異世界から帰るまでにあなたが好きだと思わせてみなさい！

0日目下

　……痛った〜。どこかに頭をぶつけたのか、後頭部がズキズキと痛む。気がつくと、私はどこかの森の中に漂着していた。

　気を失っていたのでどれくらい時間が経ったのか定かじゃないけど、まだ夜のようね。木々が聳え立ち枝葉が空を覆っているが、かろうじて隙間から満月が垣間見える。

　私は徐に立ち上がり、周囲を見渡した。しかし、緑ばかりで特に収穫はない。どうしたものか。

　紗枝ちゃんがあんなに帰りの道中心配してくれたのに……大丈夫と言ってしまった私がバカみたいだ。

　ここにいても埒が開かないし、こんな森の中で女1人迷子なのは流石に怖かったので移動することにした。それにしても、あんまり寒くないな。さっきはあんなに寒かったのに。

　もしかしてここ日本じゃないのかな、なんて。心細さからつい悪い方向に考えてしまう。いけない、こんな時こそ心を強くだ私。両頬を叩いて気合いを入れ直す。動物でも出ない限り、何事もなく森を抜けられるはずだ。

　草木をかき分けて森を突き進んでいく。枝葉の隙間から差し込む月明かりに頼もしさを覚える。

　すると、突然どこかからガサガサっと何かが草をかき分けるような音がした。私は立ち止まり、体をできるだけ低くした。音がだんだん近づいてくる。逃げよう、と頭では言っているが足がすくんで一歩も動けない。

　一際大きな音が鳴ったと思ったら、小さくて半透明な生き物がぴょこっと顔を出す。プルプルもちもちなゼリー上の生き物……スライム？いや、ありえない！スライムは想像上の生き物よ。では、目の前のこのちいかわは一体……

『ピー』

　スライム(？)が小鳥のような鳴き声をあげてぴょこぴょこ跳ねながら近づいてくる。まあかわい……いわけがない！普通に怖い！私は我を忘れて全速力で逃げ出した。

　どれくらい走ったか。息を荒くして立ち止まり、その場にへたり込む。幸い、さっきのスライムもどきは追ってきていなかった。無我夢中で走っていたあまり、周りがよく見えていなかったが、どうやら森の出口はもうすぐそこのようで、人工物らしき屋根が見えてきた。何か背の高い建物があるのかしら。

　な、なにあれ……森を抜けたはいいものの、目の前に現れた巨大な石壁に驚愕天地。高さ5mを超える石壁がどこまでも続いている。

　壁に向こうから光が漏れ出ていて、人の声が聞こえてくる。きっと、街があるんだわ！で、でもどうしよう……さっきのスライムもどきといい、この石壁といいどう考えてもここ地球じゃない気がしてきた。

　メタ的に考えるとどこかに検問があるはず。しかし、こんな怪しい私を通してくれないことは想像に難くない。じゃあ、森に戻る？いや！それだけは絶対にいや！あの森に潜るには命がいくらあっても足りない気がする。

「貴様！そこで何をしている」

　壁の前でオドオドしていると、突然横から強い口調で声をかけられた。……兵士？こちらに近づいてくる男は銀の鎧を見に纏い、手には槍とランタンを携えている。いよいよ否定できなくなってきた。

　……トンネルを抜けると異世界であった。

　仮にここが異世界だとしたら何故、日本語が飛んできたのだろう？

「何をしていると聞いているんだ！」

　語気をさらに強めて詰め寄ってくる兵士さん。正直言ってめちゃくちゃ怖い。今すぐ逃げ出したい。私は恐怖心をなんとか心のうちに封じて、声を絞り出す。

「わ、私迷子なの。待ちに入れてはもらえないかしら？」

　ま、間違ったーーー！これどう見ても怪しい人だ！高身長巨乳の美少女ちゃんが迷子？こ、これでは何か訳ありなことくらいすぐ勘付かれてしまうわ！でもしょうがないじゃない！うまく言葉が出なかったの！ああ、今ほど口下手なことを呪わない日はないわ……

「ますます怪しいな。ついてこい。詳しい話を聞かせてもらおう」

　拝啓紗枝ちゃん、これから私はどうなってしまうのでしょう？だ、誰か助けて！

　連れて行かれた先は牢屋。ドラマで見たことのあるようなジメジメした石壁の個室に鉄格子。終わった。きっと、これから拷問を受けるのだわ！

　知ってること全部吐けだとか、ほんとのこと言えだとか脅されて辱められるに違いない。恐怖と肌寒さが混ざり合って体の震えが止まらない。

「これをつけてしばらく待っていろ」

　男が私に後ろを向くように指示してきて、それに従うと、ガチャ。手に重みが加わった。手錠？これ本格的にあかんやつだわ……

　いったいどれだけ時間が経っただろう。1人にされた途端涙が出てきたが、もうすっかり枯れてしまった。もうイヤよ……私が何をしたって言うのよ。独り言が反響してうるさい。

　すると、コツっコツっと靴音が響き誰かがこちらに近づいてきた。現れたのは女の子。それもとびっきりの美人さん。薄暗いここからでもわかる、艶やかな白髪のツインテールに夕日を宝石にしたような赤い目、体型は小柄で背は150cmほど。胸に青いリボンをあしらった白いワンピースに外套を羽織った少女がこちらを見つめてくる。

「あなた、名前は？」

　おまけに声もいい。勝気そうなハリのあるソプラノ。

「白瀬佳織、高校2年生です」

　私が名を名乗ると彼女は眉を動かし、右手を顎に当てて何やら考え込んでしまった。

「……今日って満月よね？もしかして、そ（・）ち（・）ら（・）の（・）世（・）界（・）も（・）満（・）月（・）だ（・）っ（・）た（・）か（・）し（・）ら（・）？」

　そららの世界？満月？もしやこの子！

「そうです！満月でした！」

「やっぱり……」

　少女はツインテールを揺らして頷くと、合点が言ったような顔を見せてきた。

「落ち着いて聞いてちょうだい。あなた、異世界から迷い込んできちゃったみたいよ」

　そうかーーー。やっぱりそうか……

「でも安心なさい！あなたの面倒はあたしが見てあげる」

　薄い胸に手を当てて自信満々に宣言するロリちゃん。

「彼女を牢屋から出してあげて、あたしが責任持って彼女を家に連れて行くから」

隣にいたのか、先ほどの兵士に命令するロリちゃん。

「そういえば、名前まだ言っていなかったわね。あたしの名前はシルファ＝ラエル＝クリストローファ。よろしくね」

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あとがき

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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P.S. 投稿時間は特に決まっておりません。編集が終わり次第自分のペースで更新していく感じですかね。