3日目下〈sideシルファ〉

 しかし、本当に佳織をどうしましょうか……家に置いていって寂しい思いをさせるわけにはいきませんし。

 

「シルファ様、何か悩み事でも?」


 馬を引くメアが尋ねてきた。顔は見えないはずなのに、なぜあたしが悩んでいるとわかるのでしょうか?


「あたしが学校に行ってる間、佳織をどうしようか悩んでいます」


「私のことは気にしないでいいよ。シルファちゃんの負担になるつもりはないし」


 佳織はそう言っているが、これでは彼女との仲を深めることができない。1ヶ月というタイムリミットがあるから、1日も無駄にするわけにはいかない。


「でも、あたしは佳織と一緒にいたいです。メア、何かいい案はないかしら?」


「でしたら、佳織様を付き人として学園に連れて行ってはいかがでしょう?」


「それですわ!!」


 さすがはメア。そうよ。佳織は学生にはなれないけど、メイドとしてなら連れて行くことができるわ!


「でも、私なんかが付き人なんてできるのですか?」


 佳織は及び腰だが、あたしは彼女のメイド服姿を是非とも目に焼き付けたい。これで佳織との仲を深めつつ、極上の癒しで退屈な学園生活を色鮮やかにできる!まさにこれは一石二鳥の妙案だわ。乗るしかないわね!


「そんなことはありませんわ。あたしは佳織と一緒に学校に行きたいのです!それとも、付き人の役があなたにとって負担になってしまいますか?」


「そ、そんなことはないけど……分かった。私も学園に行きます」


 二つ返事で承諾してくれた。そうと決まれば、佳織の衣装を用意しなければいけないわ!


「メア、ミサ様のお店に向かってちょうだい。佳織に合うとっておきのメイド服を用意せねばなりませんわ!」


「分かりました。シルファ様」


 向かいから佳織の戸惑いの声が聞こえるけど気にしない。これは使命だ。義務だ!現在午後3時。ここから2時間ほどでお店に着くけれど間に合うかしら。



=================================



 日が西に傾き始めた頃、なんとか閉店前にお店に着く頃ができた。

 

「遅くに失礼します」


「い、いらっしゃいませ。シルファ嬢。今日はどう言ったご用件で」


 店の中に入ると閉店準備をしていたミサ様が顔に驚きを滲ませていた。


「急ぎで佳織のメイド服を仕立てて欲しいのですが、可能でしょうか?」


「す、すみません。無茶言って。私が止めたんですが、この子聞かなくて」


 あたしの後ろに隠れていた佳織の背中を押してミサ様の前に差し出す。


「可能ですよ。実は佳織ちゃん様のメイド服、こっそり作ってたのです」


「な、なぜに!?私、一言もメイド服欲しいなんて言ってないですよ!」


 内股になり、必死に抗議の声を上げる佳織。普段どっちかと言ったら気怠けな感じの彼女らしからない、初めて見せた色だ。


「いいからいいから。サイズ合わせなちゃだから、とっとと試着室行く」


 佳織の抵抗虚しく、ミサ様に手を引かれて試着室に連れていかれた。


 今か今かと内心ソワソワしていると、試着室のカーテンがばさっと開けられた。


「ど、どうかな?」


「か、カワーーー!!」


 待ちに待った佳織のメイド服姿!メイド服自体はオーソドックスなクラシカルロングだけど、身長に合わせて大きめにデザインされた肩口とスカート袖のフリルが佳織の可憐さを際立たせていてお人形みたいだ。極め付けは顔!頬を真っ赤に染めて下唇をギュッと噛み締めた顔からはいけないことをやっている様な背徳感を覚えて、背中がゾクゾクしてきちゃうわ。


「回ってみてくれないかしら?」


 これは全身をくまなく目に焼き付けなければ!ッハーーー!なんと、細くくびれた腰には大きな黒いリボンが!王道から一歩外れたそれは可愛さこそ覚えるが、奇抜さは全くない。むしろ、彼女の規格外でパーフェクトなスタイルを強調するいいアクセントになっている。


「いい!すごくいいよ佳織」


 思わずその体に触れたくなるが、理性がその衝動を抑えてくれる。スキンシップは切り札。まだそのときじゃないの。


「あ、あの恥ずかしいのでそろそろ着替えても?」


「いいですよ。明日からの学校がとても楽しみになりました」


 隣に佳織を控えさせての授業なんてとっても心踊る。彼女にかっこいいところを見せるチャンスよ!


 佳織がカーテンを閉めて着替えを始めると、今まで姿を現さなかったミサ様が大きな紙袋を持って近づいてきた。


「お気に召しましたか?シルファ嬢」


「ええ。あなたのデザインセンスの素晴らしさを改めて実感しましたわ」

 

「それはよかったです。あとこれは私からのささやかなプレゼントなのですが」


 そう言って袋を渡してきた。

 

「ずいぶん大きな袋ですわね。いったい何が入っているんです?」

 

「佳織ちゃんには内緒ですよ。それはですね……」

 

「な、なんと!?お見それしましたわ。あなたはあたしの期待以上の天才ですわね」

 

 ミサ様が手渡してくれたもの。今はまだお披露目できないけど、しかるべきタイミングで有効活用させてもらおう。

 

「私はあなたのことを応援していますよ」

 

「な、なぜそれを!?」

 

 ミサ様に話した覚えはない。どうして知ってるの!?

 

「シルファ嬢の佳織ちゃんへの態度を見てれば分かるわよ」

 

「そ、そうですか」

 

 そんなやりときをしていると、着替えが終わった佳織が出てきた。

 

「どうしたの?そんな大きな袋を持って」

 

「あたしもお洋服を注文していたんです」

 

 咄嗟の誤魔化にしては上出来だろう。ミサ様にさりげないアイコンタクトを渡す。

 

「こういう時のためのメイド服を作った甲斐がありましたよ」

 

「こういう時ってなんですか……」

 

 うまく話をずらせたかな。佳織が心なしげんなりしているのが少し気がかりだけど。

 

「では、あたしたちはこの辺で。しかし、本当にメイド服の代金はいらないのですか?」

 

「いいんです。佳織ちゃんがこのメイド服をうちが仕立てたことを宣伝してくれれば」

 

「私がこのメイド服を着て学校の通うのが決定事項ですか……」

 

「そんなに嫌ですか?いつもの佳織も可愛いけど、メイド服姿の佳織は取っての素敵だと思うわよ」

 

「し、シルファちゃんがそういうなら……」

 

 押しに弱すぎやしませんか?佳織はあたしが守ってあげなきゃダメね。悪い虫がつかないにしないと。


 佳織が異世界に帰るまであと28日。


_________________

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます。


正直学園要素を入れるかはとても悩みました。次回から本格的に学園編が始まります。気に入ってくださると嬉しい限りです。


面白かった! 続きが気になる!という方はぜひ⭐︎や♡、ブクマをしていただけると嬉しいです!執筆の励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

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