりませんが、可能性はありますね」


 恋は情熱とはまさにこのことか。しかし、メアさんはでも、と言葉を区切って確信を持った声で話を続ける。


「お嬢様は佳織様の人柄にも好意を抱いていると思いますよ。お嬢様が自分を曝け出してのびのびをしていらっしゃるのを見るのはかなり久しいのです」


 シルファちゃんは敬語をタメ口が混ざった話し方をよくするが、何か関係があるのかな。でも、この答えをメアさんに聞くのは違う気がする。ここから先はシルファちゃんともっと関わって、答えを知らなきゃいけない気がする。私は随分シルファちゃんに絆されちゃったのよね。私がここまで誰かのことを知りたいと思ったのは初めてだ。


「そして、2つ目は私からのお願いです。どうかお嬢様のわがままをできる限り聞いてあげてください。理由は私の口からは申し上げることはできません。勝手なことを申し上げていることは重々承知です。ですが、どうか彼女の心の癒しになってあげてください」


 メアさんはそう言って、頭を深々と下げてきた。声音からも彼女が心からお願いしていることがよくわかる。


「顔をあげてください。メアさん。わかりました。多少のわがままなら引き受けてあげますよ」


 私は大変クッション性の高い胸を叩いて宣言した。


「ありがとうございます。どうか、私に代わって彼女の面倒を見てあげてください」


 私の前任はメアさんだったのか。これは下手な仕事はできないな。


ということがあり、私が現在シルファちゃんに服を着せているのである。


「寝巻きくらいは自分で脱いでくださいよ」


 そして、今の私はメイドということで彼女に対して敬語で接している。


「いやよ。佳織が脱がせてちょうだい」


 ムムム。気をよくしたシルファの口調もいつもと違う。いつにも増して遠慮のない。


「早くしないと授業に遅れてしまいますよ」


 そんなこんなでドタバタな朝支度を終え、いざ教室へ。


 貴族学園は貴族科と騎士科の2つの学科があり、貴族科には女性貴族と長男が在籍している。一方騎士科のは、次男以降の男性貴族と王国の騎士団から推薦された平民が在籍している。私たちが通うのは貴族科の2年生、それも成績上位のクラスだ。


「顔色がすぐれない様ですが、どうかなさいましたか?」


 教室に近づくにつれてシルファちゃんの表情が暗くなっていってる気がする。


「なんでもないわよ。佳織こそ心の準備はよろしくて?」


「大丈夫ですよ。私にはシルファ様がいますから」


 そうこうしていると教室に着いたらしく足が止まった。


「そ、そう。では入りますよ」


 おお!オープンキャンパスで見た大学の教室みたいだ!教室前方に大きな黒板と講義台があり、生徒が長机で授業を受けるスタイル。ちょっと大人の階段を登った感じだ。私が授業を受けるわけじゃないけど。


「私はどこに入ればよろしいですか?」


「後ろにいて。何かあったら呼ぶわ」


 授業参観の母親ポジか。ここは私渾身の後方腕組み彼女ズラをみなさんに披露せねば!!


「わかりました。授業頑張ってくださいね」


シルファちゃんは無言で頷いた。なんだか表情が硬いな。それに対応もそっけない気がする。


「元気出してください!シルファ様にそんな顔は似合いませんよ」


「ありがと。あたしなら大丈夫よ。あなたこそ授業中居眠りとかしないでよ」


 我ながら結構クサいことを言ってしまったな……でも、シルファちゃんが笑ってくれたからいいよね。



___________

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます。


面白かった! 続きが気になる! という方は⭐︎や♡、ブクマをしていただけると嬉しいです。執筆の励みになります!


今後ともよろしくお願いします。



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