異世界から帰るまでにあなたが好きだと思わせてみなさい!

まるメガネ

0日目上

 キーンコーンカーンコーン……授業の終了を告げる鐘の音が高らかと校内に響く。睡魔との戦いもとい6限の古典の授業に何とか打ち勝ち、開放感に包まれながら大きく伸びをする私こと白瀬佳織しらせかおり、高校2年生。


 教科書を片付けたり、ロッカーから上着を取ってそれを羽織ったりと帰り支度をしていると、眼鏡っ子が遠慮がちに手を振りながら近づいてくる。


「佳織ちゃん、一緒に帰ろう」


「いいよ、紗枝さえちゃん。といっても今日も塾だから途中までだけどね」


「全然!やっぱ佳織ちゃんは偉いよね。まだ2年生なのに塾に行ってて」


 少しも残念がる素振りをせず、むしろ私を褒めてくれる紗枝ちゃんこと佐々木紗枝は私の唯一の親友。


 元来口下手な私は170cmという高身長に加え、出るところは出て、引っ込むところはキュッと引き締まった恵まれた体躯も相まって同性からは僻まれ、異性からは下卑た視線を遠巻きに注がれ、高校に入るまではおよそ友達と呼べる人がいなかった。


 紗枝ちゃんはそんな私に手を差し伸べてくれた。ほんと頭が上がらない救世主ちゃんだ。


「あっという間に寒くなったよね。つい先月まであんなに暑かったのに……」


 校門を出て、繁華街に続く歩道を2人並んで歩いていると、紗枝ちゃんが両手で体を抱きながら話しかけてくる。


「ほんとね。日が落ちるのも随分早くなったし。帰り道気をつけるのよ。紗枝ちゃん可愛いんだから変な人に絡まれちゃうかもしれないし……」


「私は大丈夫だよ。地味だし、お子様体型だし。むしろ、佳織ちゃんこそ気をつけるべきだよ!む、胸とか、その

……ご、ご立派だし、ね」


 口をもごもごさせながら、私のことを心配してくれる紗枝ちゃん、可愛いね。私の胸のこと指摘したっきり俯いておさげイジイジし出しちゃうし。


「紗枝ちゃんは相変わらず心配性だね。もう慣れてるから問題ないって何度も言ってるのに」


 これまで読モだのアイドル事務所だのいろんなスカウトマンをあしらってきた実績が私にはある。つまるところ、変な人の対応には慣れているのだ。


「そ、そうだよね。ごめんね、少ししつこかったかな」


「そんなことないよ!私は紗枝ちゃんがいつも私のこと心配してくれて嬉しいよ」


 目尻を下げて弱々しく呟きだした紗枝ちゃんを全力で励ます。口下手なところ直せたらいいのにな……つい思ってもいないそっけないことを言ってしまいがちだ。


「それはそうとして……」


私はこの空気に耐えられず、なんとか話題の転換に努めたのだった。


「じゃあね。その、塾頑張って!」


 しばらく歩いて件の塾前に着くと、紗枝ちゃんは手を振って別れを告げてくる。毎回思うが、この瞬間がなんとも寂しい。明日学校に行けばまた会えるのにね。


「うん、気をつけて帰ってね」

私も軽く手を振りかえして、塾に入っていく。


 現在時刻は午後8時。外はすっかり暗くなり、秋とは到底思えない凍てつく北風が勉強漬けで疲れた骨身に染みる。思わず塾に戻りたくなるが、自分の体に鞭打ってなんとか帰路に着く。


 なんとなく、空を見てみると黄金色の満月が私を見下ろしていた。今夜は月が綺麗ですね、なんてね。


 そんなこんなで上を向きながら北極星でも探していると、ふと何かに体が引き寄せられているような気がしてきた。なんだなんだと思って前を向き直すと、青白いモヤモヤが道中に浮かんでいた。


 ワープホール的なモヤモヤは次第に巨大化していき、それに比例して引力が強くなっていく。私は慌てて、モヤモヤと反対の方向に駆け出す。元々運動神経には自信があり、なんとかなるかもと思ったが、そんな私の淡い希望はすぐに潰えた。


「キャッ!?」


制服のスカートがバサバサとはためき、見えてはいけない聖域が見えそうになり、思わずスカートの裾を押さえ込んでしまう。その一瞬の行為が命取りだった。


 だんだん地に足がつかなくなり、遂には宙に浮いて体がワープホールの方に引き寄せられていく。私は恐怖のあまり目をつぶって両拳をギュッとに握り、脚を曲げて体を縮こまらせる。


 体の制御は完全に失われ、私は流れに身を任せてワープホールに吸い込まれていくのだった。



______________

あとがき

初めまして。まるメガネと申します。この度はこのような拙作をお読みいただきありがとうございます!


ストックがあるうちは出来れば毎日投稿、隔日投稿を心がけていきたい所存です。


楽しかった! 続きが気になる! という方は⭐︎⭐︎⭐︎やブクマをしていただけると嬉しいです!


P.S. 今日はもう1話あげたいと思います!

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